私はNHK紅白歌合戦が好きだ。
1966年の大みそかは東京・浜町の久松警察署の獄で聴いた。当時は“極左暴力学生”であった。中央大学のバリケード封鎖の中でも秘かに敷き詰められた貸しふとんでトランジスタラジオに耳を寄せた。振り返るとラジオで楽しむことが多かった。
「週刊金曜日」最新号の私の連載「高須芸能」では番外編として、「レコ大&紅白をめぐる“仁義なき戦い”」を特集した。私以外の3人は現役レコード会社関係者や元大手芸能事務所スタッフらが覆面で登場。ディープな紅白出場歌手の情報が飛び交った。
みそぎ会見でギリギリ出場選考に間に合った演歌歌手。ホスト文化やマイルドヤンキー層を意識してイケメンを増やした人気グループ。団塊世代に向けた大物女性歌手の中継現場。新会長と紅白担当者の“左遷”人事の関係…。とりわけ、中森明菜に対する音楽業界の関心は高く、「今年がダメでも来年は当確か」という声まであがった。
冒頭で触れたように獄の中でも紅白の関心は高い。亡くなった三浦和義も、かつての堀江貴文も…塀の中では、みんな紅白を楽しみにしていた。それが証拠に、出所した人に会うたびに、芸能人の話題として出るのは紅白の話題ばかりだ。
刑務所によっても違うだろうが、ふだんは夜9時までと定められているテレビ視聴が、大みそかは深夜まで認められているという。紅白の獄中視聴率は100%近いかもしれない。
紅白に分かれた男女の歌の競い合いは、昨今変わった。紅組に男が出たり、白組に女が出たり、性別の区別差別を超えた美輪明宏が登場したり。
いずれにしてもこの平和な歌合戦は日本特有。胸を張っていい。罪を償う人々も含めて心をひとつにできる番組なんて、そんなにない。一般家庭の視聴率が落ちているというけど、どうでもいいではないか。 (出版プロデューサー) =敬称略
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