フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

白銀の朝

2006年01月29日 01時13分32秒 | 第11章 飛翔編
翌朝、私は地震で降って来た本の下敷きになると言う悪夢にうなされた。

重い・・・・・・
助けて!
重くて死にそう・・・・・・

「誰か!」
と、叫んで目が覚めた。

「ここは、・・・かずにぃのマンション!?」
私はベッドから起き上がろうとして、悪夢の正体を掴んだ。

「かずにぃ、ひどいよ!」
私は、お腹の上に乗っていた彼の足を下ろすと、ぺちんと叩いた。
「赤ちゃんも重かったって言ってるよ!きっと」
そんな私のことなんかお構いなしで、彼はグーグーいびきをかきながら眠っていた。
夢の中の地響きの正体もついでに掴んだので私は一人むぅ~っと膨れた。

そう言えば、昨日の雪はどうなったんだろう。
私は窓まで忍び足で近寄ると、カーテンを開けた。

だけど、あまりにも眩しい光の照り返しに思わず目を細め、顔を背けた。
漸くして目が慣れて来た頃、そっと窓の外に目をやると、そこにはふかふかとした一面の雪の絨毯が敷き詰められていた。
「ふぁぁぁ!!!」


私は、急いでベッドにジャンプするとかずにぃを揺り起こした。
「かずにぃ!!雪、積もってるよ!外に見に行こうよぉ!!」
「寝みぃ~。1人で行ってこいよ」
1人で行ったって・・・・・・。
この感動を一緒に楽しめるヒトがいないとつまんないよ。

「・・・・・・あ、そ。いいもん。1人で行ってくるよ。
私、転んじゃうかもしれないよぉ。風邪とかも引いちゃったりして・・・・・・」
かずにぃは「是非!お供させて頂きます」と、掛布団を蹴飛ばしながらベッドから飛び起きた。

「ったく、ガキだよなぁ!たかが、雪ひとつで大騒ぎしやがって・・・・・・」
エレベーターに乗りながら、かずにぃはブツブツ言っていた。

だけど、ひとたび外に出るとかずにぃは「オレが一番!!」とはしゃぎ、ダッシュで新雪に足跡を付け捲くり、ソッコーで雪だるま(命名:ドラ○もん)を5つ作り上げた。
そして、かずにぃの作っている雪だるまを近くで見ていた小学生達が子分として採用され、作り終えると雪合戦の犠牲者となっていた。


もう、どっちが子供なの?


かずにぃは、雪球をせっせと作り、子供達に1個投げつけられる度にその倍を投げ付けて返していた。

・・・・・・手加減しようよ・・・・・・

あれで、父親になるなんて、「不安だ~」。

かずにぃは夢中になって雪球を投げながら、「え?!何か言ったか」と耳をそばだてた。

「・・・・・・ですって言ったの」
私の、小さな声に「あ???なに言ってるんだか、聞こえねぇ~!!」と大きな声で聞き返した。

「プロポーズはおっけーですって言ったの!!」
かずにぃはびっくりした目で、私を見つめ、腕に抱え込んだ雪球を5つボトボトと落とした。
「まじ?!」
「うん、まじ」
「・・・・・・感激のあまり声が出ないよ」
「・・・・・・出てるよ、声」

彼が私の方へ歩み寄り、私の手に触れようとした瞬間、
「隙ありぃ~!!」
と、子供達は背後からドラえ○んをかずにぃの後頭部目掛けて投げつけた。
よろけた彼は、そのまま顔から倒れこみ、それは見事な極上の笑みを浮かべた顔拓を雪上に残したんだ。




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雪の舞う夜

2006年01月28日 18時56分39秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは私をすっぽり包み込むように抱きしめると、うとうとし始めた。

ごめんね。かずにぃ・・・・・・

「こう言うのは『頑張って』『無理して』するものじゃないから」
前にトオル君が言った言葉を思い出す。

だけど、頑張らないと・・・・・・
かずにぃはもう十分私に温かいキモチをくれている。
私は何も返せていない。
かずにぃをトオル君よりも愛する努力をしなくちゃいけないのに。

「かずにぃ、ごめんね・・・・・・。ホントに、ごめんね」
私はかずにぃの節ばった指を両手で包み込みながら頬に当てた。
「・・・・・・ん~?いいから、ネンネしな」
かずにぃは私の頭をポンポンと叩いた。

私は寝ぼけ眼のかずにぃの顔の位置まで体を移動させると、その唇にキスをした。
驚いたかずにぃは突然ぱちっと目を覚ました。

「どした?!ハルナ・・・・・・ん?」
かずにぃは体を起こし、顔をしかめて心配そうに私の瞳を覗き込んだ。

「・・・・・・何、泣いてんだよ」
「ごめん」
「って、何?」
「さっき・・・・・」
「あ~、あれ、か」
と、かずにぃは起こしていた体を再びベッドの上にどさっと横たえた。

「まぁ、あれだ。・・・・・・うん。お前がサ、しつこく聞くから、逆に『おっけぇ』なのかと思って勘違いしただけな訳で・・・・・・。
んで、拒絶されたからむかっとしただけな訳で・・・・・。
手ぇ出さねーとか、言いながらもさ、まぁ、ちょぉっとは『大丈夫なのかな~?』ってオイタをしちゃったんだよな・・・・・・」

かずにぃは「よっこらしょ」と再び私をその胸の上に抱きしめると、「ごめんな」と小さな声で誤った。

「それに、オレも男だからさ、その辺の事情ってヤツも分かってくれると嬉しいんだけど」

私はかずにぃの言っている「その辺の事情」は分からなかったけれど、「うん」とだけ答えた。
かずにぃは笑うと、「まぁ、おいおい。少しずつ、だな」と笑った。


かずにぃはその胸に再びすっぽりと私を包み込むと、
「あったけぇ~。お前、天然湯たんぽだなぁ」
と、私の頭をその頬でくしくしにした。

そうしながらも突然、背後を振り向き、ベッドから起き上がった。
「さっきっから、背中から冷気が入るなぁと思ったら、カーテン開けっぱなだった」
そして、「さびっ!」と寒さに体を震わせながらカーテンを閉めに行った。

「あ!」
突然の彼の叫び声に私はビクッとして「どうしたの?」と反射的に聞き返した。

「こっち来てみ!」
「何?」
「いいから。そこのオレのカーデ着てこっちに来いよ」

私は、窓際に立ち、彼の目線に並んで外を見た。
暗闇の中を、花びらのような白い雪がちらちらと、その陰影をライトに映し出しながら舞い降りてきた。

「・・・・・・っわぁ~。雪だ!!」
「さみぃはずだよな」

かずにぃは私の肩に手を置くと体を引き寄せた。
そして私達は、今年初めて横浜に舞い降りた雪をしばらくただ黙って見つめていた。



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震える夜

2006年01月26日 22時39分13秒 | 第11章 飛翔編
夕方になるとかずにぃは極上のまずい料理を私のために作ってくれた。

「こ、これ、ホントに食べなきゃダメなの?」
「栄養満点だから、文句言わずに食え!」

かずにぃは、ご飯にもやしと、ワカメと、ひじき、さつま揚げ、それから・・・それから・・・謎な食べ物を混ぜて炒めたモノにゴマを振ってお皿に盛った。
私の想像を遥かに絶したご飯が目の前に差し出された瞬間、幸運にもつわりで「うっ!」と吐き気を催し、最悪の状況を逃れることが出来た。

かずにぃは「っかしーな??味はイケテルと思うけどなぁ」と言いながら、口に入れ、「うっ!!」と、口を抑えた。

結局その夜は和食の出前を取って二人で大人しく食べることにした。


夜も更けて来た頃、彼はベッドを整えて「寝るぞ」と言いながら、私においでおいでをした。

「え?!私もここで寝るの?」
「ここしかねぇーもん」
「・・・・・・エッチなこと、しないよね?」
「分かんねーぞぉ」
かずにぃは嬉しそうにニヤニヤ笑った。

「・・・・・・スケベオヤジ」
「まだ19なんだけど」
「けど、手つきが既にオヤジ入ってるよ」
私は体を強張らせながらじりじりと扉まで後退した。

かずにぃは「おいおい・・・・・・」と座っていたベッドから立ち上がると、
「アカンボがびっくりするといけないから何もしねーよ」と、口を尖らせると私の手を引いてベッドに横たえた。

「もっとそっちに寄れるか?」
私が壁側に体を寄せると、かずにぃもその隣りに入り込み、私に腕枕をした。

「・・・何もしないよね?!」
「しねぇーって、さっきから何度も・・・・・・」
かずにぃは眠そうに大きなあくびを一つしたかと思うと途中で呑み込み、「え?!」と声を上げ、急に上体を起こした。

「もしかして期待してる、とか!?」
私が、思いっきり首を振ると、少しむっとした顔をした。

「なんか、分かっててもそこまできっぱり拒絶されると、やっぱムカツクなぁ」
そう言いながら、ゆっくりと私の両胸に手を忍ばせてきた。

「きゃ!」

私がベッドから跳び上がり逃げようとすると、
「まぁ、マッサージってことで。それにこんなにささやかな胸じゃ、ちっともヨクジョーしねぇーって・・・・・・。
おっきくなんないと、母乳出ないぞぉ」
と、私の背中に顔を埋めて胸を揉み始めた。

そして、徐々にジャージのジッパーに手を掛け、胸の谷間に手を這わせていった。
かずにぃが息を殺しながら、私の動向に全神経を張り巡らせているのが伝わってくる。
彼の不規則な呼吸に呼応するかのように、私の呼吸も徐々に乱れ、意識が遠のいていきそうになる・・・・・・。

「や、やっぱり、ダメ!ダメ!!」
私はかずにぃの両腕を思いっきり、引っ張って胸から外した。

「ごめん・・・・・・お休み」

かずにぃは私の胸から手を離すとあっさりと撤退してくれた。

私は、ドキドキする胸をそっと手で包みながら、かずにぃに聞こえないように震える息を必死で抑えていた。





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比翼の鳥

2006年01月25日 21時36分25秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは「ははっ」と子供っぽく笑った後で、急に優しい顔になり、
「もう苦しくないか?」と言って、私の顎に手を添えちょっと持ち上げると顔色を窺った。

私は小さく何度も頷くとかずにぃは安堵の溜息を吐いた。


「オレ、今は何の力も無いけど、せめて父親として今出来ることをしようと思うんだ」
私が、「何を?」と首を傾げると、彼は指を一本ずつ立てながらその出来ることを教えてくれた。
「まずは、勉強を頑張って一日も早く医者になる。まぁ、これは当然か・・・・・・」
人差し指を立てながら、かずにぃはニヒルな笑いを浮かべた。

「次に、さっきの禁煙・・・・・・」
私がへぇーって驚いた顔をすると、「大丈夫!止められるよ」と笑いながら私のほっぺをブニュって引っ張った。

・・・・・・痛いよ。ニンプは労わって下さい!
私はほっぺをさすりながら、上目遣いにかずにぃを睨んだ。

「それと・・・・・・、オレ、これには自信があるぞ!」
と、腕を組み、肩をそびやかせた。

「ハルナを愛すること!」
私はあまりにもかずにぃが恥かしげもなく嬉しそうに言うので、こっちの方が凄く照れてしまった。
「・・・・・・かずにぃ、恥かしいよ。分かったから、そんな、はっきり言わないで・・・・・・」
私はお布団を顔半分まで引っ張り上げて、真っ赤な顔を隠した。

「大事なことだよ・・・・・・。ハルナ。
オレさ、大学の受験勉強の時、白楽天の『長恨歌』を読んだんだ」

私は、かずにぃが何を言おうとしているのか聞きたくなり、そろそろと布団から顔を出した。
「その中にさ、『比翼の鳥』って言うのが出てくるんだけど、オレ、これにすんげー感動してさ・・・・・・」
「ヒヨクノトリ??」
「 雌鳥と雄鳥がそれぞれ目と翼を一つだけ持っていて、その二羽はいつもぴったりとくっついて飛ぶらしいんだ」
「え?!本当にそんな鳥がいるの?」
「いや、空想上の鳥らしいんだけどさ。つまり、それだけ、『夫婦仲が良い』ってことの譬えらしいんだ」
「へぇ~」
私の反応にかずにぃは苦い顔をして「ばぁ~か」と私の頭をまた小突きながら笑った。

「つまりはさ、オレはお前と、そんな夫婦になりたいって言ってるんだよ。
オレ達・・・、アカンボも含めて、全然半人前だけど、お前と一緒だったら、頑張って飛べるような気がするんだ」




私は、かずにぃの言葉に胸が熱くなった。
こんなに心に響く言葉を今まで誰からも貰ったことがなかったような気がする。


かずにぃは暖かい手で冷え切った私の手をすっぽりと包むと、優しくキスをした。

「・・・・・・もし、オレを許してくれるなら、そしてもし、愛してくれるなら、お前が16歳の誕生日を迎える3月にオレと結婚して欲しい・・・・・・」




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かずにぃの決意

2006年01月23日 23時50分03秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃはベッドを離れ、2、3歩歩くと、机の引出しを開けた。

「ハルナはさ。実はオレのこと、密かにこえーとか思ってるだろ」
「そんなこと・・・・・・」

かずにぃは引き出しから、ライターをひとつ取り出すと、カチカチと音を鳴らせながら何度も点けたり消したりを繰り返し、それをじっと凝視していた。

「いいよ。無理しなくても・・・・・・。
ほら、オレさ、バスケがダメんなってからヤケになって・・・・・・。
高校生なのに、煙草は吸うーわ、マージャンは打つわ、女遊びはするわでさ、散々、親泣かしたし・・・・・・」
「でも・・・・・・、かずにぃ、頑張って、医学部に入ったから・・・・・・おばさん、喜んでたよ」

かずにぃは、苦笑いをすると、
「で、そのオフクロが娘みたいに大切に育ててきたお前を孕ませちまったもんだから、あれからも泣きながら相当、ぶったたかれたよ・・・・・・」
と、今まさに打たれた後かのように左の頬をさすった。

「でさ、オフクロが『これからどうするんだぁー』って言うからさ、『大学辞めて、働いて、ガキとハルナの二人位食わしてみせる!!』って言ったんだ」

かずにぃの手元をじっと見ていると、まるでマジシャンのように引き出しから続々と新しいライターが取り出されていた。

「したら、オフクロのヤツ、『あんたたち、親子3人を食べさせる位の稼ぎはあるわ!それよりも、きっちり大学卒業して見通しをつけなさいよ!』っつーて、回し蹴り食らったよ」

かずにぃは、今度は背伸びして、開き戸の中の箱を下ろし始めた。
「ホント、ガキだよな。親がいなくちゃ、お前とアカンボを食わせることも出来ねーんだもん」
一通り箱を下ろした後、かずにぃは手をパンパンと叩き、手に付いた埃を払い始めた。

そして、ゴミ箱2つを足で引き寄せると、ライターと『Caster7』と書かれた小さな緑色の箱をバラバラと「こっちが燃えるごみか・・・」と、分別しながら捨て始めた。

「何してるの?」
と尋ねる私に、かずにぃは「禁煙」と素っ気無く答えて、ゴミ箱を台所に運んでいった。


そして、再び部屋に戻り、椅子をベッドの近くまで引き寄せると、私の顔を覗き込んで微笑んだ。
「だけど、2児の父親となったからにはさ・・・・・・」

かずにぃの言葉にぎくっとなった私は、「え!?」と小さな叫び声を挙げて、エコー写真に再び目を落とした。
「赤ちゃん、双子なの???」
「いや」
「じゃ、他にも子供がいるの?」

かずにぃは、目を細めると、「オレ、そんなに節操なくないぞ!」と笑いに肩を震わせながら怒った。
「じゃ、もう1人の子供って?」
「お~い!自覚しろよ・・・・・・」
そう笑いながら、私の頭をちょんと小突いた。



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追求

2006年01月23日 22時18分40秒 | 第11章 飛翔編
随分長い時間かずにぃは私を抱きしめた後、ためらいがちに口を開いた。

「ハルナ、大事なことを聞きたい・・・・・・。
1度しか、聞きたくないことだから、正直に話して欲しいんだ」
私は、かずにぃの真剣な声に身を固くした。

「トオルとは、どうする?」
「・・・・・・」
「ヤツとは話し合ったのか?」
私は、小さく頭を振った。


今でも目を瞑るとトオル君の顔が浮かんでくる。
彼のことを思うだけで胸の中を熱い想いがざわざわと駆け巡る。
彼を忘れるなんて、会わないでいるなんて・・・・・・出来るの?

握り締めた手に薄っすらと汗が滲む。

「・・・・・・もう、会わない」
「それで、いいのか?」
「うん」
「後悔は?」
「しない・・・」
「ハルナ、本当に?」

かずにぃは私を抱きしめる手を緩めようともせず、微かに震える声で質問を重ねた。
「後悔はしないんだな?」

「・・・・・・私ね」
そう言い掛けて、震える声を抑えようと息を呑んだ。

「私、病院に行く前に、トオル君にメールを打ったの。
『ごめんなさい。私、待てなかった。もう、会えない』って」

だけど、その後、歩道橋でトオル君に似た人を見掛けただけで、私は走り出してしまっていたんだっけ・・・・・・。
それを思い出すと、メールに託した決意が揺らぎそうになった。

「トオルはなんて?」
私は首を振った。
「直ぐに、電源を切ったから・・・・・・わかんない。でも、もう会わない」

・・・・・・もう、会えない。
彼をもう待っちゃいけないんだ。

「ハルナ・・・・・・。オレ、ヤツと直接話をしたいんだけど・・・・・・」

そう言いながら、かずにぃは私の瞳を覗き込もうと、抱きしめる手を緩めた。
私は彼に必死にしがみ付き、ぎゅっと目を瞑った。
「私は、赤ちゃんを・・・かずにぃを選んだんだよ!それだけじゃ、答えにならないの?」

かずにぃはそれ以上の追求を止め、「分かったよ」とその腕を解いた。




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写真の中の決意

2006年01月23日 18時45分38秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは机を塞ぐようにその前に立ちはだかると、後ろ手にすぅっと写真を抜き取ったようだった。

「宇宙の写真?」
でも何となく違うような気がする・・・・・・。


かずにぃは手を後ろにしまったまま、小さな声で答えた。
「・・・・・・写真」
「え?」

良く聞こえなくて、彼の後ろを見ようと私は首を傾け、「見ちゃだめなもの?」と質問した。
「・・・・・・エコー写真」
「エコー写真って?」
私は初めて聞く言葉に首を傾げた。

暫くの間があった後、かずにぃはしぶしぶと写真を差し出した。
「お前とオレのアカンボの写真」
「・・・・・・この写真が?赤ちゃんの??」
「お前、この間、産まないとか言ってたし、動揺するといけないから・・・・・・」

そのテレビのざらざらとしたノイズの入ったような扇状の形をした白黒写真の中に、大きな丸い黒の輪郭が見えて、その中に2つの白い豆のようなものがあった。

「医師にはお前には見せないで欲しいって頼んでて・・・・・・」

これが・・・・・・赤ちゃん・・・・・・?

私は震える手で写真を手に取ると、もう片方の手でそっと自分のお腹に手を当てた。

「医師も見せない方がいいならって、お前に内緒でオレだけに写真を・・・・・・」
かずにぃは、目を伏せながら言い難そうに言葉を繋いだ。

「ね。この写真、どう見ればいいの?」
「え?!」
「頭とか、体とか、手とか??あるの?」

かずにぃは慌てて屈みこむと、私の方をちらちら見ながら白い二つの豆のようなものを指差して説明を始めた。

「え!?ああ・・・・・・。えぇーっと、こっちが頭とか言ってたよ。
で、こっちが胴体で・・・・・・」

私はぶわーっと涙が溢れてきた。
かずにぃは「ごめん。しまい忘れて・・・・・・」と謝りながら、慌てて私から写真を取り上げようとした。

「あっ!待って、違うの。まだ、見たい!」
「・・・・・・ホントに、大丈夫なのか?」
かずにぃは、再び私の手の中に赤ちゃんの写真を返してくれた。

写真をじっと見つめていると、涙と共に笑顔がこぼれた。
「私ね、赤ちゃんが死んじゃうって思った時、夢中で助けることしか考えられなかったの。
妊娠したって聞いた最初の時、凄く恐くて・・・・・・恐くて・・・・・・。
絶対に、産めないって思ってて。
でも、あの時、初めて気が付いたの」

かずにぃは不安そうな顔をしながら少し頭を傾けると、私の頬を伝う涙をそっと拭いて、「何を気付いたんだよ」と尋ねた。

「お腹の中に、本当に赤ちゃんがいて、必死で生きていたんだって・・・・・・。
私が死にたくないって思うのと同じ位・・・・・・、ううん、それ以上に、この子も必死で『生きたい』って叫んでるんだって思えて・・・・・・。
どんどん、体から赤ちゃんが消えていく気がして・・・・・・。
気付いたら夢中で叫んでたの。『赤ちゃんを助けて』って。
今でも、正直、産むって思うとプルプル震えちゃうのにね。不思議・・・・・・」

かずにぃは何も言わずそっと壊れ物を包み込むようにその広い胸に私を包み込んだ。




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かずにぃの部屋

2006年01月22日 22時19分03秒 | 第11章 飛翔編
車のドアを開けると、かずにぃは私を部屋まで抱き抱えた。

「大丈夫か?」
「へ・・・っき」
「うそつけ!」

かずにぃは乱暴に部屋の戸を蹴り開けると、ふわりと私をベッドの上に横たえた。

そして、部屋の電気を点けるとタンスの中を探り始めた。
「服、服、服は、・・・・・・っと。ジャージでいいか?」
「ううん。これで、いい」
「そんなヒラヒラした服じゃ寛げねーだろ?!」

かずにぃはベッドの上に、ジャージと半袖のシャツをポンっと投げると、
「んじゃ、オレ、おばさんに電話入れるから、着替えとけよ」
と、服を指差しながら部屋を出た。

呼吸はさっきより大分良くなっていたけど、退院したばかりで無理をしたせいか疲れがどっと押し寄せてきた。

このジャージ、ダブダブだぁ・・・・・・。
それに煙草臭いよね

私はクンクン匂いを嗅ぎながら枕に顔を埋めると、ベッドからもほのかにかずにぃの煙草の匂いがした。


私が着替えてベッドで目を瞑っていると、かずにぃは再びドアを蹴り開けた。
「おーい、ミルク飲むか?あったまるぞ」
かずにぃの持っているトレイにはほかほかのホットミルクが乗っていた。


かずにぃはベッドに腰掛け、私を抱き起こすと、「熱はねぇ・・・か」と私のおでこに手を当てた。

「お前、そーいやケータイどうした?おばさんが繋がらねぇって怒ってたぞ」

私は手術に行こうとした日の朝、わざとケータイを家に置いていった。
かずにぃにメールを打ったその後、私はトオル君にもメールを打ち、そして電源を切った。

あれから2週間経つ。
トオル君からメールが入っているかもしれない・・・・・・。
だけど・・・・・・。


「その過換気、オレのせいだろ?」
かずにぃは私に背を向けると、手を組んで項垂れた。
私が首を横に振ると、「うそつけ」と優しい顔で弱々しく笑った。

「お前さ、何でアカンボ、産む気になったわけ?
つらそうなのに、なんで産む決心をしたんだよ」

それは・・・・・・

私が答えようとふと目を上げた時、ベッドの脇にあるかずにぃの机のデスクマットに、以前来た時には無かった奇妙な写真が挟んであることに気が付いた。

「かずにぃ、これは?」
「えっ?何がだよ?」
「あの写真みたいなの・・・・・・」

かずにぃは一瞬、「しまった!」と小さな声で呟くと顔を歪めた。





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すれ違う想い

2006年01月22日 12時43分49秒 | 第11章 飛翔編
私はかずにぃの運転する車に乗り込んでからもちょっぴり口を尖らせていた。
「人前でキスするなんて・・・・・・」
「だから、ごめんって」
笑いながら謝罪するかずにぃに、やっぱりムッとしてしまった。
さすがのかずにぃもやり過ぎたと反省したらしく、声のトーンを落として、私の顔を覗き込んだ。
「篤史がお前を狙ってたからさ、ちょっと、焦って。ごめんな?」
「もうっ!男の人達って、どうして平気で人前でキスなんて出来るの?かずにぃと言い、ト・・・・」
トオル君と、言い掛けて慌てて口を塞いだ。

急にかずにぃの顔からすっと無邪気な笑みが消えていた。

「この間は悪かったよ。お前が泣きながらオレにしがみつくから、つい・・・・・・」

私はどきっとして息を呑んだ。
「オレを求めるはず、ないのにな。・・・・・・そんなにあいつ、良かった?」
「え?!」

私はかずにぃの質問を理解しかねていた。
「あいつが相手だったら、お前あんなに嬉しそうに抱かれるんだよな?」

私は、思わずかずにぃの頬を打っていた。
「してない!・・・・・・かずにぃとのことが恐くて、私・・・・・・」

まずいと言う予感が脳裏をかすめた。
喉がヒューヒューと鳴り始め、体の中に嵐が宿り始めた。

「へぇ・・・・・・。紳士的なトオル君は、嫌がるお前を無理矢理やっちまった俺のような鬼畜とは違うってか?」
「ち、が・・・う。かずにぃ、ごめっ。車、止めて」

かずにぃは私の異変に気付くと、「おい!?どうした」と声を掛け、息が苦しそうな私と前方を代わる代わる見ながら車を路肩に寄せた。

「何だよ、どうしたんだよ」
「だい、じょぶ。ただのカコキュー」
「大丈夫じゃないだろ!」

かずにぃの問いには答えず、この間の要領で呼吸を整えようと頑張った。
「紙袋・・・・・・」
それだけ聞くと、かずにぃは急いでバッグや車の中を探り始めた。
「くっそ!車出すぞ。頑張れるか?」
私は頷きながらも、かずにぃの肩に手を置いた。
「びょーいん、・・・い・・・かない」
「何言ってんだよ!苦しそうじゃねーか」
「ガンバル」
「病院に戻るぞ」
私は強く頭を振った。

「ガンバル。だから・・・・・・」
「分かったよ。・・・・・・とりあえずマンションに戻るぞ。いいな?」
かずにぃは急いでハンドルを切ると来た道を戻り始めた。




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カ、ノ、ジョ

2006年01月22日 07時32分01秒 | 第11章 飛翔編
「今日、退院のお前が何でこんなとこに・・・・・・」
かずにぃはぼさぼさ頭を撫で付けながら慌てて立ち上がった。
「う・・・・・・ん」
私は彼のそんな言葉なんかお構いなしに、可愛い絵柄の動物の折り紙や、子供達が書いたと思しき画用紙の絵が飾られた小さな教室の中をキョロキョロと見回した。

「この絵とか、もしかしてかずにぃが描いたの?」
かずにぃは真っ赤な顔して、恥ずかしそうに目をそよがせた。
「え?!・・・ああ」
「やっぱり」
「何が、やっぱり、だよ!」
「だって、下手だもん。相変わらず、絵が」
私がクスクス笑うと、「うせっ!」と真っ赤になりながら私を小突いた。

「センセー!だぁれー?この人ぉ??」
子供達がわらわらと私達を囲み始めた。
「えっとぉ、私は、『そのだはるな』と言いまして・・・」

そう言えば、かずにぃにとって私ってなんだっけ・・・・・・
困ってかずにぃの方をチラッと見た。

幼なじみ?
トモダチ?
イモウト?
コイビト?
婚約者??

何って言ったら良いのか答えあぐねていると、いきなり中学生くらいの男の子が私の手を握り締めた。
「あの。僕、『とくやまあつし』って言います。
おねーさん、キレーですね~」


すると、すかさずかずにぃが私達の間に割って入り、彼の頭をぺんっと叩いた。
「篤史!何、人のカノジョ、ナンパしてんだよ!!」
「かずにぃ、そんな、子供相手にむきにならなくても・・・・・・」
「子供じゃねぇ!男だよ!!」
かずにぃと篤史君はむきになって私に反論した。


「かっ、のっ、じょっ♪」
「かっ、のっ、じょっ♪」

子供達は一斉にカノジョコールを始めたものだから、かずにぃはますます真っ赤になり、私の手を引いて戸口まで連れて行った。

「後、30分もしたら終わるから、ここを出て右側の待合室で待ってて」
「・・・・・・ごめんなさい。突然来ちゃって」
「そんなのはいいからさ。具合が悪くなったら、そこにもナースコールが付いてるから」
「うん」

私が出て行こうとすると、「無理すんなよ」と腕をぐいっと引き寄せいきなりキスをした。

子供達は、「ぎゃー!!」「おおっ!!」「すっげぇ!!」と目をまん丸とさせながら床の上をのたうち始めた。

「いーだろぉー。悔しかったらお前達も、早く元気におおっっきくなってカノジョゲットしろよ~」
と、かずにぃはあっかんべーをした。



まるっきし、子供達と同レベル・・・・・・。

私は赤くなる頬を抑えながら、初めて見る無邪気なかずにぃの姿にドキドキしながら待合室まで小走りで逃げた。




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