「ペンギンの憂鬱」。アンドレイ・クルコフ著、沼野恭子訳、新潮クレスト・ブックス発行。
ソ連崩壊後に独立したウクライナの首都・キエフが舞台。売れない作家ヴィクトルは、鬱病のペンギン・ミーシャと一緒に暮らしている。恋人に去られたヴィクトルと、動物園に見捨てられたミーシャ。孤独な者同士が寄り添うように、静かに慎ましく暮らしていた。ある日、ヴィクトルの書いた小説に目を留めた新聞社から極秘の仕事が与えられる。それは、まだ生きている有名人の追悼文「十字架」を書くこと。ヴィクトルの仕事は好評で生活は安定し、めりはりができてきたが、作者として自分の名前が公表されないことに不満を感じるようにもなっていた。そして次々と死んでいく大物たちと、自分の周りの空気の変化に危険が迫るのを感じながらも、警察官のセルゲイと友情をあたため、ペンギンの研究者であるピドパールィと知り合い、ペンギンと同じ名前をもつミーシャの娘ソーニャを預かり、幸せな時間を過ごしていた。そんな時、ミーシャが重い心臓病だということがわかる。
マフィアが暗躍していたり、人の命が軽々しく扱われていたり、不穏な空気に、ソ連崩壊後のウクライナの憂鬱を随所に感じました。そんな中でペンギンのミーシャの存在は、ヴィクトルにとって救いであったように、読者にとっても欠かせない存在です。ヴィクトルが座っているとその膝に身体を押し付けてきたり、バスタブに冷たい水を入れてる音を聞きつけてペタペタとやって来て、水がたまるのを待ちきれずにバスタブに飛び込んだり。ヴィクトルをじっと見つめたり、どことなく嬉しそうだったり。なんでもわかっているように、ヴィクトルに寄り添います。物語の展開はまるでわからず、話のつかみどころを探しながら、想像しながら、どんどん読み進めていきました。終わりは、予想外の展開に少々面食らいました。そして、寒々とした灰色の重い空を眺めているように、ちょっと憂鬱な気分になりました。