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発信箱:脂肪を売る=青野由利(論説室)

2008年02月12日 | スクラップ

 「あなたの脂肪を買い取ります」。スポーツクラブの広告に、思わず目を奪われた。おなか回りの脂肪をみるたび、「ベニスの商人」でも雇いたい気分だったからだ。

 といっても、脂肪を切り売りできるわけではない。運動して体脂肪を減らすと、減量分に応じて商品券をもらえる趣向らしい。英政府も先月、肥満対策の一環として同様の取り組みを提案している。

 こうしたアイデアの出所は環境保護派の人だろうか。脂肪の売買は、温暖化対策の焦点である「排出量取引」と似ている。二酸化炭素を排出できる枠を割り当て、過不足分を国や企業同士が売り買いする。減量がお金に結びつく点は、脂肪と同じだ。

 違うのは、減量できなかったら枠を買い取らなくてはならない点だ。これが、日本の産業界には評判が悪い。すでに努力して減量してきたので、これ以上は難しい。それなのに、最近になって減量した人にお金を支払うのは理不尽だ、といった理屈はわからないではない。

 もちろん、これ以上の減量が難しいかどうかには異論がある。肥満と温暖化をすべて同列に考えられるわけでもない。それでも頭の体操をしたくなるのは、排出量取引がわかりにくく、身近な問題として考えにくいからだ。

 実は、「減量してお金を払う」仕組みも世の中にはある。肥満に悩む先進国で低カロリーの食事をすると、費用の一部が飢餓にあえぐ途上国の給食費として寄付される「2人の食卓」プロジェクトだ。こうしたアイデアが温暖化対策にも生かせないか。練習問題として考えてみたい。



毎日新聞 2008年2月9日 0時03分

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