ひろむしの知りたがり日記

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鬼の目にも涙 服部半蔵の意外な一面

2012年05月06日 | 日記
「鬼半蔵」と恐れられるほどの猛将で、伊賀忍者のリーダーとしても暗躍した服部半蔵正成ですが、意外なことに、実に人間味あふれるエピソードが残されています。

天正7(1579)年7月、突然の悲劇が半蔵の主君である徳川家康を襲います。
同盟者の織田信長から、正室の築山殿<つきやまどの>と嫡男の岡崎三郎信康が、武田勝頼に内通しているという嫌疑をかけられたのです。
信長にそのことを密告したのは、その娘で、信康の正室になっていた徳姫でした。

激怒した信長は、2人の死を要求してきました。乱世にあって、信長の助力なしには徳川家が生き残っていけないことがわかっていた家康は、苦渋の決断をします。

まず8月29日に築山殿が浜松城(静岡県浜松市中区元城町)近くの小籔村という所で家康の臣下によって殺害されました。
次いで半月後には、大久保忠世<ただよ>に預けられ、居城の岡崎城(愛知県岡崎市康生町)から二俣<ふたまた>城(浜松市天竜区二俣町二俣)に移されていた信康を切腹させました。9月15日のことです。

その際に半蔵は介錯を命じられたのですが、いざその場になると、潔白を訴え、無念の思いを口にする信康の首をどうしても落とすことができず、ただ泣き伏すばかりでした。
そこで半蔵に同行していた天方通綱<あまがたみちつな>が、見兼ねて代わりに介錯しました。
家康は後年雑談の折に、「半蔵ほどの剛強の者でも、さすがに主君の子の首は打てなかった」と語ったといいます。ことあるごとに信康のことを思い出しては悲嘆にくれる家康に困惑した通綱は、たまりかねて高野山に入り、遁世してしまいました。

一方、手を下さなかった半蔵の方も、天正18(1590)年に家康の関東入国に従って江戸入りして間もなく剃髪し、西念と号します。
麹町清水谷(現在の東京都千代田区紀尾井町清水谷公園辺り)に庵居を構え、信康の遺髪をそこに埋めて菩提を弔う日々を送りました。
そして文禄2(1593)年、半蔵は家康より信康及び徳川家への忠義を貫いて命を落とした者たちの冥福を祈るために、寺院を建立するよう内命を受けました。

しかし半蔵はその完成を待つことなく、慶長元(1596)年11月14日に55歳で亡くなります。
彼の死後に完成した寺は、江戸城外堀の拡張・新設にともなって、寛永11(1634)年に清水谷から現在地へ移されました。
それがJR四ツ谷駅から程近くにある浄土宗のお寺、専称山安養院西念寺(新宿区若葉2-9)です。寺名は、半蔵の法号から取られました。


「専称山」の扁額がかかる西念寺本堂

ここには半蔵の墓と信康の供養塔があり、共に新宿区指定史跡です。
本堂に向かって右手にある半蔵の墓は、高さ2メートルの宝筺印塔<ほうきょういんとう>で、正面下部には「安誉西念大禅定門」とあり、側面には没年月日や享年が刻まれています。
そして本堂と半蔵の墓の間を行くとすぐ、葵の御紋が浮き彫りされた石扉のある五輪塔が立っています。高さは2メートル69センチ、21歳の若さで非業の死を遂げた信康の供養塔です。


服部半蔵の墓




岡崎信康の供養塔(上)とその石扉にある葵の御紋

ついでに言えば、西念寺には半蔵が戦功によって家康から拝領したという槍が保管されています。
槍先と柄の一部が欠けており、現状では全長2メートル58センチ程ですが、戦国時代の槍の標本として貴重なもので、新宿区登録有形文化財(歴史資料)になっています。
ひろむしは実物を見せていただいたことがありますが、一部を破損しているとはいえ重さは7.5キロもあり、たいそう立派なものでした。

半蔵正成が死去したのち、嫡男の半蔵正就<まさなり>が後を継ぎました。
偉大だった父と違い、正就は短気で横暴な性格で、伊賀組同心を服部家の使用人のように扱ったので、不満を抱いた部下たちが罷免を求めて寺に立て籠るという事件を起こし、それがもとで改易となります。


ここで、ひろむしからみなさまへお詫びがあります。

この前の日記では、今回服部家の末路について語ると書いたのですが、調べていくうちにいろいろとおもしろいことがわかってきました。ここで短く紹介するのは少しもったいない気がします。
そこで、急遽予定を変更して、回を改めて詳しく紹介することにいたしました。

突然のわがままで申し訳ありません。
そして、次回語る前代未聞の、忍者によるストライキ事件の顛末をお楽しみに!!



【参考文献】
「角川日本地名大辞典」編纂委員会編『角川日本地名大辞典13 東京都』角川書店、1978年
戸部新十郎著『忍者と忍術』毎日新聞社、1996年
清水昇著『江戸の隠密・御庭番』河出書房新社、2009年
歴史群像編集部編『決定版 忍者・忍術・忍器大全』学習研究社、2009年
大石学他編『現代語訳徳川実紀 家康公伝1 関ヶ原の勝利』吉川弘文館、2010年