ちょっといいな、ちょっと幸せ

映画、アート、食べ歩きなどなど、私のちょっといいなを書き留めました。

「ふらり。」 

2011-10-15 08:40:46 | 読書

 「ふらり。」谷口ジロー著。(講談社)。
舞台は江戸。主人公は隠居した男。男がいつものように江戸の町をふらりと散策します。日本橋、永代橋、柳橋、正覚橋、亀久橋、両国橋、大川橋。橋から橋へと歩数を数えながら歩きます。細やかな絵から四季折々の風景、市井の人の暮らしぶりが生き生きと伝わってきます。男の視線は時として、空を舞う鳶、歳月を重ねてきた桜の木、水に潜る亀、軒先を歩く猫へと夢を見るように変ります。読み進めていくうちに、名もない男は伊能忠敬だとわかります。彼が最初の蝦夷地測量に旅立つまでの準備期間を描いた作品といえます。ふらり、と外を歩く。人々が暮らし、花が咲き、見上げれば虫や鳥、広い空には雲が流れて、遠くには富士山。巻頭の「鳶」が好きです。いまも昔も変らない、時を越えて同じ景色を眺めているような気持ちになるのです。