フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

稀代の病

2006年01月31日 23時39分47秒 | 第12章 逡巡編
とにかくオレは猛烈に勉学に打ち込んだ。
大学受験ですらこんなに頑張ったことはなかった。

朝は、コーヒーで気合を入れ、夜はカップラーメンを啜っては腹を満たした。
そんな生活が1ヶ月以上続いただろうか。
ある日、オレの体は変調を来たした。

大学受験生の試験官のバイトをしていた時、急に目の前が真っ暗になり足がガクンと折れた。
それからゆっくりと真っ暗な暗闇が広がり、周囲の叫び声を遠くに聞きながらオレは意識を失った。

目を覚ますと矢部教授と試験官をしていたはずのゼミ生総勢17人がオレのベッドの周りを取り囲んでいた。

「・・・・・・オレ、一体どうしたんですか?」
「現代稀なる奇病に罹ったんじゃよ」

矢部教授は深刻な顔で点滴の残量を確認していた。
ハルナとアカンボがいるのに冗談じゃない!

「オレの病名は!?」
「イマドキこんな病気に罹るヤツなんていないよなぁ」
「ありえないでしょう。ある意味、尊敬に値するよ」
ゼミ生の奴ら人の体だと思って・・・好き放題言ってやがる。

起き上がろうとして、右腕を見てぎょっとした。
「なんだぁ!?この腫れ上がった腕は??」
ゼミの4回生の先輩が申し訳なさそうに項垂れて「あ、ごめ~ん。採血に失敗して、パンクしちゃった」と謝罪した。
「・・・・・・オレの腕で練習しないで下さい・・・・・・。で!病名は!?」

「・・・・・・栄養失調だとよ」
K大の理工学部に進んでいた高校時代の悪友北尾がオレのベッドに弁当を投げながら「ほれ!食え!!」と言った。

「何でお前ここにいんの!?」
「隣りの教室で試験官のバイトをしてたんだよ。
で、オレもこのヒト達と一緒にお前を担いだのよ」

北尾は担架を指差すと、周りのゼミ生を見回した。

「みんな・・・・・・、迷惑掛けてすみません」
オレはみんなの優しさに目頭が熱くなった。
「いや~、僕達もいい勉強になったよ。また、是非診させてくれよなぁ」
「・・・・・・それは嫌ッス」

矢部教授もニヤニヤ笑って、「ちゃんと栄養のあるものを食べるように」とオレに忠告した。

そして、
「今回の診療代は、この間壊したプロジェクタ代と一緒に出世払いにツケとくからねぇ」
と、怪しげなメモ帳に書き込んだ。



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ラブパワー

2006年01月31日 19時29分23秒 | 第12章 逡巡編
オレはハルナがプロポーズを受けてくれたことで浮き足立っていた。
嬉しくて毎日がスキップをしているようだった。
大学に行って矢部教授に「発情期だのぅ」とからかわれても、「そうなんですよ!」と上機嫌で切り替えし、気味悪がられていた。

大学での勉強もアカンボとハルナのことを思えば、目標とか生き甲斐とかそんなもんが出来て、自然と力が入った。

そんなオレがいつものように矢部教授が大教室で使うプロジェクターを慎重に運んでいた時のことだった。
「重いでしょ?手伝おうか?」
リョーコがその前に立っていた。

同じ大学の学部に通っていながら、オレ達は大学で会うことがあまりなかったから、声を掛けられた時は少し驚いた。

「おー!?リョーコ、珍しいな。大学で会うなんてな」
「そりゃ、そうよ。会うの避けてたもん」

彼女は殊更大きな声でおどけてみせると、オレの早足に合わせ大股で歩き、向かい風に絡む前髪を笑いながら掻き揚げた。

何で避ける必要があるんだよ、と言い掛けて止めた。

こいつが玉砕覚悟でオレにアタックしたことを思い出すと、聞いちゃいけないヤバ目な質問であることが推察された。

「ハルナちゃんに会ったわよ」
「え?!いつ」
「先週・・・・・・雪が降った日の前日だった、かな?」
「なんか話したのか?」
「別に。・・・・・・気になる?」
「・・・・・・別に」
「話したわよ。私があなたにコクってフラレタこととか・・・・・・」

お前なぁ~、余計なこと言うなよ・・・・・・と、言い掛けて止めた。

過去の経験上、女に喧嘩を吹っ掛けて口論で勝ったためしがない。
自分の立場を正当化する女達の口頭戦術はそりゃアッパレとしか言いようがない。
オレは女とのバトルの日々(注記:含むオフクロ)から、「沈黙こそ最大の防御なり」と言う誠に貴重な経験を得たものだった。

「そうか。じゃっ!オレ急ぐから」

オレはこれ以上厄介事を抱え込むのは真っ平だとばかりに、歩を速めた。

「来週には出るから!あのマンション!!」

リョーコの思いも掛けない言葉に驚いたオレは、振り向いた瞬間、段差に躓き、プロジェクターを落としていた。

「あ~あ。粉々に壊しちゃったね~。このプロジェクタ、100万円は下らないわよぉ~。
私が声掛けちゃったから悪いんだけどね。私の弁済分はかずぼんからの『馬の鼻向け』ってことで、宜しくね。
ま、ラブラブパワーで頑張って教授に弁償してね♪」
・・・・・・彼女の微笑が悪魔に見えた。

この言葉を最後にリョーコはにこやかに部屋を退去した。

やっぱ、女はこぇーわ。



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彷徨う心

2006年01月30日 22時22分41秒 | 第12章 逡巡編
ハルナが入院した翌日、オレはあいつが拘っていたケーキを持って病室を訪れた。

「良く眠ってる」
オレがそっとベッドの横に立った時、突然ハルナは目を開けた。
そして、いきなりオレにしがみつくと涙を流した。

きっと、独りで入院して淋しかったんだろう。
アカンボもお腹にいることだし、心細かったんだろう。
そう思っていた。

オレはハルナに手を出さないと誓っていた。
だけど、オレはあいつに抱きしめられ、求められていると思うと、愛おしさを抑え切れず夢中で抱きしめキスをし、その白い胸に唇を這わせた。


そんなあいつの口からこぼれた言葉は、
「トオル君・・・・・・トオル君・・・・・・愛してる。私、・・・待ってたんだよ」
だった・・・・・・。



オレはその夜、浴びるほど酒を飲んだ。
自戒の念を抱きつつも、飲まずにはいられなかった。
どうやって帰ったのか覚えていないが、いつの間にか、冴え冴えとした部屋に戻っていた。
トイレと自室を何度も往復しては嘔吐し、嗚咽した。



隣りの部屋で寝ていたはずのリョーコがオレに水を差し出しながら何か言っていた。
何を話したのか、今となっては覚えていない。



さすがに次の日はあいつの病室を訪れる気にはなれなかった。
だけど、それがきっかけで足が遠のいてしまっていた。

オレはこのショックを忘れようと、毎日、懸命に一日を消化しようと忙しく動き回っていた。
そして、半分夢遊病者のように家と大学、そして病院を往復していた。



「あいつ、今日、退院だったっけ・・・・・・」
カレンダーの日付を確認しながら、もう一度傷付くことを恐れて一歩を踏み出すことが出来ないでいた。




だけど、ハルナはやって来た。
オレの通う病院へ。
オレのいる世界へと飛び込んできてくれたんだ。


オレは嬉しかった。
あいつのオレに対する気持ちがトオルに対する気持ちとは違うことを、嫌と言うほど思い知らされた後でも、それでも・・・・・・。




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罪の刻印

2006年01月30日 21時15分46秒 | 第12章 逡巡編
ハルナの妊娠が分かったあの頃、オレは天国と地獄を行ったり来たりしていた。

ハルナをギリギリまで追い込んでしまったのはオレだ。

ハルナは、オレがわざと避妊しなかったと思い込んでいる。
だが、それは半分正解で、半分は外れだ。

あの時、オレはハルナにこう言うので精一杯だった。

「ね。あの時、どうして、・・・・・・その、着けなかったか聞いていい?
かずにぃ知ってて、どうして・・・・・・」
「言えない」
「ど・・・して・・・・・・。私、嫌だって、何度も何度も止めてってお願いしたのに・・・・・・。
それでも、どうして抱けちゃうの?」
「お前だから」

だけど、これが唯一真実の答えだった。

何人も女を抱いていながら笑われそうだが、オレはあの時生まれて初めて理性を失った。
ゆとりなんかなかったんだ。
・・・・・・ハルナだったから。

それでも、勿論途中で気付いた。
だけど、情けないことにそれは全てコトが終わってからだった・・・・・・。

無我夢中だった。
ハルナの体を、心を気遣ってあげられない程に・・・・・。
優しくなんて出来なかった。

逃がすまいと必死だった。
この機会を逃せばハルナを永遠に失ってしまうと言う恐怖がオレの冷静な判断を奪い取っていった。

だけど、ハルナは気絶して目覚めた時、その時のことを断片的にしか覚えていなかった上に、記憶がすりかえられていた。
オレは救われたような気がした。

あれからハルナはオレを愛しているとトオルに向かって言ってくれた・・・・・・。
その上、抱かれて幸せだったとあいつの前でそうお前は言ってくれたんだ。

・・・・・・そう思いたい程、オレはハルナを追い詰めてしまったひどい夜だった。

思い出すな・・・・・・。ハルナ。
オレの一生を掛けて償うから、だから花のようにいつまでも笑って忘れていて・・・・・・。




あの過喚起症候群・・・・・・。
あれこそが、オレに課せられた罪の刻印だ。

トオルはその事をオレに忠告していたんだ。

オレはあの夜を思い出す度、この後悔こそが自分の望んだ結果なのだと、ギリギリと歯を食い縛り、手の爪が肉に食い込む程、自分に言い聞かせてきた。

「それでも、トオルだけにはあいつを渡さない!」

辛うじて正気の綱の上を渡っているハルナの心が、闇の中に落ちてしまわないよう、オレは幸せな未来を紡ぐことで償っていこうと思っていた。




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白銀の朝

2006年01月29日 01時13分32秒 | 第11章 飛翔編
翌朝、私は地震で降って来た本の下敷きになると言う悪夢にうなされた。

重い・・・・・・
助けて!
重くて死にそう・・・・・・

「誰か!」
と、叫んで目が覚めた。

「ここは、・・・かずにぃのマンション!?」
私はベッドから起き上がろうとして、悪夢の正体を掴んだ。

「かずにぃ、ひどいよ!」
私は、お腹の上に乗っていた彼の足を下ろすと、ぺちんと叩いた。
「赤ちゃんも重かったって言ってるよ!きっと」
そんな私のことなんかお構いなしで、彼はグーグーいびきをかきながら眠っていた。
夢の中の地響きの正体もついでに掴んだので私は一人むぅ~っと膨れた。

そう言えば、昨日の雪はどうなったんだろう。
私は窓まで忍び足で近寄ると、カーテンを開けた。

だけど、あまりにも眩しい光の照り返しに思わず目を細め、顔を背けた。
漸くして目が慣れて来た頃、そっと窓の外に目をやると、そこにはふかふかとした一面の雪の絨毯が敷き詰められていた。
「ふぁぁぁ!!!」


私は、急いでベッドにジャンプするとかずにぃを揺り起こした。
「かずにぃ!!雪、積もってるよ!外に見に行こうよぉ!!」
「寝みぃ~。1人で行ってこいよ」
1人で行ったって・・・・・・。
この感動を一緒に楽しめるヒトがいないとつまんないよ。

「・・・・・・あ、そ。いいもん。1人で行ってくるよ。
私、転んじゃうかもしれないよぉ。風邪とかも引いちゃったりして・・・・・・」
かずにぃは「是非!お供させて頂きます」と、掛布団を蹴飛ばしながらベッドから飛び起きた。

「ったく、ガキだよなぁ!たかが、雪ひとつで大騒ぎしやがって・・・・・・」
エレベーターに乗りながら、かずにぃはブツブツ言っていた。

だけど、ひとたび外に出るとかずにぃは「オレが一番!!」とはしゃぎ、ダッシュで新雪に足跡を付け捲くり、ソッコーで雪だるま(命名:ドラ○もん)を5つ作り上げた。
そして、かずにぃの作っている雪だるまを近くで見ていた小学生達が子分として採用され、作り終えると雪合戦の犠牲者となっていた。


もう、どっちが子供なの?


かずにぃは、雪球をせっせと作り、子供達に1個投げつけられる度にその倍を投げ付けて返していた。

・・・・・・手加減しようよ・・・・・・

あれで、父親になるなんて、「不安だ~」。

かずにぃは夢中になって雪球を投げながら、「え?!何か言ったか」と耳をそばだてた。

「・・・・・・ですって言ったの」
私の、小さな声に「あ???なに言ってるんだか、聞こえねぇ~!!」と大きな声で聞き返した。

「プロポーズはおっけーですって言ったの!!」
かずにぃはびっくりした目で、私を見つめ、腕に抱え込んだ雪球を5つボトボトと落とした。
「まじ?!」
「うん、まじ」
「・・・・・・感激のあまり声が出ないよ」
「・・・・・・出てるよ、声」

彼が私の方へ歩み寄り、私の手に触れようとした瞬間、
「隙ありぃ~!!」
と、子供達は背後からドラえ○んをかずにぃの後頭部目掛けて投げつけた。
よろけた彼は、そのまま顔から倒れこみ、それは見事な極上の笑みを浮かべた顔拓を雪上に残したんだ。




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雪の舞う夜

2006年01月28日 18時56分39秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは私をすっぽり包み込むように抱きしめると、うとうとし始めた。

ごめんね。かずにぃ・・・・・・

「こう言うのは『頑張って』『無理して』するものじゃないから」
前にトオル君が言った言葉を思い出す。

だけど、頑張らないと・・・・・・
かずにぃはもう十分私に温かいキモチをくれている。
私は何も返せていない。
かずにぃをトオル君よりも愛する努力をしなくちゃいけないのに。

「かずにぃ、ごめんね・・・・・・。ホントに、ごめんね」
私はかずにぃの節ばった指を両手で包み込みながら頬に当てた。
「・・・・・・ん~?いいから、ネンネしな」
かずにぃは私の頭をポンポンと叩いた。

私は寝ぼけ眼のかずにぃの顔の位置まで体を移動させると、その唇にキスをした。
驚いたかずにぃは突然ぱちっと目を覚ました。

「どした?!ハルナ・・・・・・ん?」
かずにぃは体を起こし、顔をしかめて心配そうに私の瞳を覗き込んだ。

「・・・・・・何、泣いてんだよ」
「ごめん」
「って、何?」
「さっき・・・・・」
「あ~、あれ、か」
と、かずにぃは起こしていた体を再びベッドの上にどさっと横たえた。

「まぁ、あれだ。・・・・・・うん。お前がサ、しつこく聞くから、逆に『おっけぇ』なのかと思って勘違いしただけな訳で・・・・・・。
んで、拒絶されたからむかっとしただけな訳で・・・・・。
手ぇ出さねーとか、言いながらもさ、まぁ、ちょぉっとは『大丈夫なのかな~?』ってオイタをしちゃったんだよな・・・・・・」

かずにぃは「よっこらしょ」と再び私をその胸の上に抱きしめると、「ごめんな」と小さな声で誤った。

「それに、オレも男だからさ、その辺の事情ってヤツも分かってくれると嬉しいんだけど」

私はかずにぃの言っている「その辺の事情」は分からなかったけれど、「うん」とだけ答えた。
かずにぃは笑うと、「まぁ、おいおい。少しずつ、だな」と笑った。


かずにぃはその胸に再びすっぽりと私を包み込むと、
「あったけぇ~。お前、天然湯たんぽだなぁ」
と、私の頭をその頬でくしくしにした。

そうしながらも突然、背後を振り向き、ベッドから起き上がった。
「さっきっから、背中から冷気が入るなぁと思ったら、カーテン開けっぱなだった」
そして、「さびっ!」と寒さに体を震わせながらカーテンを閉めに行った。

「あ!」
突然の彼の叫び声に私はビクッとして「どうしたの?」と反射的に聞き返した。

「こっち来てみ!」
「何?」
「いいから。そこのオレのカーデ着てこっちに来いよ」

私は、窓際に立ち、彼の目線に並んで外を見た。
暗闇の中を、花びらのような白い雪がちらちらと、その陰影をライトに映し出しながら舞い降りてきた。

「・・・・・・っわぁ~。雪だ!!」
「さみぃはずだよな」

かずにぃは私の肩に手を置くと体を引き寄せた。
そして私達は、今年初めて横浜に舞い降りた雪をしばらくただ黙って見つめていた。



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震える夜

2006年01月26日 22時39分13秒 | 第11章 飛翔編
夕方になるとかずにぃは極上のまずい料理を私のために作ってくれた。

「こ、これ、ホントに食べなきゃダメなの?」
「栄養満点だから、文句言わずに食え!」

かずにぃは、ご飯にもやしと、ワカメと、ひじき、さつま揚げ、それから・・・それから・・・謎な食べ物を混ぜて炒めたモノにゴマを振ってお皿に盛った。
私の想像を遥かに絶したご飯が目の前に差し出された瞬間、幸運にもつわりで「うっ!」と吐き気を催し、最悪の状況を逃れることが出来た。

かずにぃは「っかしーな??味はイケテルと思うけどなぁ」と言いながら、口に入れ、「うっ!!」と、口を抑えた。

結局その夜は和食の出前を取って二人で大人しく食べることにした。


夜も更けて来た頃、彼はベッドを整えて「寝るぞ」と言いながら、私においでおいでをした。

「え?!私もここで寝るの?」
「ここしかねぇーもん」
「・・・・・・エッチなこと、しないよね?」
「分かんねーぞぉ」
かずにぃは嬉しそうにニヤニヤ笑った。

「・・・・・・スケベオヤジ」
「まだ19なんだけど」
「けど、手つきが既にオヤジ入ってるよ」
私は体を強張らせながらじりじりと扉まで後退した。

かずにぃは「おいおい・・・・・・」と座っていたベッドから立ち上がると、
「アカンボがびっくりするといけないから何もしねーよ」と、口を尖らせると私の手を引いてベッドに横たえた。

「もっとそっちに寄れるか?」
私が壁側に体を寄せると、かずにぃもその隣りに入り込み、私に腕枕をした。

「・・・何もしないよね?!」
「しねぇーって、さっきから何度も・・・・・・」
かずにぃは眠そうに大きなあくびを一つしたかと思うと途中で呑み込み、「え?!」と声を上げ、急に上体を起こした。

「もしかして期待してる、とか!?」
私が、思いっきり首を振ると、少しむっとした顔をした。

「なんか、分かっててもそこまできっぱり拒絶されると、やっぱムカツクなぁ」
そう言いながら、ゆっくりと私の両胸に手を忍ばせてきた。

「きゃ!」

私がベッドから跳び上がり逃げようとすると、
「まぁ、マッサージってことで。それにこんなにささやかな胸じゃ、ちっともヨクジョーしねぇーって・・・・・・。
おっきくなんないと、母乳出ないぞぉ」
と、私の背中に顔を埋めて胸を揉み始めた。

そして、徐々にジャージのジッパーに手を掛け、胸の谷間に手を這わせていった。
かずにぃが息を殺しながら、私の動向に全神経を張り巡らせているのが伝わってくる。
彼の不規則な呼吸に呼応するかのように、私の呼吸も徐々に乱れ、意識が遠のいていきそうになる・・・・・・。

「や、やっぱり、ダメ!ダメ!!」
私はかずにぃの両腕を思いっきり、引っ張って胸から外した。

「ごめん・・・・・・お休み」

かずにぃは私の胸から手を離すとあっさりと撤退してくれた。

私は、ドキドキする胸をそっと手で包みながら、かずにぃに聞こえないように震える息を必死で抑えていた。





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比翼の鳥

2006年01月25日 21時36分25秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは「ははっ」と子供っぽく笑った後で、急に優しい顔になり、
「もう苦しくないか?」と言って、私の顎に手を添えちょっと持ち上げると顔色を窺った。

私は小さく何度も頷くとかずにぃは安堵の溜息を吐いた。


「オレ、今は何の力も無いけど、せめて父親として今出来ることをしようと思うんだ」
私が、「何を?」と首を傾げると、彼は指を一本ずつ立てながらその出来ることを教えてくれた。
「まずは、勉強を頑張って一日も早く医者になる。まぁ、これは当然か・・・・・・」
人差し指を立てながら、かずにぃはニヒルな笑いを浮かべた。

「次に、さっきの禁煙・・・・・・」
私がへぇーって驚いた顔をすると、「大丈夫!止められるよ」と笑いながら私のほっぺをブニュって引っ張った。

・・・・・・痛いよ。ニンプは労わって下さい!
私はほっぺをさすりながら、上目遣いにかずにぃを睨んだ。

「それと・・・・・・、オレ、これには自信があるぞ!」
と、腕を組み、肩をそびやかせた。

「ハルナを愛すること!」
私はあまりにもかずにぃが恥かしげもなく嬉しそうに言うので、こっちの方が凄く照れてしまった。
「・・・・・・かずにぃ、恥かしいよ。分かったから、そんな、はっきり言わないで・・・・・・」
私はお布団を顔半分まで引っ張り上げて、真っ赤な顔を隠した。

「大事なことだよ・・・・・・。ハルナ。
オレさ、大学の受験勉強の時、白楽天の『長恨歌』を読んだんだ」

私は、かずにぃが何を言おうとしているのか聞きたくなり、そろそろと布団から顔を出した。
「その中にさ、『比翼の鳥』って言うのが出てくるんだけど、オレ、これにすんげー感動してさ・・・・・・」
「ヒヨクノトリ??」
「 雌鳥と雄鳥がそれぞれ目と翼を一つだけ持っていて、その二羽はいつもぴったりとくっついて飛ぶらしいんだ」
「え?!本当にそんな鳥がいるの?」
「いや、空想上の鳥らしいんだけどさ。つまり、それだけ、『夫婦仲が良い』ってことの譬えらしいんだ」
「へぇ~」
私の反応にかずにぃは苦い顔をして「ばぁ~か」と私の頭をまた小突きながら笑った。

「つまりはさ、オレはお前と、そんな夫婦になりたいって言ってるんだよ。
オレ達・・・、アカンボも含めて、全然半人前だけど、お前と一緒だったら、頑張って飛べるような気がするんだ」




私は、かずにぃの言葉に胸が熱くなった。
こんなに心に響く言葉を今まで誰からも貰ったことがなかったような気がする。


かずにぃは暖かい手で冷え切った私の手をすっぽりと包むと、優しくキスをした。

「・・・・・・もし、オレを許してくれるなら、そしてもし、愛してくれるなら、お前が16歳の誕生日を迎える3月にオレと結婚して欲しい・・・・・・」




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かずにぃの決意

2006年01月23日 23時50分03秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃはベッドを離れ、2、3歩歩くと、机の引出しを開けた。

「ハルナはさ。実はオレのこと、密かにこえーとか思ってるだろ」
「そんなこと・・・・・・」

かずにぃは引き出しから、ライターをひとつ取り出すと、カチカチと音を鳴らせながら何度も点けたり消したりを繰り返し、それをじっと凝視していた。

「いいよ。無理しなくても・・・・・・。
ほら、オレさ、バスケがダメんなってからヤケになって・・・・・・。
高校生なのに、煙草は吸うーわ、マージャンは打つわ、女遊びはするわでさ、散々、親泣かしたし・・・・・・」
「でも・・・・・・、かずにぃ、頑張って、医学部に入ったから・・・・・・おばさん、喜んでたよ」

かずにぃは、苦笑いをすると、
「で、そのオフクロが娘みたいに大切に育ててきたお前を孕ませちまったもんだから、あれからも泣きながら相当、ぶったたかれたよ・・・・・・」
と、今まさに打たれた後かのように左の頬をさすった。

「でさ、オフクロが『これからどうするんだぁー』って言うからさ、『大学辞めて、働いて、ガキとハルナの二人位食わしてみせる!!』って言ったんだ」

かずにぃの手元をじっと見ていると、まるでマジシャンのように引き出しから続々と新しいライターが取り出されていた。

「したら、オフクロのヤツ、『あんたたち、親子3人を食べさせる位の稼ぎはあるわ!それよりも、きっちり大学卒業して見通しをつけなさいよ!』っつーて、回し蹴り食らったよ」

かずにぃは、今度は背伸びして、開き戸の中の箱を下ろし始めた。
「ホント、ガキだよな。親がいなくちゃ、お前とアカンボを食わせることも出来ねーんだもん」
一通り箱を下ろした後、かずにぃは手をパンパンと叩き、手に付いた埃を払い始めた。

そして、ゴミ箱2つを足で引き寄せると、ライターと『Caster7』と書かれた小さな緑色の箱をバラバラと「こっちが燃えるごみか・・・」と、分別しながら捨て始めた。

「何してるの?」
と尋ねる私に、かずにぃは「禁煙」と素っ気無く答えて、ゴミ箱を台所に運んでいった。


そして、再び部屋に戻り、椅子をベッドの近くまで引き寄せると、私の顔を覗き込んで微笑んだ。
「だけど、2児の父親となったからにはさ・・・・・・」

かずにぃの言葉にぎくっとなった私は、「え!?」と小さな叫び声を挙げて、エコー写真に再び目を落とした。
「赤ちゃん、双子なの???」
「いや」
「じゃ、他にも子供がいるの?」

かずにぃは、目を細めると、「オレ、そんなに節操なくないぞ!」と笑いに肩を震わせながら怒った。
「じゃ、もう1人の子供って?」
「お~い!自覚しろよ・・・・・・」
そう笑いながら、私の頭をちょんと小突いた。



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追求

2006年01月23日 22時18分40秒 | 第11章 飛翔編
随分長い時間かずにぃは私を抱きしめた後、ためらいがちに口を開いた。

「ハルナ、大事なことを聞きたい・・・・・・。
1度しか、聞きたくないことだから、正直に話して欲しいんだ」
私は、かずにぃの真剣な声に身を固くした。

「トオルとは、どうする?」
「・・・・・・」
「ヤツとは話し合ったのか?」
私は、小さく頭を振った。


今でも目を瞑るとトオル君の顔が浮かんでくる。
彼のことを思うだけで胸の中を熱い想いがざわざわと駆け巡る。
彼を忘れるなんて、会わないでいるなんて・・・・・・出来るの?

握り締めた手に薄っすらと汗が滲む。

「・・・・・・もう、会わない」
「それで、いいのか?」
「うん」
「後悔は?」
「しない・・・」
「ハルナ、本当に?」

かずにぃは私を抱きしめる手を緩めようともせず、微かに震える声で質問を重ねた。
「後悔はしないんだな?」

「・・・・・・私ね」
そう言い掛けて、震える声を抑えようと息を呑んだ。

「私、病院に行く前に、トオル君にメールを打ったの。
『ごめんなさい。私、待てなかった。もう、会えない』って」

だけど、その後、歩道橋でトオル君に似た人を見掛けただけで、私は走り出してしまっていたんだっけ・・・・・・。
それを思い出すと、メールに託した決意が揺らぎそうになった。

「トオルはなんて?」
私は首を振った。
「直ぐに、電源を切ったから・・・・・・わかんない。でも、もう会わない」

・・・・・・もう、会えない。
彼をもう待っちゃいけないんだ。

「ハルナ・・・・・・。オレ、ヤツと直接話をしたいんだけど・・・・・・」

そう言いながら、かずにぃは私の瞳を覗き込もうと、抱きしめる手を緩めた。
私は彼に必死にしがみ付き、ぎゅっと目を瞑った。
「私は、赤ちゃんを・・・かずにぃを選んだんだよ!それだけじゃ、答えにならないの?」

かずにぃはそれ以上の追求を止め、「分かったよ」とその腕を解いた。




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