グリニッチセンター世界地図の勧め(5)
……コロンブスに対する評価その他 へ
歴史的評価には「公正中立」などと言う事は極めて少ないと考えた方が良いのではないだろうか。評価は時々の政権や思想の影響を受け大きく変化し時には逆転する事すらある。特に最近では実証的研究が進み、価値観の変化や人権意識の高まりで歴史上の人物やその事績に対する評価も大きな変化をみせている。
2020年5月米ミネアポリスで発生した白人警官による無実の黒人に対する殺傷事件を契機に黒人差別反対運動が暴徒化し、黒人奴隷売買が大規模化する切っ掛けとなった(コロンブスのアメリカ新大陸発見)に対する歴史的評価の見直しが本格化した。従来の白人、ヨーロッパ等による(コロンブス礼賛の歴史評価)の見直しを迫る運動として、様々な記念碑や銅像の破壊が始まった。奴隷制を容認したアメリカ・リッチモンドのジェファーソン・デヴィス(南部連合大統領)、リー将軍(南軍指揮官)の銅像が倒されただけでなく、6月10日にはボストンで到頭コロンブス像の首が落とされるという事態となった。 更に動きはヨーロッパに飛火し、イギリス・ブリストルでは奴隷商人の銅像が倒されて海に投げ捨てられ、オックスフォード大学では(南アメリカ鉱山王・人種差別主義者セシルローズ)の銅像撤去で揺れて居り、ロンドンではインド人に対する人種差別的な言動で有名なチャーチルの銅像が破壊される恐れがある為、鉄板で覆われたという。さらにベルギーではコンゴを植民地化し、過酷な黒人弾圧を行った国王レオポルド2世の銅像にも被害が及んでいる。
ボストンの首の無いコロンブス銅像
コロンブスに対する歴史的評価の見直しが必要だと言われる所以は、コロンブスがアメリカ大陸を発見しただけではなく、先住民のいる土地を強奪し、彼等の金銀財宝を略奪し、更には彼等を奴隷化して植民を行い、その産物を収奪する等、白人社会が労せずして優雅な生活を享受できると言う道筋を開いたからである。
彼の手法はコルテスやピサロの様な一旗揚げ度いコンキスタドールに受け継がれ、マヤ・アステカ文明やインカ文明を滅ぼし、インデイオの多数の生命と共に巨額の金銀がスペインに持ち去られる事になった。
1519年ハプスブルグ家のスペイン王カルロス1世が神聖ローマ皇帝カール5世として即位し、カトリック教会の擁護者となった。 スペインは16世紀から17世紀のヨーロッパに於ける覇権国家的な地位を得、スペインは初めての「太陽の没することなき帝国」となったが、其の財政的裏付けはコロンブスやコンキスタドール達が道を開いた中南米からの収奪した富であり、其れとは裏腹に、以降5世紀以上に及ぶラテンアメリカの従属と低開発・後進性が規定される事となった。スペインは王室の浪費と属国オランダとの独立戦争、フランスとのイタリア戦争、イギリスとの戦争等あい次ぐ戦争に戦費が嵩み国力は一気に衰退し、それに呼応してスペインの成功に触発されたオランダ、イギリス、フランス等ヨーロッパ各国の植民地主義に火が付いた。他人の犠牲により労せずして優雅な生活を得られる手法に飛びついたのである。犠牲国はアメリカからアジアに飛び火した。
コロンブスや多数のコンキスタドール達の罪は勿論重いが、それを奨励し支えていたスペイン王室や、信者獲得に狂奔したカトリック教会、植民地獲得に乗り出したイギリス等のヨーロッパ列強の責任は遥かに重大である。
グリニッチセンター世界地図の勧め(6)最終 控え書き へ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます