これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

笑っちゃいけないとき

2011年10月27日 21時28分22秒 | エッセイ
 先月受けた健康診断の結果が出た。
 私が真っ先に確認した項目は脂質である。

 HDLコレステロールも、LDLコレステロールも異常なし。よかった!

 数字を見て、私は胸をなでおろした。なにしろ、この前読んだ本に、「更年期を迎えると、コレステロール値が上がる」と書いてあったのだ。年齢的にはそろそろだから、数字がはね上がってたら立ち直れないところだった。
 ホッ。
 身長は、毎年「155.0cm」で何の変化もないが、そのうち縮んでくるのだろうか……。あまり考えたくはない。
 今回は、診察医がベテランの女性だった。心音を聞いたり、問診したりするのだが、少々声が大きい。カーテンで仕切られただけの、ちゃちな空間では、会話が筒抜けである。
「腹囲は10cmオーバーです」
 断じて、私のことではない。私の前にいた50代男性、イトウ先生が言われていたのだ。耳をダンボにしていたわけではないけれども、聞こえてしまった。瞬間、「ぷぷぷ」と噴出しそうになったが、後ろに人がいたので、必死で我慢した。
 無理に笑いをこらえると、胸がキュッと締め付けられるように痛くなる。口角が上がるのを悟られまいと、わざとらしく「エヘン、エヘン」と咳払いして、何とか乗り切った。
 男性の腹囲は、90cm以上でメタボといわれるらしい。イトウ先生は、プラス10cmだから、100cmなのだろうか。たしかに、彼は妊婦のような立派なお腹をしている。中には何が入っているのやら。
 健康診断のあと、2年のクラスで試験監督をしていたら、たまたまイトウ先生が通りかかった。廊下で足を止め、なぜかこちらを見ている。何か言いたそうだったが、試験中のためか、そのまま通り過ぎた。あとから、その理由がわかった。
「笹木先生、さっき、2年4組にいたでしょ。あのクラス、教師用のイスが壊れていたんですよ。気づきました?」
「はい、気づきました」
「実はね、昨日、俺があのイスに座ったら、壊れちゃったんですよ。いきなりバラバラになるもんだから、床に尾てい骨を打ち付けて、まだ痛いです」
 頭の中に、「腹囲は10cmオーバーです」という言葉がこだまする。
 とたんに、私は胸を押さえ、「エヘン、エヘン」と咳き込みはじめた。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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