寒い冬は、血圧上昇や血管収縮などから心筋梗塞が増える時期。その発症数は年間約15万人で、発症早期に30%が死亡し、多くは病院到着前に亡くなる。入院治療できれば死亡率は5~6%になる。典型的な症状は胸痛。しかし、性別や年齢などによっては自覚症状が異なる場合があるので注意しよう。
【15分以上続く胸痛】
心筋梗塞は、心臓へ向かう血液の通り道の冠動脈に血栓(けっせん)が詰まり、心筋の一部が壊死(えし)を起こす病気。発症時に、胸の中央から左胸にかけて強い痛みが現れるのが特徴だ。光が丘クリニック(東京都板橋区)の徳安良紀院長(循環器科専門医)が説明する。
「心筋への血流が一時的に不足する狭心症でも胸痛が起こりますが、痛みは長くても5~10分で治まります。痛みが15分以上続くときは、心筋梗塞を疑い、すぐに救急車を呼ぶべきです」
発症時間帯としては、起床後1時間以内の発症が最も多いとの研究報告が出されているという。
【症状に男女の違い】
発症率は、40歳未満では男性が女性より圧倒的に多いが、60歳以上ではほぼ同じくなり、平均発症年齢は男性が62~65歳、女性は70~74歳。女性の場合、閉経後に女性ホルモンが減少し、動脈硬化が急速に進行するためといわれている。
「典型症状は胸痛ですが、女性ではめまいや倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)などが主症状のこともまれではありません」
高齢者や糖尿病の持病がある人も、はっきりした胸の痛みが出ない「無症候性心筋梗塞」という場合がある。
「高齢者や動脈硬化の危険因子がある人は、『朝から何となく具合が悪い』というだけでも心筋梗塞を疑った方がいいのです。専門医が心電図をとれば大半は診断できます」
【疑いあれば救急車を】
発症した場合、とにかく時間との勝負になる。1度壊死した心筋組織は元に戻らないので、治療が遅れると命は助かってもその後、心不全を起こす確率が高くなるからだ。
「心筋のダメージを最小限にとどめるには、詰まった冠動脈を2~3時間以内に再開通させるのが理想です。病院に着いてから冠動脈を再開通させるまで約90分かかることがあります」
119番要請をしてから救急車で病院に着くまで平均30分とすれば、躊躇(ちゅうちょ)なく救急車を呼ぶことが最も重要になる。治療は、手や脚の付け根からカテーテル(細い管)を挿入して狭窄部を広げてステント(金属製の網目状の筒)を留置する治療法が日本では一般的だ。
「発症を見逃さないためにも、心筋梗塞の症状は胸痛だけにとらわれないことが大切です」
《心筋梗塞を疑う症状》
(1)【典型的な症状】
胸の強い痛みや圧迫感。冷汗や脂汗を伴う
(2)【女性に比較的多い症}
めまい、倦怠感、吐き気・おう吐、動悸など
(3)【高齢者や糖尿病の人】
何となく具合が悪い。元気がない