3日前から歯茎が痛い。炎症を起こし、腫れている。虫歯ではないようだが、疲れやストレスなどで、免疫力が落ちているのかもしれない。
小学生のときは、よく虫歯になった。近所はヤブ医者ばかりなので、母が評判のいい歯科を探してきた。バスで15分ほどかかるけれども、「むやみ抜かず、いつまでも自分の歯で噛めるように治療をします」という方針らしい。
院内に足を踏み入れると、明るくきれいな内装に驚く。やさしそうな受付のお姉さんに呼ばれ、診察室のドアを開けた。
「こんにちは。どうしたのかな」
医師は、思いのほか、若い男性だった。顔も体も丸くて、ドラえもんを連想されたが、四次元ポケットから未来の道具を出したりはしない。他の歯科と同じように、ウイーンと不吉な音を立てる機械を手にして、ガリガリ削るだけだった。
耐えがたい痛みに、全身をこわばらせると、医師は機械を止めた。
「何だ、このくらいで痛がるなんて、だらしないなぁ。君よりも、もっと小さな子だって我慢できるよ」
そう言われては面白くない。できるかぎり力を抜いて、苦痛をやり過ごすしかなかった。もっとも、子どもの負けん気を刺激するために、わざと言っているのだろうが。
「うん、そうそう。やればできるじゃないか」
けなされたり、おだてられたりして、初日の診察を終えた。
その後も、しばらく通っていたのだが、奥歯を抜いた日のことが忘れられない。
下から永久歯が顔を出しているのに、乳歯がいつまでも居座っているので、歯茎が化膿したときがある。先生は「抜きましょう」と言い、麻酔をかけた。
ところが、この乳歯、がっしりと根を張って、かなりしぶとい。先生が、ペンチのような器具で挟んで引っ張っても、びくともしない。最初は上品だった先生も、「この、クソッ」などと口汚くつぶやき、本格的な格闘モードに突入した。
やがて、つまんでいた歯がポキッと折れた。「まだ抜けない」とウンザリしたのか、先生はてこのような器具に変えて、根元を掘り始めた。まもなく、ズボッという衝撃があって歯が抜けた。
「ああ、やっと抜けた」
先生は汗びっしょりだ。
しかし、私は抜けた歯にへばりついた、ピンク色の塊が気になった。
あれ……歯茎じゃないかしら……。
鏡を見ると、歯の抜けた跡とは別に、米粒大の穴が開いている。頑固な乳歯は、さんざん抵抗したあげく、歯茎を道連れにして旅立ったのだ。傷跡がふさがるまで、しばらく痛い思いをした。
虫歯をひと通り治療すると、何年も歯医者に行かなくなる。
学生のとき、治療跡の詰め物が取れてしまったので、久しぶりにドラえもん先生の予約を取った。
でも、少々様子がおかしい。受付のお姉さんが、「早い時間は先生がお見えにならないときもあるので、11時くらいでいかがでしょう」などと言うのだ。診療開始は9時だというのに。
予約時間に歯科に行くと、待合室には誰もいない。以前は、必ず何人かが雑誌を読みながら、順番待ちをしていたのだが……。
10分経ってから、お姉さんが私を呼んだ。
「笹木さん、先生がお見えにならないので、今日は診察できないと思います。大変申し訳ありません」
私はあぜんとした。
あとから聞いたことだが、ドラえもん先生は、すっかり酒びたりになっていたそうだ。アルコール臭をぷんぷんさせて診察したり、朝起きられなくて、予約をすっぽかしたりの繰り返しだったという。
「何だ、だらしないなぁ。他の歯科医は、ちゃんと診察しているよ」と言ってやりたくなった。
それにしても、この歯茎、早く治らないかな……。
ストレスもあるけれど、お酒で発散させるのはやめよう。
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
小学生のときは、よく虫歯になった。近所はヤブ医者ばかりなので、母が評判のいい歯科を探してきた。バスで15分ほどかかるけれども、「むやみ抜かず、いつまでも自分の歯で噛めるように治療をします」という方針らしい。
院内に足を踏み入れると、明るくきれいな内装に驚く。やさしそうな受付のお姉さんに呼ばれ、診察室のドアを開けた。
「こんにちは。どうしたのかな」
医師は、思いのほか、若い男性だった。顔も体も丸くて、ドラえもんを連想されたが、四次元ポケットから未来の道具を出したりはしない。他の歯科と同じように、ウイーンと不吉な音を立てる機械を手にして、ガリガリ削るだけだった。
耐えがたい痛みに、全身をこわばらせると、医師は機械を止めた。
「何だ、このくらいで痛がるなんて、だらしないなぁ。君よりも、もっと小さな子だって我慢できるよ」
そう言われては面白くない。できるかぎり力を抜いて、苦痛をやり過ごすしかなかった。もっとも、子どもの負けん気を刺激するために、わざと言っているのだろうが。
「うん、そうそう。やればできるじゃないか」
けなされたり、おだてられたりして、初日の診察を終えた。
その後も、しばらく通っていたのだが、奥歯を抜いた日のことが忘れられない。
下から永久歯が顔を出しているのに、乳歯がいつまでも居座っているので、歯茎が化膿したときがある。先生は「抜きましょう」と言い、麻酔をかけた。
ところが、この乳歯、がっしりと根を張って、かなりしぶとい。先生が、ペンチのような器具で挟んで引っ張っても、びくともしない。最初は上品だった先生も、「この、クソッ」などと口汚くつぶやき、本格的な格闘モードに突入した。
やがて、つまんでいた歯がポキッと折れた。「まだ抜けない」とウンザリしたのか、先生はてこのような器具に変えて、根元を掘り始めた。まもなく、ズボッという衝撃があって歯が抜けた。
「ああ、やっと抜けた」
先生は汗びっしょりだ。
しかし、私は抜けた歯にへばりついた、ピンク色の塊が気になった。
あれ……歯茎じゃないかしら……。
鏡を見ると、歯の抜けた跡とは別に、米粒大の穴が開いている。頑固な乳歯は、さんざん抵抗したあげく、歯茎を道連れにして旅立ったのだ。傷跡がふさがるまで、しばらく痛い思いをした。
虫歯をひと通り治療すると、何年も歯医者に行かなくなる。
学生のとき、治療跡の詰め物が取れてしまったので、久しぶりにドラえもん先生の予約を取った。
でも、少々様子がおかしい。受付のお姉さんが、「早い時間は先生がお見えにならないときもあるので、11時くらいでいかがでしょう」などと言うのだ。診療開始は9時だというのに。
予約時間に歯科に行くと、待合室には誰もいない。以前は、必ず何人かが雑誌を読みながら、順番待ちをしていたのだが……。
10分経ってから、お姉さんが私を呼んだ。
「笹木さん、先生がお見えにならないので、今日は診察できないと思います。大変申し訳ありません」
私はあぜんとした。
あとから聞いたことだが、ドラえもん先生は、すっかり酒びたりになっていたそうだ。アルコール臭をぷんぷんさせて診察したり、朝起きられなくて、予約をすっぽかしたりの繰り返しだったという。
「何だ、だらしないなぁ。他の歯科医は、ちゃんと診察しているよ」と言ってやりたくなった。
それにしても、この歯茎、早く治らないかな……。
ストレスもあるけれど、お酒で発散させるのはやめよう。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)