Luna's " Tomorrow is a beautiful day "

こころは魔もの。暗い地下でとどろくマグマのような…。

人を助けるのに特別な技能はいらない

2006年04月23日 | Weblog
日本人は、他人を助けるには特別な技能がなくてはならないと考えがちですが、そんなことはないと思うんですよ。    

(「あなたにもできる災害ボランティア」/ スベンドリニ・カクチ・著~より、岩瀬幸代さんのことば)

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岩瀬幸代さんという方は、このような人です。

「岩瀬さんは旅行記事を書くトラベル・ライターで、これまでスリランカに6回行っています。アーユルヴェーダという伝統医療を取材するために滞在したのがきっかけで、いまではスリランカの友人がたくさんいます。
『被災者のために何かをしたいと思っているときにスリランカ大使館が寄付金を募っていることを知り、すぐに銀行に駆けつけて送金をしました。でも帰宅後、それだけでは気持ちがおさまらなかったのです。お金では表しきれない自分の気持ちをもっと目に見えるかたちで表現して、彼らを励ましたかったのです』と岩瀬さんは言います(上掲書より)」。

困難な状況にある人には、たしかに、まずお金ですよね。お古の衣料を処分がてらに送られるよりはずっと役に立てます。でも、暮らしの糧が与えられたからといって、それで被災者は慰められるでしょうか。これは個人的な想像ですが、食べ物や生活用品を施されるって、けっこうプライドが傷つくんじゃないかと思います。この点について読者のみなさんはどう思われるでしょうか。実際に慰めを得るのは、そばにいてもらえて気持ちを理解してもらい、おしゃべりや食事などを一緒にすることなのではないでしょうか。つまり、慰めを与えられる一番のものは人間そのものではないでしょうか。

岩瀬さんはまた、実際的な援助を考え出しました。「施し」を与えることではなく、生活の再建の手助けをしようと思いついたのです。現地の被災者が再び、自分で生計を立てられるようにしよう、ということです。そこで岩瀬さんは、津波被災地応援ツアーとして、「スリランカ応援プログラム」を企画されたのでした。

「観光産業に大きく依存しているスリランカを助けるには、スリランカにツアーに行くことだと、岩瀬さんは気がついたのです。観光客が旅行をキャンセルし始めたために、観光産業は大打撃を受け、ホテルやレジャー施設で働いていた多くの人たちが困っていました。津波で家族や親族を亡くし、生活を立て直そうとしている地元の人たちにとって、観光客のキャンセルは二重の痛手です。そこへニュージーランドのある旅行会社が、ボランティア活動を組み込んだ観光ツアーを企画したのをインターネットで見つけたのです。岩瀬さんは、スリランカに日本人を連れて行くことで二つの重要な目的を果たせると思えてきたのでした。一つは、被災して苦しい生活をしているスリランカの被災者たちが収入を得るチャンスをつくること、もう一つは、津波被災者に何かできることはないかと思っている日本人が救援活動に参加できるようにすることです。でもどこからはじめたらよいのでしょう。岩瀬さんはこのように言いました。『成功させるには、とにかくやってみるしかないと思ったのです』(上掲書)」。

阪神大震災のとき、心ない人たちがいて、被災者を眺めにくる人というのが実際にいたのです。そういう不快な思いをしたことがある感覚からすると、被災地に観光なんて…、と思ってしまいそうですが、被災地は観光で生計を立てている土地ですから、この観光ツアーは地元にニーズにぴったりマッチしたのです。実際的な援助というのはこういうことをいうのです。相手の必要は何かを真剣に考える、これは良好な人間関係の基本でもありますよね。

「はじめに岩瀬さんは旅行会社に『観光とボランティアの仕事』をうまく組み合わせた格安のツアーを作ってもらおうと働きかけました。でもなかなか色よい返事をもらえませんでした。あちらこちらに当たっているうちに、ようやくスリランカ航空が快諾してくれました。なんと7万円弱という、通常料金の半分以下の金額で1週間のツアーができることとなりました。岩瀬さんはまた、このツアーを紹介して参加者を募集するために、生まれて初めてホームページを作りました。そしてそこに、スリランカに行くことで救援活動に貢献できるのだというメッセージを掲載したのです。『この時期に飛行機に乗ってスリランカに行くだけでも津波の被災地にとって大きな意味があるということや、滞在中に少しでも救援活動のお手伝いをして、それがスリランカの人々の苦しみを和らげることに役立つなら、自分たちのできることをやりましょう、というようなことを書きました』。」

「こうして岩瀬さんは、2005年2月と3月に二つのスリランカ行きツアーを成功させたのです。参加者は合計107人、人道支援目的のツアーは初めてという人がほとんどでした。旅行の4日目からいよいよ救援活動が始まりました。朝食を終えた参加者は大きな日よけ帽をかぶり、首にはタオルを巻き、被災した学校に向けて出発しました。ツアーの第一陣はカルタラ地区のバンダラナヤケ・ビジャラヤ学校、第二陣はヒッカドゥワ地区にあるマハマヤ学校とゴール市にあるドダンドゥアワ学校に二校に行きました。これらはスリランカ航空が紹介してくれた学校です。ここでは家を失ったり、家族や親族を亡くした子どもたちが、拍手をして一行を迎えてくれました。

「参加者が任された仕事は校舎のペンキ塗りで、みんないそいそと仕事に取りかかりました。そのうちに教室にいた子どもたちは勉強をやめて日本人たちの仕事に加わってきました。ペンキを一緒に塗りながら、おしゃべりをして笑ったり、言葉の壁はありません。片言の英語と覚えたての簡単なシンハラ語で十分にわかりあえました。ボランティアとして働く日本人を見て、地元の人たちは、外国の人たちがどんなに自分たちのことを気にかけてくれているかがわかって感動したと言ってくれました。ある男の子は、自分がひとりぽっちじゃないことがわかったと、ツアー参加者に話したそうです。最後に、地元の人たちは、感謝の言葉を伝えながら、一生懸命働いてくれた参加者に、お礼のしるしとして、砂糖のたっぷり入った熱いセイロンティーを出してくれたのでした(上掲書)」。

この岩瀬さんの企画したツアーの最大の貢献はなんだったと思われますか? わたしは、塗装された校舎ではなく、地元の人たちの心に感動を与えたことだと思います。人間は孤独から解放してくれることをもっとも喜びます。だから、岩瀬さんはこのように述べられたのです。

「日本人は、他人を助けるには特別な技能がなくてはならないと考えがちですが、そんなことはないと思うんですよ」。