邦題「コンサート!」。かつてロシア・ボリショイ交響楽団で天才指揮者と呼ばれたアンドレイ(アレクセイ・グジュコグ)は、共産主義時代にユダヤ人排斥を拒み解雇されて、劇場清掃員をしていた。ある日彼は、劇場に届いた出演依頼のFAXを目にして、かつてのオーケストラ仲間を集めて、ボリショイの代表としてこのコンサートで演奏しようと思いつく。
オーケストラの楽器のように個性豊かな登場人物。中心となる仲間は東欧ユダヤ人やロマで、独特のユーモアとバイタリティがあります。団員集めからパリの劇場との交渉、パスポートや楽器、服装の手配まで、コミカルなドタバタ劇に笑ったり行く末を案じたり。時折交差する暗い過去が、アンドレイの真意を窺わせます。ロマの宴会シーン、生活の中の音楽とそれを心から楽しむ人々の姿がすてきです。リハーサル会場で、ロマのヴァシリがパガニーニのカプリースを弾くシーン、さっきまで泥臭いストリート・ミュージックを蔑むようにしていたアンヌ・マリー(メラニー・ロラン)が表情を変えます。音楽に上も下もない。奇跡のような瞬間に胸が熱くなりました。そして、コンサートのシーン。それぞれの想いが解き放たれ、ひとつになって飛翔するチャイコフスキーのバイオリン協奏曲は圧巻です。バイオリンの音色にバラバラになっていた楽団員全員が30年前のあの瞬間に引き戻され、かつての情熱と無念を思い起こします。途切れた時間が、引き裂かれた想いが、つながった瞬間。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲に込められたそれぞれの想いと、魂はなくならないということを感じながら、聴き慣れた旋律がずっと心に響き続けました。音楽を離れていた人たちが起こした奇跡に出来過ぎの感はありますが、それが音楽の奇跡なのだと素直に思えます。チャイコフスキーの魔法にかけられた気分。生きていることが素晴らしいと思える映画はいいです。奇跡を信じたくなる映画はすてきです。