教諭に卒業式での君が代起立斉唱を命じた東京都立高校長の職務命令について合憲判断した最高裁第2小法廷の判決(30日)の要旨は次の通り。
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公立高校の卒業式等で日の丸の掲揚と君が代の斉唱が広く行われていたことは周知の事実で、起立斉唱行為は一般的、客観的に、慣例上の儀礼的な所作としての性質を持つ。原告の歴史観や世界観を否定することと不可分に結び付くとはいえない。職務命令は、特定の思想を持つことを強制するものではなく、個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するとは認められない。
もっとも起立斉唱行為は、教員が日常担当する教科や事務内容に含まれず、国旗と国歌に対する敬意表明の要素を含む行為。自らの歴史観や世界観との関係で、日の丸や君が代に敬意を表明するのは応じがたいと考える者が起立斉唱を求められることは、思想及び良心の自由の間接的な制約となる面がある。
個人の歴史観や世界観には多種多様なものがあり得る。内心にとどまらず行動として表れ、社会一般の規範と抵触して制限を受けることがあるが、その制限が必要かつ合理的なものである場合は、間接的な制約も許容され得る。
間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容、制約の態様などを総合的に比べ合わせて考え、必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当だ。
今回の職務命令は、原告の思想及び良心の自由について間接的な制約となる面がある。他方、卒業式や入学式という教育上、特に重要な節目となる儀式的行事では生徒等への配慮を含め、ふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要。学校教育法は高校教育の目標として国家の現状と伝統について正しい理解を掲げ、学習指導要領も学校の儀式的行事の意義を踏まえて国旗国歌条項を定めている。
地方公務員の地位や職務の公共性にかんがみ、公立高の教諭である原告は法令及び職務上の命令に従わなければならない。原告は、地方公務員法に基づき、学習指導要領に沿った式典の実施の指針を示した都教委の通達を踏まえて、校長から卒業式に関して今回の職務命令を受けた。
以上の諸事情を踏まえると、今回の職務命令については、間接的な制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。原告の思想及び良心の自由を侵して憲法19条に違反するとは言えない。
■補足意見
<須藤正彦裁判長>
最も肝心なことは画一化された教育ではなく、熱意と意欲に満ちた教師により、生徒の個性に応じて生き生きとした教育がなされること。今回の職務命令のような不利益処分を伴う強制が教育現場を疑心暗鬼とさせ、無用な混乱を生じさせれば、教育の生命が失われかねない。一律強制に踏み切る前に、教育行政担当者で可能な限りの工夫と慎重な判断をすることが望まれる。
<千葉勝美裁判官>
司法が職務命令を合憲・有効として決着させることが、必ずしも問題を最終的な解決に導くことにはならない。国旗及び国歌が強制的にではなく、自発的な敬愛の対象となるような環境を整えることが何よりも重要だ。
毎日新聞 2011年5月31日 東京朝刊
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