これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

妖怪、あらわる

2008年05月04日 20時43分57秒 | エッセイ
 私の視力は左が0.3、右が0.06だ。近視もあるが乱視が強く、横の線がぶれて見える横乱視だという。
 これで人を見ると、誰もが6個も8個も目のある妖怪となってしまう。頭や体の輪郭も三重、四重にぼやけて見え、まるで亡霊のよう。この世でまともな人間は私一人ではないかと思い、ちょっと怖い。
 そこでメガネをかける。魑魅魍魎の百鬼夜行が、たちまち生身の人間に変わる。これこそ「真実の窓」だ。なんと素晴らしいことか。もし関東地方に大地震が起きても、これだけは壊されたくない。メガネの有難味は、目の悪い人にしかわからないだろう。
 まだ高校生だったとき、映画『天と地と』が公開された。映画館でアルバイトをしていた友達が無料券をくれたので、喜んで観に行った。ところが、いざ劇場につきバッグを開けると、メガネが入っていなかったという失敗をしたことがある。
 10メートル以上離れたスクリーンでは、目が8個ではなく、一人残らずのっぺらぼうとなる。これでは、どれが榎木孝明なのかわからない。せいぜい、男か女かの区別がつく程度だ。
 戦の場面でも、馬に乗っているとか鎧兜をつけているなどということはわかるが、敵味方の判別はつかない。ときの声を上げ、旗を翻して何万騎もの人馬がドドドドッと殺到する、迫力満点の見せ場が台無しだ。誰かが斬られたり射られたりしても、完璧に他人事でしかない。ちんぷんかんぷんのうちに、スタッフロールが流れ出した。
 夏場のメガネはちとツライ。私はただでさえ暑さに弱いので、レンズで風をふさがれると、体感温度が2度ほど上昇するような気がする。目の周りに浮かぶ汗が忌々しく、思い切ってコンタクトレンズを作ってみた。
 コンタクトのよい点は、涼しく、鮮明に見えることだ。耳の裏も痛くならず、下を向いてもずれない。
 しかし、いらぬところまで見えすぎるという致命的な欠陥があった。
 コンタクトを入れて初めて鏡を覗き込んだとき、そこに映っている顔が信じられなくて、私は何度もまばたきを繰り返した。
 目の下のクマとたるみはなに? 目尻にはシワができているじゃないの……頬の黒ずみはシミかしら……。
 コンタクトは情け容赦なく自分を映す「現実の窓」だ。裸眼では見えず、メガネをかければ隠れてしまう部分を非常にもあぶり出し、「これがアンタよ」と客観的事実を突きつける。何とぶしつけで押しつけがましいヤツなのだろう。
 コンタクトレンズをつけると、妖怪は鏡の中に現れる。
 いつの間に、こんな顔になってしまったのやら。

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2 コメント

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コンタクトは恐い (鹿島田の純)
2009-02-28 05:14:43
普段は眼鏡が無いと生活できない位、目が悪いですが、

携帯や新聞は眼鏡を外して見てます。(眼鏡だと見えない)

だから、コンタクトにしたらおそらく携帯や新聞が読めなくなりそうな気がしてます。

小学生の時に音楽の先生が、疲れてコンタクトを外さないで寝てしまい、コンタクトがめんたまの後ろにいって何も見えなくなり、焦った

と聞いた事があり、コンタクトだけは辞めようと幼心に誓ったもんでして!
怖いですね (砂希)
2009-02-28 08:10:55
純さん、私の友人は、コンタクトに角膜がくっつき、はがれてしまったと言っていました。
でも、視力は回復したようですから、再生できるらしいです。
かなりの激痛だったと聞きました。
私もそれを聞いたときは「コンタクトは怖い」と思ったのですが…。
幸い、私は今のところなんともないですね。
いつまでもコンタクトが入れられるわけじゃないと言っていた同僚がいます。
50歳を過ぎるとダメだとか。
老眼と両立できないということでしょうね。

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