吉永小百合さん、取り立ててファンというわけではないのですが、はるか昔に放送された「夢千代日記」を観て以来、折に触れ気になっていた女優さんでした。
昨年は、吉永さんの121本目の出演作「最高の人生の見つけ方」を観、さらにその制作現場に密着取材したNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀〜吉永小百合スペシャル〜」も観て、その人柄にかなり強烈なインパクトを受けました。
本書は、その担当ディレクターが、番組制作のために10ヵ月にわたり吉永さんに密着取材した内容をもとに、彼女の“人となり”を記した著作ということで手に取ってみました。
貴重なエピソードの紹介も興味深かったのですが、やはり吉永さんが発する一言一言は刺激的ですね。語り口は穏やかではありますが、その内容の本質の鋭さ、逞しさには目を見張るものがあります。
取材初日、番組ディレクターで本書の著者である築山さんたちへの言葉。
(p24より引用) 吉永は築山たちに向かってこう言った。
「60年間、私は自分をプロだと思ったことはありません。でも、この取材を通してプロになるにはどうしたらいいか、自分を見つめ直せたらと思っています―」
最近のデジタルカメラを駆使した新しい撮影スタイルついては、
(p58より引用)
― フィルムだったら一発勝負ですが、デジタルのように細切れで同じカットを別のアングルで何度も撮る撮影はどうですか?
吉永 本当は嫌ですよ。やっぱり本番は1回というふうに思ってきましたから。でも、それは変えないといけない。この世界ではやっていけない。慣れないとね。 慣れるかどうかわからないですけど。
あれだけのキャリアを重ねている吉永さんからの「この世界ではやっていけない」という言葉は驚きですね。
その結果、デジタル手法で撮り終えての吉永さんの気づき。
(p199より引用) デジタルは、なかなか思うようにいかない部分もあるけど、自分が心をこめて演じると、それが監督にも伝わって、ひとつのシーンを作っていただける、ということが今回わかりました。一カット撮り終えて「もう一回」と言われても、腐らずにやってくこと、「継続はカなり」ということがわかりました。
そして、吉永さんが大切にしている「役の故郷への訪問」。
(p75より引用)
― どうして吉永さんは、自分の役の故郷を訪ねるのが大事だと?
吉永 やっぱり素人だからですよ。プロだったらちゃっちゃっと、撮影現場に車で乗りつけてパッと役になれるけど、私はその役のルーツとかその人がどこで生まれて、どうやって育ったのかを知らないと、なんかこう、自分の栄養にならないんですね。だからついつい来ちゃうんです。・・・
役との距離を縮める。そしてその人と同じ風に吹かれる―。その場所に立つということは、私にとって、とても重要なことなんですね。
最後に、本書を通じて私の印象に強く残ったくだりを3つ、書き留めておきます。
ひとつめは、「プロローグ」で採録されたインタビューでのやり取り。
(p3より引用)
― 吉永さんは番組のインタビューで「自分の気持ちに素直でありたい」「自分に正直でいよう」ということをおっしゃってましたけど、自分に正直に生きていらして、いかがでしたか?
吉永 難しいことはありますけど、悔いはなくなりますね。
あ、これは失敗した、これはやらなきゃよかった、これをやっておけばよかったというのはあるけど、そうやって反省はしますが、悔いるということはまずないですね。それは、自分で決めているから。自分の気持ちで選択しているから。それはとても素敵なことで、若いころにはできなかったことですね。
もうひとつは、珍しく自身の立場を語った箇所。福江島の旅館でのインタビューから。
(p89より引用) 吉永 一応、この映画の中心にいる人物として、いろんな俳優さんのいろんな演技を受け止めてるというのは、いちばん大きな仕事なのかしらと思うんですね。
だから自分がどんどん攻めていくのではない方法が、私は好きなんですよ。
そして3つめ。撮影が終わってからのインタビュー。
(p210より引用)
― ロケ中に一度も満足そうな吉永さんを見なかったのですが。
吉永 満足したら次の日からお休みですよ、もう!(笑)。そこで終わっちゃうじゃないですか!その日その日の演技を積み重ねて、それが一本の映画につながって。でも、映画を観終わって「ああ、これはもう素晴らしかった」って自分で褒めちゃったら、また次につながらないですよね、と思うんですけど、どうでしょうかねえ。・・・
あんまり自分のことを甘やかしたくないという思いはありますね。ずっと恵まれてここまできてるし、みなさんにサポートされていい思いばかりしてるから。
のぼせちゃいけないなという気はするんですよ。
― のぼせたら何がいけない?
吉永 のぼせたら、そこで終わるというか。もうその先はないというか。この年でももう少し成長したいという気持ちもあるんですよ。難しいですけどね。
それでも、吉永さんはご自身を「アマチュア」だと言い続けます・・・。