Luna's " Tomorrow is a beautiful day "

こころは魔もの。暗い地下でとどろくマグマのような…。

「私が殺されてもいいから止めたかった」被告に脅された心理司のトラウマ 元児相心理司が語る現場 ほか2本

2020年03月03日 | Weblog

 

 

 

■児童心理司が証言

 

 千葉県野田市で栗原 心愛ちゃんを虐待して死亡させたとして、傷害致死などに問われた父勇一郎被告の裁判員裁判で、当時勤務していた児童相談所の児童心理司が証言しました。

 

 私も児童相談所で働いていた時は児童心理司でした。児童心理司というのは、児童相談所の中で働く心理の専門家であり、子どもに絵を描いてもらったり、様々な心理テストを行うことで、子どもの心の状態を判断します。そして子どもにとって、今後どのような環境で生活すべきか、どのような心のケアが必要か、児童相談所が方針を決定する際に意見を述べます。もちろん、親から離す必要があるか、家に帰して良いかどうかについても、心理の専門家の立場から、意見します。一番大事なのは子どもの心の状態であり、心愛ちゃんはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の疑いがある、と診断されたのですから、家に帰すべきではなかったのです。

 

 

 

■父勇一郎被告からの脅し

 

 心理司は父から「心理の資格を持っているのか。証明書を見せろ」と問い詰められ、身分証の職員番号をメモされ「児相ではなく、職員個人として訴える」と脅された、と報じれられいます。児童相談所で心理として、心理テストの結果などを親に伝えると、その内容に不満を抱き、激怒する親はいます。心愛ちゃんのように「トラウマがある」と言われると、自分が虐待していた、と言われているように思えるからです。自分の虐待の事実を否認する為に、心理の結果に逆上するのです。そして、勇一郎被告のように、「個人として訴えてやる」と脅す親もいます。私自身も、「訴えてやる」と言われたり、大声で怒鳴られ、「つきまとって絶対不幸にしてやる」と言われたことがありました。

 

 それでも、児童相談所の職員は、子どもの安全を最優先しなくてはなりません。心理司は、子どもの心の状態を直接みているのですから、その心の状態こそを、最優先しなくてはなりません。だからこそ、裁判で証言した心理司の方も、「私が殺されてもいいから止めたかった。今でも夢に見る」と泣きながら証言したのだと思います。心の底から悔やんでいるのだと思います。今も、苦しみ続けているのだと思います。

 

 そして、児童相談所の職員は、親に対する発言も、業務として行っているのですから、個人で訴えられることに怯える必要はないのです。親が訴えられるのは児童相談所であって、仮に「態度が悪い」「発言が許せない」などの理由で、個人で訴えられたとしても、児童相談所という組織が、職員を守るべきなのです。

 

 そうは言っても、「訴える」と言われれば、怖いのは事実です。千葉県の教育委員会が父親の脅しに屈して、心愛ちゃんのアンケートを渡してしまったように、執拗に脅されれば、いう通りにしてしまいたくなります。子どもを守る児童相談所の職員が、脅しに対して恐怖心を抱いてしまうのは、組織の体制の問題です。私自身も、児童相談所勤務時代は、訴訟保険に入っていました。職員は全員入るように上司から勧められていました。訴訟保険に入って安心な部分もありましたが、逆に「結局最後は自分でどうにかするしかないのか」という思いも抱かざるを得ませんでした。「どんなに脅されても、仮に訴えられても、児童相談所の職員は、児童相談所という組織が絶対に守ります。だから皆さん、安心して働いてください。」。日々、職員達に上司がそのように伝え、実際に守る体制も作り、悪質な虐待者が出てきたら、担当に任せるのではなく、組織全体で対応する。そして、「訴える」と担当者が言われたら、上司が「どうぞ訴えて下さい」と言って、すぐに弁護士に依頼をする。そんな体制を整えていかなければ、職員は安心して働けず、脅しに対して屈してしまうかもしれないのです。

 

 

 

■児童心理司の意見は最終判断にはならないことも

 

 そして児童相談所において、子どもの今後の方針を決定するのは、児童福祉司です。もちろん最終決定は所長を含めた全体の会議で決定されますが、所長などの管理職は子どもに実際に会うことはありませんので、担当の児童福祉司の判断が最終判断となることが多いのです。そこに、児童心理司の意見が反映されている場合もあります。けれど、児童心理司の意見が入ってない場合もあるのです。

 

 それは、まだ日本の児童相談所では、「トラウマ」つまり心の傷が重要視されていないからです。児童相談所が子どもを保護し、家に帰さない基準は、目に見える身体や顔の傷・あざです。心の傷は目に見えないので、親に対する説明としても通りにくく、職員によっては、子どもの心の傷がどれだけ子どもを苦しめているのか、想像が出来ないからです。だから心理司の意見が今後の方針に反映されないことがあるのです。

 

 本来ならば、自分の愛してくれ、守ってくれるはずの親から虐待されたことによって受けた子どもの心の傷は非常に深く、癒されるのにも長い時間がかかります。私の所には、小学生の時や中学生の時に児童相談所で会った子ども達が、大人になった今、20歳、30歳を過ぎても心の傷が癒えない為に、通って来ています。それだけの時間がかかるのです。

 

 心愛ちゃんを司法解剖した医師は「我々の考えが及ばないほどの飢餓や強いストレスがあったのでは」と推測しています。子どもを死に至らしめるほどのストレス。これが心の傷です。心愛ちゃんの事件を通して、子どもの心の傷の重さ、その苦しみを児童相談所職員が学び、今後、心の傷を重要視していかなければ、同じような事件が起きてしまうかもしれません。それを防がなくては。児童相談所の抱える課題です。

 

 

 

山脇由貴子 
心理カウンセラー 家族問題カウンセラー
都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇由貴子心理オフィス代表

山脇由貴子  | 心理カウンセラー 家族問題カウンセラー 3/3(火) 13:46

 

 

 

 

2.

野田市虐待死事件公判 新たに見えてきた勇一郎被告の虐待と母親の心理

 

 

 

千葉県野田市で栗原心愛ちゃんが自宅浴室で死亡した虐待事件で、傷害致死などの容疑で起訴された栗原 勇一郎被告の裁判員裁判の公判が行われている。母親の証言から、父親の栗原 勇一郎被告の新たな虐待内容が明らかとなった。また、自身も暴力被害に遭い、支配されていたことによって、心愛ちゃんを救えなかった母親の心理が見えてくる。

 

 

 

■勇一郎被告の主張から見えてくるもの

 

 勇一郎被告は、21日の初公判で罪について謝罪し、傷害致死については争わない、と述べながらも、「冷水のシャワーを浴びせる」という検察側の述べた暴行の一部を否認した、と報じられている。しかし、勇一郎被告は完全に争っているとしか思えない。虐待を全く認めていないのだ。いまだに、自分は正しいことをしたのだ、と信じている。すべては心愛ちゃんの教育のためであったと信じているのだ。だから勇一郎容疑者は、心愛ちゃんの死を自分の行為の結果とは認めていないのだろう。

 

 虐待を認めず、自分の行為を正当化する虐待者は必ず虐待を繰り返す。児童相談所への言い訳として「しつけ」というのではなく、心の底から、子どものため、家族のためだと信じているからだ。その考えを覆すのは私の経験上はほぼ無理だと言える。その意味で、勇一郎容疑者の主張は、虐待を繰り返す虐待者の本質をあらわしていると言えるだろう。保護当時の児童相談所に対しては、もっと激しい怒りを込めて虐待を否定したのだろうから、やはり勇一郎容疑者の本質を見抜けなかった柏児童相談所の責任は重い。

 

 

 

■母の証言

 

 心愛ちゃんの母親は、証人として出廷し、ビデオリンク方式で行われた。その中で母は心愛ちゃんが「毎日が地獄だった」と話した、と説明した。母は、その言葉をどんな思いで受け止めたのだろう。心愛ちゃんの母親も勇一郎容疑者から暴力を受け、支配されていたことで、虐待を制止することが出来なかった、と述べており、毎日勇一郎被告から心愛ちゃんへの虐待を見続け、限界だった、ストレスから心愛ちゃんに当たってしまった、とも述べている。勇一郎被告への恐怖心があったのは確かだろう。そして勇一郎容疑者と心愛ちゃんの母親のLINEのやり取りから、母親が正常な判断力を失い、虐待に加担していたことが見えてくる。毎日虐待を見続け、精神的に限界だった、という母親の言葉も本心だろう。しかしそれでも、母親ならば、心愛ちゃんを救うべきだった、と誰もが考えてしまう。私は多くのDV被害に遭った母親達に会って来ているので、彼女達の恐怖心や無力感は分かっている。だから身動き出来なかった心愛ちゃんの母親の心理も理解出来る。けれども母親は、児童相談所の一時保護について「正直ほっとした」と語っている。そう思ったなら、児童相談所に「心愛を家に帰さないでください」とお願い出来なかっただろうか。勇一郎容疑者が心愛ちゃんを虐待するから、どうか家には帰さないで下さい、とお願い出来なかっただろうか。

 

 

 

■立たせる、正座、スクワット

 

 母親は、勇一郎被告が心愛ちゃんを立たせ続けたり、正座をさせ続けたり、スクワットをさせ続けた、という虐待内容も証言した。スクワットには驚かれる方も多いのではないかと思う。しかし私も児童相談所勤務時代にスクワットを強要させる虐待者には出会ったことがある。そして立たせる、正座させる、眠らせない、などの虐待は、少なくない。衝動的暴力と違い、子どもを苦しめたい、という思いがある人間の行う虐待だ。それに加えてスクワットをさせた、という勇一郎被告は、本当に子どもを苦しめたいという気持ちがあり、そして苦しんでいる姿を見たい、という欲求があった、ということだ。勇一郎被告は、自分が虐待に依存し、中毒状態にあることに気づかず、しかしその欲求を満たし続けたのだ。証拠として提出された勇一郎被告が撮影した動画がそれを物語っている。勇一郎被告は、動画を何度も見たのだろう。自分の欲求を満たすために。

 

 

 

■裁判の今後

 

 勇一郎被告が暴行を否認し続けた結果、判決はどうなるのか。誰もが関心を持っている。心愛ちゃんを救えなかった母親だが、勇一郎被告が心愛ちゃんを床に叩きつけたことや、心愛ちゃんが亡くなった当日も勇一郎被告が心愛ちゃんに冷水を浴びせたことも証言している。勇一郎被告への恐怖心はまだ残っているだろう。出所後につきまとわれる不安もあるだろう。それでも勇一郎容疑者の虐待について証言したのは、最後に心愛ちゃんに母として出来ること、と考えたのではないだろうか。今は本当に勇一郎被告を重い罪にして欲しいと望んでいるのだろう。

 

 今後は、児童相談所職員が証人として出廷する。児童相談所の職員は、心愛ちゃんから保護中に虐待の詳細な聞き取りをしているはずだ。心愛ちゃんの言葉すべてをしっかり証言して欲しい。そして心愛ちゃんの言葉を裁判でも一番重要に扱って欲しい。彼女が残した証言なのだ。そして心愛ちゃんが何を児童相談所職員に語ったが明らかになることで、児童相談所職員の課題もまた見えてくるだろう。

 

※記事の一部を加筆・修正しました。

 

 


山脇由貴子 
心理カウンセラー 家族問題カウンセラー
都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

 

山脇由貴子  | 心理カウンセラー 家族問題カウンセラー 2/28(金) 11:30

 

 

 

 

3.

理想の子どもにしたい」は虐待リスク要因 目黒女児虐待死事件の父親の発言から見えたもの

 

 

 

10月1日、目黒5歳女児虐待死事件の父親の初公判が開かれました。 東京都目黒区で昨年3月、当時5歳だった船戸結愛(ふなとゆあ)ちゃんを虐待し、死なせたとして、保護責任者遺棄致死や傷害などの罪に問われた父親の船戸雄大被告は、初公判で起訴内容の大筋を認めました。

 

父親の弁護側は、雄大被告には、理想の家庭があったこと、理想の子どもにしたいと思っていた、父親になりたいという気持ちがあり、前夫との子が邪魔であるとか、憎たらしいから虐待したのではない、と主張しました。しかし、その主張の中からは、むしろ雄大被告が虐待をエスカレートさせてゆく心理状態にあったことが見えてきます。

 

 

 

■父親は虐待をエスカレートさせる心理状態にあった

 

雄大被告は、理想の家庭像を持ち、結愛ちゃんを理想の子どもにしたかったのだ、と弁護側は主張していました。理想の家庭像を持つことは決して悪い事ではありません。ですが、理想を完璧に実現しようとするのはとても難しいことで、実現出来ないことこそ、当然なのだと現実の中で受け入れていくことが必要です。雄大被告には、その受け入れが出来なかったことが、弁護側の言い分から見えてきます。

 

 

「理想の子どもにしたい」という思いは、虐待につながるリスク要因です。子どもが自分の思い通りにならないことが許せない、と感じてしまうからです。言うことをきちんと聞かない、子どもが悪いのだ、だからもっと厳しくしなくては、とも考えてしまうからです。雄大被告が結愛ちゃんに対して、そう思っていたのは、結愛ちゃんの反省文から明らかです。

 

「もうパパとママにいわれなくてもしっかりとじぶんから きょうよりも もっともっと あしたはできるようにするからもうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします ほんとうにもう おなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことを なおします これまでどれだけあほみたいにあそぶって あほみたいだからやめるのでもうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします あしたのあさはぜったいにやるんだとおもって いっしょうけんめいやる やるぞ」(結愛ちゃん反省文より)

 

理想の子どもにしたい。その親の思いは、エゴであり、押し付けでしかありません。ですが、その思いが強いと、親は子どもへの暴力を「しつけのため」と考え、虐待を正当化するようになりリスクがあるのです。自分はこの子を「良い子」にするためにやっている。それなのに言うことを聞かないこの子が悪い。親がそう思うようになり、虐待がエスカレートしてしまうのです。ですが、親は子どものためにやっている、と思っているので、自分の行動を正当化し続けます。雄大被告も、この心理状態にあったと考えられます。

 

結愛ちゃんの体重をコントロールしようとしたのも、ひらがなの練習や九九をやらせたのも、運動をさせたのも、雄大被告は結愛ちゃんのため、と考えていたのでしょう。だから結愛ちゃんが苦しんでいるのを無視し続けたのです。自分が正しいと思っていたからです。

 

最近、知られるようになってきた「教育虐待」の親の心理にも共通しています。名古屋で、子どもを自分と同じ学校に入れる為に教育虐待をした父親が子どもを刺殺してしまった事件を記憶されている方もいらっしゃると思います。親のエゴと「子どものため」という押し付けが、虐待につながるのです。

 

 

 

■児童相談所の指導を理解していない

 

また、弁護側の主張の中で、雄大被告は、児童相談所に、「実の親ではない」と言われ、拒絶反応があった、とありました。「実の親ではない」と児童相談所は言ったかもしれません。ですが、児童相談所は、「実の親ではない」という理由だけで子どもを保護することはありません。雄大被告に一時保護の理由を説明しているはずです。暴力は虐待である、やってはいけないことだ、と伝えているはずです。それなのに、雄大被告には「実の親ではない」という言葉しか残っていない。つまり、それは自分の何が悪くて、何を変えなくてはならないのか、その指導を理解していない、ということです。雄大被告は、児童相談所に結愛ちゃんを保護されても、自分のやっていることが虐待であると理解していなかったということになります。だから虐待が繰り返されたのではないでしょうか。

 

雄大被告が自分の行動を正当化していた、正しい子育てをしている、と思っていたからだと考えられます。公判はまだ続きます。今後も公判に合わせて雄大被告の心理状態を分析し続けたいと思います。

 

※見出しと本文を修正しました。

 

 


山脇由貴子 
心理カウンセラー 家族問題カウンセラー
 都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

 

山脇由貴子  | 心理カウンセラー 家族問題カウンセラー 2019/10/2(水) 18:44

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿