Luna's " Tomorrow is a beautiful day "

こころは魔もの。暗い地下でとどろくマグマのような…。

代価

2008年03月15日 | Weblog
一匹のオオカミが骨と皮ばかりになっていた。
イヌたちがヒツジ番として、よーっく見張っていたから。

そのオオカミが、うっかり迷い出てきた色つやがよく、
逞しい飼い犬に出会った。
「やっつけて、噛み砕いてやる…」
オオカミはもちろんそうしたかった。
ただそうするにはそのイヌと一戦交えなければならない。
が、相手のイヌは勇敢そうで、堂々たる体躯の番犬だった。
一方自分にはスタミナが残されていない。

そこでオオカミはうやうやしく近寄って、話をはじめ、お世辞をいい、
太った逞しい体に感嘆してみせた。
「僕と同じくらい太りたいかね、オオカミの旦那。
それは心がけ次第だね」とイヌは言う。

「森を去れ。そのほうがいい。
君の仲間は惨めなもんじゃないか。
能無し、文無し、あわれな奴で、飢えて死ぬのがその運命。
なぜそうなのか考えたことがあるかい?

何かにつけ、牙がたより。
戦闘能力は高いが、生活の保証はない。ただ飯にありつけないだろう?
僕についてきな。今よりはるかにましな身分になりたいなら」。

オオカミは訊く、
「どんな仕事をするんだい?」
伊には答える、
「なんにも、といっていいくらい。
杖をついて物乞いにやってくる人間を追っ払い、
家の者には愛想よく、ご主人の機嫌をとる。
それだけで、きみはお手当てとして、
若鶏の骨、はとの骨、いろいろなご馳走をもらえる。
またご主人からはうんとかわいがられるのは言うまでもない」。

オオカミは早々と、こよなき幸福を思い描いて、感激の涙にくれる。
道々話しながら歩いているうち、
オオカミはイヌのうなじの毛が薄くなっているのに気がついた。

「それはどうしたんだい?」とオオカミは怪訝に訊く。
イヌは目を合わせず、あさってのほうを向いて言う、
「なんでもないよ」
「なんでもないって?」
「つまらないことだよ、たいしたことじゃない」
「でもなんなの?」、オオカミは食い下がって訊く。

イヌはちょっと間をおいて、「首輪の跡だよ」と言う。
続けて、「ぼくをつないでおくための首輪が、たぶんこの原因だろうな」。

「つないでおくって…。じゃあ、あんたは好きなところへ走っていけないのか?」
オオカミは立ちどまり、目を瞠って聞き返した。
「うん、まあな。いつでも走り回れるって訳じゃないけどな…。
でもそんなことどうでもいいじゃないか」。
イヌは突き放すように答える。

「よかないよ。
そんなことなら、どんなご馳走も、おれはちっとも欲しいとは思わないし、
そんな犠牲を払うくらいなら、宝物だっていらないよ!」
そういうと、オオカミ先生、いちもくさんに走り去っていった。


「寓話」/ ラ・フォンテーヌ・著

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カルト宗教で得られるもの、
人間関係の「結びつき」。
でもそれは「おきて」という力による強制だった。
立場の低い層の意向が顧みられることはなかった。

カルト宗教で得られるもの、
安全。
だがそれは自分で道を拓いてゆかない、という意味での「安全」だった。
失敗はしないが、代わりに成長もしない。

カルト宗教で得られるもの、
地位と名声。
年齢で自動的に高められ、監督たちの寵愛によって立場が得られる。
代わりに、自分の秘められた素質、可能性を向上させることがない。
人に取り入る知恵だけがお上手になる。

カルトが提供したのは結局、
人に取り入って立場を分けてもらい、
上司を立てるために、自分の素質・能力を葬り去り、
リスクを負わないで、
つまり、人生における責任も逃れて、
そうやって何事もなく死んでゆける術だった。

第三者から見れば、それは単に、
現実逃避と、責任回避でしかなかった。
でもそれは「生きる」ということじゃない。

「生きる」とは、多くの多くの試行錯誤の中からたった一つの成功をこねあげること。
生きている実感はその瞬間に、
やっと到達したささやかな「成功」の一瞬に、
あるいはようやく到達した「完遂」の一瞬に、
自分の人生の全体を、全人生を、
昼間のように照らし出すくらいにまばゆく輝く。

その輝きはあまりに明るいので、
成功がたった一つだったとしても、
それだけでも、人生に十分意義を見いだすことができる。
だから。
…だから、
人生をやり直すのに、
カルトを抜けて、
新しい人生を始めるのに、
決して、決して「遅すぎる」ということがないのだ。

波風を立てることなく死んでゆくよりは、
泥だらけになって、水をかぶりながら、
そう、じたばたあがいて、
そうやって、「生きていこう」、と
わたしはそう決めている。




 人々は悪しき死を怖れる。だが、悪しき生を怖れない。

  アウレリウス・アウグスティヌス