いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。
昨今の新書にありがちな “いかにも” といったタイトルの本ですが、それだけに、どの程度在り来たりの内容なのか、それともハッとするような気づきが得られるのか、著者の楠木新さんには大変失礼ではありますが、天邪鬼的興味も持ちながら手に取ってみました。
人事・労務系のキャリアを積まれた楠木さんからの数々のアドバイスの中から、私の関心をひいたところを2・3、書き留めてみましょう。
楠木さんは、会社員時代の40歳後半、体調を崩して長期休職した経験があります。「うつ状態」でした。そのときの経験をこう語っています。
(p67より引用) ただ当時、産業医が私に語った「葛藤の場面では、捨てる(居直る)作業が必要だ」という言葉がその時頭に浮かんだ。
医師などの専門家が取り組む対症療法的アプローチでは、マイナスからゼロの世界(元の状態)に戻すことが第一目標とされる。また当の本人も今の悪い状況から脱して元の状態に戻ることを強く望んでいる。しかし今までの自分の働き方やライフスタイルがメンタル不全を呼び込んだケースでは(私の場合はそうである)単に元の状態に戻るだけでは同じ繰り返しになる恐れがある。
私が休職を繰り返したのは、まさに元の状態に戻るだけでは本来の回復には至らなかったからだ。本当の回復は、元に戻ることではなく、「自分の心構えを切り換えること」「今までとは違う新しい生き方を探すこと」だというのが実感である。
これは、なるほどという指摘です。リセットして「スタートライン」自体を変えるということですが、そこには「過去を捨てる」という大きな心理的な切り替えが必要なのですね。
そして、それが「転身への決意」の大きな要素になります。
(p68より引用) 転身によって何かを得るためには、何かを終わらせなければならない。多くの人は転身によって得るものだけを考えがちではあるが実際には失うものも無視できない。何が欲しいのか何を得るのかだけではなくて、何を捨てることができるかもポイントなのである。
このハードルが最も高そうですね。何かを捨てるといっても、「最低限の生活」や「家族」といった最終的に無視することができないものも抱えているのが現実です。
となると、やはり転身がうまく行かなかったときの「戻り先」の有無は決定的に重要になります。この備えが、楠木さんが「AとB並行」型を勧める所以でもあります。
さて、本書を読んでの感想です。
さすがにご本人の実体験にもとづく内容なだけに、紹介されているアドバイスは具体的でリアリティがあります。同じような例示がたびたび登場して少々冗長なところもありましたが、十分有益な刺激になりましたね。
私も、この1~2年のうちには今の会社員生活に“一区切り”をつけ、さてこれからどうするかを決めなくてはならないステージにあります。
とはいいつつ、私自身を振り返っても何の特技もありませんし、これといってやりたいことも思いつきませんから、このままだと絵に描いたような典型的な“濡れ落ち葉(単なるリタイヤ生活)”に落ち着いてしまいそうです。
何かやり始めると“やりがい”は付いてくるように思うので、まずは何かをやることですね。「やること」が決まっていない以上、そのための具体的な準備はできませんから、まずは「やれそうなネタ」捜しから、ボチボチと始めてみましょう。