これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

図書館と返却期限

2012年10月28日 20時40分28秒 | エッセイ
 ベストセラー小説『ビブリア古書堂の事件手帖』では、文中に何冊もの本が紹介されている。図書館の先生から、そのうちの何冊かを読んでみないかと勧められた。
「これが『クラクラ日記』です。でも、ちょっと重いかなぁ。こっちの『せどり男爵数奇譚』のほうが読みやすいですよ。どうですか」
「じゃあ、『クラクラ日記』を借ります」
 借りたはいいが、ビジネス誌を年間購読したこともあり、今年は文芸書を読む時間が減った。1冊終わるまでに1~2週間かかる。返却期限を考えて、1冊ないし2冊しか借りないようにしている。
 こちらの図書館は2週間後が返却期限だが、先生の方針でかなり大らかだ。
「ちょっとくらい過ぎても構いませんよ。でも、返してくれない人もいるので、個別に催促することはあります」
 自分の本ではないから、余計に神経を使うのだそうだ。
 娘のミキが学童クラブに通っていたとき、移動図書館から電話がかかってきたことがある。
「ミキさんが借りた『はらぺこあおむし』という本が未返却です。大至急お返しください」
 隔週木曜日に、移動図書館が学童クラブにやってくる。子どもたちはそこで本を借り、2週間後に返すというサイクルで読書を楽しんでいた。しかし、返しそびれた本があるらしい。
「ああ、その本はね、ルリちゃんが借りたの。ルリちゃん、カードを忘れちゃったから、ミキのカードを貸してあげたんだよ」
「えっ、ルリちゃん? ダメだよ、あの子に貸しちゃ」
「だって~」
「図書館の人は、ミキが返さないと思っているんだよ」
 ルリちゃんという女の子は、とかく問題の多い子だ。勉強道具は忘れるし、時間は守れないし、ルール通りに行動できない。ときどきかんしゃくを起こし、友達を殴る蹴るなどの暴力をふるうものだから、親としては関わり合いになりたくなかった。
 困ったことに、母親に電話をしてもつながったためしがない。固定電話はなく、携帯電話の呼び出し音が虚しく繰り返されるだけ。折り返し電話もなく、『はらぺこあおむし』が戻るとは思えなかった。苦肉の策で、学童の先生にも事情を話してみた。運よく、何か進展があったらしく、その後の督促はない。
『クラクラ日記』を返してからしばらく経ち、図書館の先生が話しかけてきた。
「あのう、『せどり男爵数奇譚』を借りたいという人がいるものですから、そろそろ返してもらえますか?」
 私は何度も瞬きして答えた。
「えっ、お借りしてませんよね?」
「あら、そうだったかしら。貸出簿に書いてあるんだけど……」
「勧められたけれど、断った記憶があります」
「えー、じゃあ誰が持っているのかしら」
「一応、もう一度確認してみますね」
 そうは言ったものの、借りていないのだからあるはずがない。職場の机からは見つからず、自宅の書棚にも見当たらない。だが、出窓におかしなものがあった。



 持ってた~!!!!

 どうも、借りますかと勧められたときに頷いたらしいが、まったく記憶がないところが哀しい。まっさかさまにダイビングしたくらい落ち込んだ。もう一冊のタイトルよろしく、しばらく頭がクラクラしていた。

 ああ、ショック……。

 翌日、平謝りで本を返した。
「ルリちゃんが私のカードを使って……」と言い訳すればよかったかしら?


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コメント (16)
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