フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

冗談?本気?

2005年12月15日 21時52分09秒 | 第9章 恋愛翻弄編
「別に、お風呂に入らなくても良かったのに・・・・・・」
私はちょっと恨めし気に戸の向こう側に座っているトオル君に話し掛けた。

「ハルナ、髪洗った?」
トオル君は私の独り言を無視して質問を投げ掛けてきた。
「ううん。何で?」
「実は、髪にハトのフンが付いてたんだよ。それと、服にもね」
「え?!うそうそ!どこに!?」
「右上、だったかな?」

私は慌てて右上を触ってみた。
鳥の羽と一緒にフンらしき物が・・・・・・。

私がショックを受けたのを察知したのか、トオル君がそぉーっと小声で話し掛けてきた。
「大丈夫?」
「・・・・・・大丈夫じゃない」
私の半泣きの声にトオル君は黙ってしまった。

そうか。それで、彼はお風呂って言ってたんだ。
感謝しつつも、泣きそうになった。
知らないでずっとトオル君の横を歩いてたなんて・・・・・・。




「洗ったげようか?髪」
「え?!」

トオル君の突然の言葉に胸がドキドキしてきた。
冗談?本気?

トオル君は私の返事を待っている。きっと。
どうしよう。
昨日の夜は彼を拒絶してしまった・・・・・・。
もし今も断ったら、彼は気を悪くするかもしれない。
どうしよう・・・・・・。
どうしよう・・・・・・。





長い沈黙の後、
「冗談だよ」
「お願いします!」
と言う私達の声が重なった。

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お風呂パニック

2005年12月15日 21時28分53秒 | 第9章 恋愛翻弄編
トオル君に手を引かれて、石畳の階段を昇った。

「トオル君、ローシって何?」
「このお寺の一番エライお坊さんだよ。
面白くて変なヒトでね。あ、そうだ!気をつけてね。ハルナ」
「気を付けるって何を?」
「会えば直ぐに分かると思うけど・・・・・・」

長い石段を昇り終えると、更に私達は奥へと進んだ。

「こんにちは」

突然、トオル君がちゃんちゃんこを来て、庭を掃いているおじいさんに挨拶をすると、そのヒトはニコニコしながら私達の方にやって来た。

「ほぉ~。トオル君、今度はまた随分カワイイ子を連れて・・・。でぇとかの?」
「そうですよ。僕の彼女ですから、獲らないで下さいよ。老師」

えー!えー!ええーー!!!
このお掃除のおじいさんみたいなヒトがエライヒトなのぉ??
私は、想像したエライヒトのイメージとはかけ離れたこのおじいさんに面喰ってしまった。

「早速ですみません。あの・・・・・・」
「おお。風呂なら出来とるよ」
「そうですか。有り難うございます。ハルナ、お風呂に入っておいでよ」
「そうそう。それがえぇ~」

トオル君は私の肩に手を掛けながら2、3歩進み、突然歩みを止めると、くるりとおじいさんの方を振り向き、
「・・・・・・老師、覗かないで下さいよ」
と、言って睨みつけた。

・・・・・・あはは。
そんな、まさか。
おじいさんだよ、それにエライヒトだよ・・・・・・ね。

「ハルナ、気を抜かないでね。あのエロ老師、女の子大好きだから」
「・・・・・・トオル君、そんなこと言っていいの?エライヒトなんでしょ?あのおじいさん」
「それとこれとは別!」

とりあえず私は言われた通り、気持ち良くお風呂に入っていた。
すると、突然トオル君の声がした。

「老師!なにやってるんですか!!」
私はびくっとして慌ててタオルで胸を隠した。

「ったく、もう。・・・・・・ハルナ、やっぱり、ここで見張っているから」

扉の向こうでトオル君が座り込む音が聞こえた。


それはもっと安心できないよぉ。
私はお風呂に入ったことを心から後悔していた。

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策にハマって

2005年12月15日 00時02分32秒 | 第9章 恋愛翻弄編
「ぷっ!」
セーターを脱がせるなりトオル君は吹き出した。

「ひどいことになってるね」

顔は涙でくしゃくしゃ、目は真っ赤・・・・・・。

「頭はハトの巣だね」
トオル君のコメントが私の凹んだ気持ちに更に追い討ちをかけた。


「トオル君、ヒドイ。ゴクアク・・・・・・」
「ごめん。でも、思わず笑っちゃったよ。・・・・・・可愛くてね」
「付け足しみたいに『可愛くてね』なんて言われても・・・・・・」

拗ねてトオル君に背中を向けて歩こうとする私の背後から彼はぎゅっと抱きしめて、そっとうなじにキスをした。
「可愛いって思ったのはホント」

ずる過ぎる。
これで傷付いた気持ちをとろかしてしまうなんて・・・・・・。

「ハルナ、これからお風呂にでも入って着替える?髪も服も鳥の羽とエサで凄いことになってるしね」
「お、お風呂?」
私はトオル君の言葉にどきんとなりながら、「それってどういうこと」と聞こうとしたけど、彼はケータイで誰かと話し始めた。

「老師。すみません。近くまで遊びに来てるんですが、ちょっとお願いしたいことがありまして・・・・・・。今、伺っても宜しいでしょうか?」

ロウシ?って何??伺うってどこに??



私の不安が瞳から伝わったのかトオル君は「大丈夫だよ」と囁いてそっと私にキスをした。


「ト、トオル君!ヒトが見てるよ!ハトも見てるし!さっきの中学生だって!!」
案の定、さっきの女の子達は「きゃーーー!!生チューだぁ!!」って私たちを指差して叫んでいる。

トオル君は、彼女たちの方をちょっと見ると、「気にしない、気にしない」と言って、再び私の体を引き寄せて、さっきより長い長いキスをした。

女の子達は身を捩りながら更に黄色い声を甲高くさせていた。


私はと言うと、目がクラクラして体中が火照ってきた。
「さぁ、行くよ!ゆでだこさん」

彼は彼の策にハマって骨抜きになった私の腰に手を回すと、ゆっくりとジャリ道を歩き始めた。


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トオル君の腕の中

2005年12月14日 21時52分32秒 | 第9章 恋愛翻弄編
トオル君が次に連れて行ってくれた場所は鶴岡八幡宮だった。

「わぁ!ハトがいっぱいいる!!」
私は、初めて見る広々とした神社と沢山のハトに大興奮していた。

トオル君が、「ほら、ここが源平池で・・・・・・」なんて解説してくれていたけど、はしゃぎ過ぎて聞こえない。

「え?!聞こえないよぉ」と、スキップしながら私はハトめがけてダッシュした。

トオル君は、「しょうがないなぁ」の呆れ顔。
だけど、平気。
私はそんな彼の顔も好きだもん。

いち早くハトのエサをゲットして、私はしゃがみ込んで鳥達にエサをあげていた。


・・・・・・あれ??おかしい??


トオル君が来ない・・・・・・と思って彼を探して視線を彷徨わせると、中学生くらいの女の子達に囲まれていた。

「きゃー!カッコイイ!!」
「ちょーイケてるよね」
「はぅどぅーゆーでゅー?」
「一緒に写真撮って下さ~い」

・・・・・・ナンパされてる。

「ボク、ニッホンゴわっかりませーん、ので、しつれーします」
・・・・・・怪しげな外人と化して逃げようとしてる。

私は彼の困った顔がおかしくって他人のフリしながら遠くで笑ってた。


その時、私のすぐ側に立って、ハトにエサをあげていた子供が手を滑らせて、私の頭にエサをざーっとこぼしてしまった。

沢山のハトが私目掛けて飛んで来る。


「た、助けて!トオル君!!」

私はエサとハトを振り払いながら駆け出した。

「ハルナ!」
トオル君は、急いで私に駆け寄ると、セーターを脱いで頭に被せてくれた。

「はぁー。びっくりしたよ。大丈夫か?ハルナ?」
「ふっ・・・・・・。ひっく・・・・・・」
トオル君は震える私の頭をセーター越しにずっと「よしよし」って言いながら撫でてくれた。
恐かった・・・・・・。


小さい頃観てベッドで震えたヒッチコックの「鳥」って映画みたいだった。

私はトオル君の温かい腕の中で、小さい子供のように泣きじゃくってしまったんだ。

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恋人達のタメイキ

2005年12月13日 23時46分37秒 | 第9章 恋愛翻弄編
「あのさ。聞いてもいいかな?」
車に乗り込むなりトオル君は大真面目な顔で私に質問した。
「もしかして、以前、プレゼントしたペンダント、気に入らなかった?」

私は思ってもみなかった彼からの質問に一瞬キョトンとしてしまった。

「え?え??え???そんなことないよ!すんごい嬉しかった。どしたの?急に?」
「いや・・・・・・さ。ハルナしてないから・・・・・・。無理して喜んだのかと思って」
「どうして、そうなるの?確かに身に付けてないけど、それは無くしたくないからなんだもん」

私はトオル君の疑いの眼差しにちょっとムッとして、バッグから財布を取り出した。

「落としたくないから、この中に入れてるの!」

トオル君は少しほっとした表情を見せながらも、私への抗議の声を緩めなかった。

「ハルナ・・・・・・。そんなトコに入れてないでさ。着けてよ。プレゼントの意味無いよ、それじゃ。
気に入らなかったんじゃないかって、内心ショックを受けたよ」
「だって、無くしたら悲しいし・・・・・・」
「大丈夫!君はぽーっとしてるから、身に着けてても、財布に入れてても無くす時は無くすよ。それよりも、着けてくれた方が嬉しいよ」

トオル君のムチャクチャな主張に私は更にむくれてしまっていた。
「これ無くしたらショック大きいもん。立ち直れないもん」
「無くしたら新しいのを買ってあげるよ。だから安心して着けようよ。ね?!」
「だけど、トオル君が初めてくれたプレゼントはこれだもん。
他のじゃ、ダメなの!これは特別なんだもん!」

トオル君は、何も言い返さずに、はぁっと小さく溜息を吐いた。

私達はしばし無言で抗議の鍔迫り合いをした。

昔、誰かが言っていたことを思い出す。
沈黙の時間のことを「天使が通る」と言うらしいってことを。
きっとトオル君と私のこの沈黙の時間にも、天使はオロオロしながら何度も私達の間を往復しているんだろうな。


だけど、天使が右往左往している時間に堪え切れず最初に口を開いたのは私の方だった。

「・・・・・・呆れた?怒ってる?ちゃんと言ってくれないと不安になる」
私は、彼の溜息の意味を幾通りもの意味で考えてしまって、不安になってきた。

「違うよ。嬉しくて・・・・・・。で、可愛いなぁって思って。
車を運転してなきゃ、抱きしめてキスしたいとこだったのに。残念」


私もほっとすると共に、徐々にいとおしい気持ちが込み上げてきた。

じゃぁ、後で気絶するくらいいっぱい抱きしめて、そしてキスして・・・・・・

そんなことが言えるくらい大胆な性格じゃない自分の情けなさに「はぁ」って短い溜息を吐いた。

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鎌倉高校前駅にて

2005年12月13日 10時26分52秒 | 第9章 恋愛翻弄編
トオル君は車を路肩に寄せると、助手席のドアを開けた。
「日本に来てここの景色のあまりの美しさに感動したんだ」

トオル君の歩調に合わせて必死に小走りになっている私に気付いて、彼は歩調を緩めた。

「日本に来て?」
「あ?!うん。ここに来る前はアメリカにいたんだ」
「アメリカ?」

トオル君は小さく頷くと、古い木造りの駅へと私を連れて行った。
「鎌倉・・・・・・高校前、駅?」
トオル君はそのまま改札口を通り抜けた。
「車掌さんは?切符は??」

トオル君は微笑んで、あっけらかんと答える。
「車掌さんは江ノ電を運転中。切符は乗らないから買わない」
「トオル君。不良記録更新中ですね」
「そのセリフは道路側を見てから言って下さい」

トオル君の指す方向には、穏やかな冬の光を弾く広々とした海が広がっていた。
「うっわぁ!すごい!!すごい!!」
私はあまりにも美しい景色に「すごい」以外の言葉が思いつかなかった。

「いいなぁ。鎌倉高校の人達は皆こんな美しい景色を毎日見ながら高校に行けるんだ。
私も、ここに転校しようかな~」
「それには、ここも良くないと入れないよ」
トオル君は頭を指差して嬉しそうに笑った。
「イジワル!」と上目遣いで怒る私に、彼は「ごめん」と私の肩を抱く。

トオル君の隣りは心地良い・・・・・・。

かずにぃの愛が奪う愛なら、トオル君の愛は与える愛だ。
かずにぃに奪われて枯渇し、何もかも失っていく私に、彼は愛と言う尽きることの無い泉を私に与えてくれる・・・・・・。

駅のベンチに腰掛けトオル君の肩にもたれながら海に浮かぶ船の影を見つめていた。
そっとトオル君の唇が重なる。

「ハルナ、君と一緒に来れて良かった」
トオル君の声が、海の波の音に乗って心地良く私の耳に響いた。




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守ってあげたい

2005年12月12日 01時45分42秒 | 第9章 恋愛翻弄編
海岸線沿いに車を走らせるトオル君の横で、私はフロントガラスの先の涙に歪んだ景色を見ていた。

「僕は両親のことを本当に愛しているし、尊敬もしている。
だけど、僕が一体どこから来たのか、僕自身のルーツを知りたいんだ」
「・・・・・・お父さんやお母さんからは何も聞かなかったの?」

トオル君は頭を振った。
「親を傷付けたくない。だから、僕は知らない振りをしているんだ。」
「それって、本当に、トオル君の望むことなの?
お父さんもお母さんも、それで本当に平気なのかな?」

トオル君は「間違っているかもしれないけど、・・・恐いんだ。本当のことを知れば何もかもが崩れてしまいそうで」と小さく呟いた。

「それに、僕が一体誰なのか、知ってどうしようと言うのかも、実は分からないんだ」

トオル君は深い混乱と悲しみの中に今も住んでいて、その場所は常に漂流している・・・・・・そんな気がした。

まるで棲家を失ったカモメのようにトオル君の心は、港を求めてさ迷っているような淋しさが潜んでいた。

私は今までトオル君の愛にどっぷり浸かっていながら、それに気付きもせず、自分のことを嘆いてばかりだった。
トオル君が本当はどんなに苦しんでいるのか耳を傾けようともしなかった。

私は初めて男のヒトを救いたいと思った。
そして、守ってあげたいと・・・・・・。

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笑顔の下の涙

2005年12月10日 21時33分56秒 | 第9章 恋愛翻弄編
トオル君は居間に戻ってくると、マントルピースの上にあった鍵の束を無造作に掴みポケットに入れた。

「父さん、後は頼みます。それから伯母様達にはお悔やみを」
「・・・・・・分かった。トオル、お前はやはり来ないのか?」
「うん」

トオル君はお母さんに「行って来るよ」と言って優しく頬に口付けした。

私はご両親にペコリと頭を下げて挨拶をすると先に出掛けた彼の後を追った。


私は、さっきの事が気になって車に乗り込むなり彼に質問した。
「トオル君、プレス発表っていってたけど、何?」

トオル君は何も答えないまま前を見つめてハンドルを握っていた。

「病院を売った」
「病院を?売ったって?」
「おばあ様が、死んだんだ」

突然、病院のことからおばあ様のことに話が飛んだ事を不審に思いながら私は疑問を打ち消し、代わりの質問を言葉に乗せた。
「トオル君、おばあさん、亡くなったの?」
「うん。昨夕ね」
「そんな・・・・・・」

お悔やみを言おうとして私は重要なことに気が付いた。
「昨夕って、じゃぁ、トオル君お通夜とか、お葬式は?」
「おばあ様は、僕を嫌っていた。それに・・・・・・」
そう言い掛けてトオル君は口を固く閉ざした。

どうして彼は行かないのか、聞いてはいけないような気がして私も口を閉ざした。
「ハルナも気付いたんだろう?!
あの家族の中で僕だけが異国の人間なんだ。
隔世遺伝でもなく、ハーフでもなく・・・・・・、それなのに、僕は日本人なんだ。
そんな僕をおばあ様は最期まで、拒絶した・・・・・・」

私は、涙が止め処も無く溢れ止まらなかった。
「ハルナ、君が泣くことじゃないよ」

トオル君は左手を伸ばすと私の髪を優しく撫でながら微笑んだ。
その微笑の下に涙を隠しながら。


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求める心

2005年12月09日 22時16分00秒 | 第9章 恋愛翻弄編
私達がこれから朝食を取ろうとした時、不意に玄関のチャイムが鳴った。
最初に受話器を取ったトオル君のお母さんは次第に困惑した顔になってきた。

静かに耳を傾けていたトオル君は彼女から電話を取り上げると、低く冷静な声で話し始めた。

「今回の件について正式なプレス発表の日程と場所は追って担当者の方から連絡します。
お引き取り下さい。今は何も申し上げることはない」

彼が何を言っているのか、私は全く理解できなかった。

プレス発表って?連絡って??

私は、さっきまでのトオル君とはまるで別人を見るような気がしていた。

はにかむトオル君・・・・・・。
優しいトオル君・・・・・・。
照れるトオル君・・・・・・。
困った顔をするトオル君・・・・・・。

どれも私が知っているトオル君の顔だ。
でも今のトオル君は・・・・・・そのどれでもない。
眼光は鋭く、堂々として、風格すら漂っている。

「分かりました。今、伺いますが、撮影はご遠慮願いたい」
トオル君の目には仄かに碧色の炎が揺らめいているような気がした。

「ハルナ、ごめん。直ぐ戻るから、二人と一緒に朝食を取っていてくれるかな」
そう言うトオル君の目はいつもの優しい目だった。

気のせいだったんだ。きっと。


「徹は普段学校でどんな感じなのかしら?」
「楽しんでいるんだろうか?」
「無理をしている様子はありませんか?」
「友達は出来たんだろうか?」

私は席に着くなり、ご両親から矢継ぎ早に質問を受けた。
だけど、私もすごく彼のことを知ってるわけじゃない。
学校の行きと帰りにちょっぴり会えるだけ・・・・・・。


もっと彼のこと知りたいなぁ・・・・・・


そっと溜息をつきながら、昨日の夜、私だけに見せてくれた彼の切ない表情と、私を求める指先を思い出して、私は真っ赤になったまま俯いてしまっていた。


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彼の瞳、彼の髪

2005年12月09日 21時11分06秒 | 第9章 恋愛翻弄編
私は階段を降りている時、トオル君に思い切って昨日の夜から気になっていたことを聞いた。
「トオル君、もしかしてあの時の車椅子の男の子?」
トオル君は応える代わりに、
「君は随分髪を思い切って切っちゃったよね。
キレイだったのにね。もったいない」
彼は私の頭に手を回して引き寄せると軽くキスをした。

トオル君の言った通り、ご両親は既に起きて居間のソファに座っていた。
でも、二人とも私達に気付かないのか深刻そうな顔をしていた。
「あの・・・・・・おはようございます。昨晩は泊めて頂いて・・・」
そう言い掛けて、はっとした。


トオル君のお父さんは、トモと行った産婦人科医院の先生だった。
私を覚えていないのか向こうは無反応だ。
だけど、よくよく近づいてみると別人のような気もする・・・・・・。
そう思いたいから、そんな気がするのかな・・・・・・。


二人は弾かれたようにソファから立ち上がると、私達にソファを進めながらにこやかな顔で迎え入れてくれた。
「あ、あら。昨晩はよく眠れたかしら?」
「僕は良く眠ったけど、ハルナは?」

突然私に振らないで下さい!
心の動揺が収まらずシドロモドロの私に、トオル君が助け舟を出してくれた。
「今朝、彼女を起こしに部屋まで行ったら良く寝ていたのか、なかなか出てきませんでしたよ」

え?!
そ、・・・そか。
そだよね。
幾らなんでも一緒の部屋で寝ていたことにしない方がいいよね。
トオル君の機転に感謝しつつほっとした。

それによ~く、見てみるとトオル君のお父さんは産婦人科医院の先生とは別人だった。
先生の方が、もっと痩せていて、髪がカール気味だったような気がする。
トオル君のお父さんは白髪混じりながらもサラサラの髪・・・・・・

ここにきて私はその違和感にはっとなった。
トオル君のご両親は共にどう見ても生粋の日本人だ。
トオル君のように、金髪でも、碧色の目でもない・・・・・・

私が咄嗟にトオル君の方を振り向くと、彼は私が思ったことを全てを察したかのようにちょっとだけ頷いた。

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