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少年法改正へ 被害者傍聴可能に 「更生重視」影響も

2008年06月17日 | スクラップ

 非公開で行われる少年審判について、殺人や傷害など被害者の生命にかかわる事件に限って被害者や遺族の傍聴を認める少年法改正案が3日に衆院本会議で可決され、今国会中に成立する見通しとなった。被害者の申し立てを受けた裁判官が、加害者側の弁護士の意見を参考に傍聴の可否を判断する。被害者の権利を尊重する流れに沿った改正だが、少年の更生や教育的側面を重視する立場からは懸念の声も上がる。【坂本高志、関谷俊介】

 


◇権利尊重の流れ

 「これまで(審判で)裁判官は『君も大変だったんだね』などとソフトな言葉で少年の内省を促してきたが、傍聴する被害者を意識せざるをえない。少年の立場に配慮した審理が難しくなる」。あるべテラン裁判官は、被害者の傍聴が少年の処分や審判のあり方そのものにも影響を与えかねないとの懸念を示す。

 少年審判は、重大事件で家庭裁判所が「検察官関与」を決めたケースを除いて裁判官、家裁調査官と少年、付添人(弁護士)らで進められる。少年法は非行少年の健全育成や更生が目的で、刑罰を科すことを主眼とする刑事裁判とは異なる。審判についても「なごやかに行う」と定め、非公開のうえに被害者側の傍聴も認めていなかった。

 改正の背景には、04年12月に成立した犯罪被害者基本法を受けた被害者の権利拡充の流れがある。00年の改正少年法に関して定めた「5年の見直し期間」を経て、法務省内で行われた06年秋の意見交換会。犯罪被害者団体も参加した席で、「傍聴ができなければ、被害者や遺族は事件の真相を知ることができない」との意見が相次いだ。

 傍聴の是非を昨年11月に諮問された法相の諮問機関・法制審議会は約3カ月で、傍聴を認める答申を出した。反対は委員16人中3人にとどまった。

 しかし、反対の意見も根強い。日本弁護士連合会が4月に開いたシンポジウム。強盗傷害の非行事実で少年院へ送られた経験を持つ男子大学生(24)は「裁判官に『ここ(審判)は君を責めたりする場所ではない』と声をかけられ、素直になれた。自分の暗黒の部分を被害者の前で言うのは抵抗がある」と発言。少年法に詳しい前野育三・関西学院大名誉教授は「非常に困難なかじ取りを現場に強いる改正だ」とみる。

 


◇「時間かけサポートを」

 「少年審判という場は『犯罪が被害者の知らないところで闇に葬られてしまう』という印象を持っていた。傍聴が実現するのはうれしい」。大阪府寝屋川市で昨年10月、万引きした2人組の少年を追いかけて、19歳の少年に刺殺されたコンビニ店員、上内健司さん(当時27歳)の父親(57)は成立の動きを歓迎する。

 19歳の少年には無期懲役が言い渡されたが、もう一人の15歳の少年は家裁が中等少年院送致とした。今回の改正案が審議入りする直前の5月、鳩山邦夫法相と面会し、審判の傍聴などを求める約2万4500人分の署名も提出した。「(15歳の)彼の肉声はついに聞けなかった。遺族にとっては19歳も15歳も同じ」と悔しがる。

 被害者の多くの思いは、この父親の気持ちに近い。しかし、傍聴に異を唱える被害者もいる。17歳の少年が5人を死傷させた西鉄高速バス乗っ取り事件(00年)で重傷を負った主婦、山口由美子さん(58)だ。

 山口さんは事件から約5年後、医療少年院にいた少年と面会した。「事件直後の少年には『何が悪い』という思いしかない。それを審判でぶつけられても被害者は傷つくだけ。時間がたち、心から謝ってもらい、うれしかった。長い時間をかけて少年をサポートし、被害者にもその状況を知らせることが必要と感じた」と話す。

 


◇年10件前後か

 06年に家裁が審理した事件のうち、殺人や傷害致死、強盗致死など傍聴対象となる事件は業務上過失致死事件(交通事故など)を除くと、50件程度だ。傍聴を希望しない被害者や傍聴に反対する付添人(弁護士)の存在を考慮すると、実際の運用は「年間10件前後ではないか」とみる法務省幹部もいる。

 


◇非行に厳しい目

 少年法を巡っては、14歳の少年が起こした神戸連続児童殺傷事件(97年)をきっかけに改正が繰り返されてきた。最初の改正は00年。刑罰適用年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げ、重大事件の審判では検察官立ち会いも認めた。07年には、長崎県佐世保市での小6同級生殺害事件などを背景に少年院送致の年齢を「おおむね12歳」に引き下げ、14歳未満に対しては警察の強制調査権も与えた。

 被害者傍聴を認める今回を含めた一連の改正は、いずれも加害少年に犯した行為の責任を厳しく問う流れとも言える。このため、多くの識者は「非行に対する社会の目が厳しくなり、教育福祉的側面が後退している」とみる。




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◇衆院法務委で可決された改正案の概要◇

(1)殺人や傷害致死、業務上過失致死事件などの審判で被害者らの傍聴を認める
 ※被害者側の傍聴は12歳未満の事件では認めない
 ※12、13歳の事件では特段の配慮をする
 ※弁護士である付添人から意見聴取し傍聴可否を判断
(2)被害者らに対し事件記録の閲覧や謄写を原則認める
(3)施行後3年をめどに法律の内容を検討する




毎日新聞 2008年6月3日 大阪朝刊

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