入院中の祖母を見舞うため、高2の娘が一人で宇都宮まで行くことになった。
「さっき、ミキがおばあちゃんに欲しいものを聞いたんだけど、何もないって。花も水替えが大変だからいらないってさ」
もらったばかりのメールを見て、娘は困惑気味だ。
「手ぶらで行ってもいいの?」
「うーん」
祖母、つまり私の母は、昔から自分の希望を口にすることが苦手である。「あれが欲しい、これが欲しい」と言えず、いつも誰かが察してくれるのを待っている。希望が叶えば大喜びなのだが、気づいてもらえないと不機嫌になる。厄介な性格なのだ。
頭の中を引っかきまわし、母の好きそうなものを思い出してみた。
「そうだ、怖い本だ」
「えっ、怖い本?」
たとえば、これ。
それから、これも。
「ええっ、こんなの、ミキが持っていくの!?」
怖い話が苦手な娘は、一瞬「手ぶらのほうがマシかも」という顔を見せたが、それ以上は言わずにバッグにしまい込んだ。
「あと、コーヒー」
母は、甘くてミルクの入ったコーヒーを好む。
「じゃあ、これも持って行ってね」
「ひー、重い! 肩が抜ける!!」
娘は、昼ごろ出かけると言う。
仕事の合間に携帯を見ると、娘からのメールが届いていた。
「湘南新宿ラインに乗り遅れた~! 新幹線で行くわ」
ケッ! と鼻にシワを寄せたくなる。新幹線のほうが難しいのに、切符が買えるのか疑問だ。
だが、どうにかなったらしい。
「無事、病院に到着!」
「今日はおじいちゃんも来てる。駅まで一緒に帰るからね」
「帰りの湘南新宿ラインに乗ったよ」
「家に着いた」
続々と届くメールを読み、高校生は侮れないぞと驚いた。親が思っているより、しっかりしているものらしい。
「ただいま」
帰宅すると、先に帰っていた娘が出迎えてくれた。
「宇都宮、どうだった?」
「楽しかったよ」
「おみやげ屋さんがたくさんあったでしょ。何か買った?」
「新幹線に乗ったから、お金がなくなって買えなかった。高いんだね」
しかし、みやげものの袋が置いてある。
「あ、それはね、おじいちゃんが買ってくれたの。雨が降ってきたから、傘も買ってくれた」
「ふーん、いいとこあるじゃん」
まったく病院に顔を見せない父だが、いいタイミングで来てくれたようだ。
袋を開けると、萩の月のようなお菓子が出てきた。
「うまーい」
ふわふわのカステラの中には、甘酸っぱいとちおとめのジャムが入っている。
これはなかなか。
「おばあちゃんは元気だった?」
「うん。管が抜けたって言ってたよ」
「そっか」
「コーヒー、すごく喜んでた。渡したらすぐフタを開けて、ガブガブ飲み始めたんだよ。一気に半分くらい減ってた」
「……すごいね」
その後、私の携帯にも、「コーヒーおいしかった」というメールが届いた。これはヒットだったらしい。
しかし、マンガはイマイチだったようだ。
「お母さん、おばあちゃんが、マンガは怖くないってメールしてきた」
「あらま」
こうなると、意地でも怖いと言わせたくなってくる。
私が怖いと思うマンガは、つのだじろう氏の『うしろの百太郎』と『恐怖新聞』だ。
アマゾンで売ってるかしらん?
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クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「さっき、ミキがおばあちゃんに欲しいものを聞いたんだけど、何もないって。花も水替えが大変だからいらないってさ」
もらったばかりのメールを見て、娘は困惑気味だ。
「手ぶらで行ってもいいの?」
「うーん」
祖母、つまり私の母は、昔から自分の希望を口にすることが苦手である。「あれが欲しい、これが欲しい」と言えず、いつも誰かが察してくれるのを待っている。希望が叶えば大喜びなのだが、気づいてもらえないと不機嫌になる。厄介な性格なのだ。
頭の中を引っかきまわし、母の好きそうなものを思い出してみた。
「そうだ、怖い本だ」
「えっ、怖い本?」
たとえば、これ。
それから、これも。
「ええっ、こんなの、ミキが持っていくの!?」
怖い話が苦手な娘は、一瞬「手ぶらのほうがマシかも」という顔を見せたが、それ以上は言わずにバッグにしまい込んだ。
「あと、コーヒー」
母は、甘くてミルクの入ったコーヒーを好む。
「じゃあ、これも持って行ってね」
「ひー、重い! 肩が抜ける!!」
娘は、昼ごろ出かけると言う。
仕事の合間に携帯を見ると、娘からのメールが届いていた。
「湘南新宿ラインに乗り遅れた~! 新幹線で行くわ」
ケッ! と鼻にシワを寄せたくなる。新幹線のほうが難しいのに、切符が買えるのか疑問だ。
だが、どうにかなったらしい。
「無事、病院に到着!」
「今日はおじいちゃんも来てる。駅まで一緒に帰るからね」
「帰りの湘南新宿ラインに乗ったよ」
「家に着いた」
続々と届くメールを読み、高校生は侮れないぞと驚いた。親が思っているより、しっかりしているものらしい。
「ただいま」
帰宅すると、先に帰っていた娘が出迎えてくれた。
「宇都宮、どうだった?」
「楽しかったよ」
「おみやげ屋さんがたくさんあったでしょ。何か買った?」
「新幹線に乗ったから、お金がなくなって買えなかった。高いんだね」
しかし、みやげものの袋が置いてある。
「あ、それはね、おじいちゃんが買ってくれたの。雨が降ってきたから、傘も買ってくれた」
「ふーん、いいとこあるじゃん」
まったく病院に顔を見せない父だが、いいタイミングで来てくれたようだ。
袋を開けると、萩の月のようなお菓子が出てきた。
「うまーい」
ふわふわのカステラの中には、甘酸っぱいとちおとめのジャムが入っている。
これはなかなか。
「おばあちゃんは元気だった?」
「うん。管が抜けたって言ってたよ」
「そっか」
「コーヒー、すごく喜んでた。渡したらすぐフタを開けて、ガブガブ飲み始めたんだよ。一気に半分くらい減ってた」
「……すごいね」
その後、私の携帯にも、「コーヒーおいしかった」というメールが届いた。これはヒットだったらしい。
しかし、マンガはイマイチだったようだ。
「お母さん、おばあちゃんが、マンガは怖くないってメールしてきた」
「あらま」
こうなると、意地でも怖いと言わせたくなってくる。
私が怖いと思うマンガは、つのだじろう氏の『うしろの百太郎』と『恐怖新聞』だ。
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