私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「女の子ものがたり」

2009-09-01 20:59:38 | 映画(あ行)

2009年度作品。日本映画。
高原菜都美は漫画家として成功するも、現実のギャップに迷い、無気力な日々を送っている。そんな時、ふとしたことがきっかけで、胸の奥に閉まっていた子供時代のともだちのことを思い出す――。海と山の見える小さな街に引っ越してきたなつみが出会ったのは、きいちゃんとみさちゃん。未来どころか明日さえ見えなかった子供時代。3人は逆境にあっても明るくたくましく育っていく。
監督は森岡利行。
出演は深津絵里、大後寿々花 ら。



むちゃくちゃ熱心な読者というわけではないが、それでも西原理恵子のマンガが結構好きである。
毒を吐きまくる無頼な作風もいいが、たまに見せる叙情に満ちた作風も、西原のひとつの魅力だろう。
原作は読んだことはないが、本作は西原のリリカルな要素がうまく再現されていると、見ていて思った。
そのため悲しく、切なく、美しく、暖かな印象の残る作品となっている。


映画はスランプ気味のマンガ家が友だちと一緒に過ごした少女時代を思い出すというスタイルになっている。
女の子の友情は、男の僕にはよくわからないが、少なくとも映画の中の三人は和気藹々としている。
小学生から高校生までの時間を、丁寧に見せているためか、三人の仲の良い度合いがよく伝わる。

だけど、むかしからの友だちだからと言って、いつまでも同じ関係が続くとは限らない。
この三人は別々の高校に行ってからも、仲が良いのだが、それでも将来目指すべき方向は、主人公とほかの二人では明らかに違っている。
主人公は町を出ることをなんとなく望んでいるが、ほかの二人は最終的には高校を出てすぐ結婚している。しかもその結婚は必ずしも幸福とは言えない。

そんな二人を見て、主人公の菜都美はそんな風にはなりたくない、と思っているらしい。
そんな彼女の心をむかしから気づいていたのだろう。だから友人のきいちゃんは菜都美に対して、「おまえなんか友だちなんかじゃない」「この町を出て行け」「この町に帰ってくるな」と言葉を吐くこととなる。
そこだけ抜き出すと、それはひどい言葉だ。

だけどきいちゃんのその言葉は、菜都美を傷つけるための言葉ではない。
主人公を思っているからこそ、出てきた言葉なのだ。
きいちゃんは、菜都美に対しこの町にとどまって、私たちのようになってはいけないのだ、と訴えるため、あえて突き放すような言葉を使っているように見える。
その言葉は乱暴だけど、本気で相手のことを思っていることがわかる。

一緒にいるだけが仲の良い証拠ではない。本人のために、自分たちがどうするか考えて行動することもまた友情なのだ。
そんなシンプルな事実を、そのシーンは伝えてくれる。その思いのまっすぐさと熱さが、僕の胸を強く打ってならなかった。

その後の展開もすばらしい。特にきいちゃんの娘が絡むシーンが良い。
いくらかつくりすぎではあるけれど、そこからはきいちゃんが主人公のことを思っているのが伝わってきて、感動的だ。


映画の中の女の子三人の友情は美しく、まっすぐだ。相手のことが好きだし、相手のことを本気で思っていることが画面の端々からよく伝わってくる。
いくつか問題点はあるけれど、それを補って余りある、深く響く暖かい一品となっている。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・深津絵里出演作
 「ザ・マジックアワー」
 「博士の愛した数式」
・大後寿々花出演作
 「SAYURI」

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2009-10-28 02:20:51
いつもお邪魔して、すみません。
この映画、見たくて見たくて結局予定より早くに終わったので見に行くことができませんでした。
女の子の友情は続かないとよく言われていますが、「本当にそうなのかなあ?」「みんなはどうなのかなあ?」という気持ちと「思いでぽろぽろ」の映画を想像していました。
レンタルで早く借りたいと心待ちにしています。

映画や本とのつながりがこの10年途絶えていたので、このブログがとても参考になります。
ありがとうございます。

「春の雪」も原作を読んでいないので4巻続けて読みたいと思います。
「春の雪」に続きがあったなんてとても楽しみです。
私は、映画を観てきれいな映画だなあと思いました。
原作はもっと素晴らしいと書かれたあったので、とても期待しています。

これからもいろいろと参考にさせていただきます。
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Unknown (qwer0987)
2009-10-29 21:43:26
コメントありがとうございます。
「女の子ものがたり」、僕は結構好きです。
女の子の友情は男の僕にはよくわからないけれど、映画の中の友情はあったかかったです。

ブログは思ったことを、自分の偏った好みで、好き勝手書いています。
なので、これで参考になるのか、って気持ちもありますが、何かの足しになればありがたいです。

『春の雪』は三島の作品の中でも、かなり好きで、個人的にはツボでした。
『春の雪』以降の作品も、僕は好きです。三番目の『暁の寺』が内容的に難しいですが、『春の雪』がおもしろければ、続けて読んでみる価値はあると思います。
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