フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

最終回:桜の花の咲く頃

2006年03月28日 10時30分26秒 | 最終章 エターナル
私は夢中で走った。
「カズト!待って!!」
カズトは私を拒絶するかのように、毅然と前を向いて歩いていた。
私は、ハイヒールをすっとドレスの前に滑らせると、それを手に持ち、振り被ってカズトの頭目掛けて投げ付けた。

「いってぇー!何すんだよぉ!!」

……ふ、振り向いた……
でも、かなり怒らせちゃった……。
私はゴクンと息を飲んだ。

「呼んでるのに、待ってくれないからでしょ!!」
私は怒りながら戻ってくるカズトの目を睨みつけた。
「私も行く!私は逃げたりしないもん!!」
「いいよ!オレ1人で行く!」
そう言うカズトの腕に私は強引に手を滑り込ませた。
「手ぇ、離せよ!1人で行くつってるだろ?!」

それでも私は頑として、受け入れなかった。
「カズトは信じないかもしれないけど……。私……、ちゃんと……、ちゃんとカズトのことも愛してたんだよ……」

カズトは、私の手を払いのけようとする手を止めた。

「……知ってたよ。でもあいつのことの方がもっと好きなんだろう?」
「……ごめ……」
涙で声が堰き止められて、言葉が奥に引っ掛かってしまった。
カズトは泣いている私を強く抱き締めると、笑った。

「ったく、しゃーねーなー。こういうしんどい想いすんのはオレ1人で十分だってぇのに……。バカだよな、お前は……」
カズトは、体を屈めると私の顔を覗き込み、「ぷっ!ひでぇ、顔!」と笑った。
そして、次の瞬間、自分の腫れた瞼に気付き、「ってゆーか、オレもひでぇな……」と笑った。
「ほいじゃ、夫婦として最初で最後の共同作業をすっか!
…あ、入籍してねぇから夫婦じゃなかった……」
「夫婦だよ」
私はカズトの手を強く握った。
「赤ちゃんのパパとママとして恥かしくないように、きちんと皆に謝ろう。2人で」

私達は式場の扉の前に立ち、背筋を伸ばし2人で深呼吸した。
扉が開く直前に、カズトは強く私の手を握り、呟いた。

「やっぱ、お前はつぇーわ」

それから私達は雛壇に登り、ざわめく招待客に向けて結婚の取りやめを宣言し、深々と頭を下げ、謝罪をした。

帰る招待客の1人1人に頭を下げながら、お祝儀袋を返し、引き出物を手渡した。
「ホテル開業以来の前代未聞の出来事でした」と、苦笑いしていたホテルのスタッフの人にも、謝罪した。

怒る人も、笑う人もいたけど、なんとか無事終わった。
式をメチャクチャにしちゃったんだから……無事でもないけど。
でも、無我夢中で謝っていたんだ。

最後の1人に謝罪してお辞儀をすると、会場から人が1人もいなくなり、私達は2人、ぽつんと空いたテーブル席にぽぉっと腰掛けていた。
暫くすると、ホテルの人が食器やテーブルを片付ける音に私達ははっとなった。

「お疲れ」
「ん。カズトもお疲れ様」
カズトは軽く首を振った。
「幸せに出来なくて、ごめんな」
「……ううん。十分、幸せだったよ」
「そっか……」
カズトは私の手を取ると、掌にペンダントを乗せ、私に背を向けた。
「もう行けよ……。やっぱ、今は、一人になりたい」
私はカズトを抱き締めると、「有り難う……」とその頬にキスをして、式場を去った。

キスをしている時、カズトは言った。
「ハルナ、幸せになるんだ」と。

涙が後から後から溢れてきた。

控え室に戻ると、トオル君は笑顔で「お帰り」と言って私を抱き締めてくれた。
「よく頑張ったね」
「トオル君がいてくれたから、今まで、頑張れた……。アリガト……」
私は彼の腕の中で涙が枯れて無くなるまで大声を上げて泣いた。
泣いて泣いて泣き疲れて、「ひっく、ひぃぃぃっく!」としゃくりあげた頃、私の頭を撫でていたトオル君が、ふと私の頭越しに「ハルナ!外!!」と指差した。

窓の外では、桜がその小さな蕾をほころばせていた。

トオル君は私の肩を抱き寄せると、桜の花を穏やかな目で見つめていた。

「子供には、僕たちのことをちゃんと教えてあげよう。
『君には、僕と片岡和人と言う2人の父親がいる』と言う事を……」

トオル君の私を包み込む腕の中で、私はそっと頷いた。

この花のように儚く散る想いもあったんだと、カズトを想うと今は胸がズキズキ痛むけど、この想いを抱いたままでもトオル君は「それでいいんだよ」と抱き締めてくれる。

昔、私は恋がしたかった……
私はただ恋に憧れていた……

なのに、せっかくした恋は、つらくて、みっともなくて、泣くばかりだったけれど、この桜の花のように、今、ようやく咲いてくれた。

愛しみ合って生きていこう……

私達はそう誓いながら、いつまでも寄り添いながら桜の花を2人で見つめていた。

第1部完

------------------------------------------------------------------
Special Thanks!
koukoさん
じゅんちさん
okamehimeさん
はぜイチさん
えりさん
海苔屋のおっさんさん
あっちゃんさん
うららさん

明日から、3回ほどエピソード(その後)をお送りしますね。
長い間、第1部をご愛読下さり本当に有り難うございました
------------------------------------------------------------------
「フラワーガーデン2」連載始めました


↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

自由な翼

2006年03月28日 06時07分04秒 | 最終章 エターナル
カズトは、私が横たわっていたベッドにどっかりと腰を下ろすと、私の顎に手を添えて顔を持ち上げた。

「体の具合、どうよ?」
「……大丈夫」
「アカンボは?」
「大丈夫……」

トオル君は、ただ黙って目を瞑り、頬にタオルを当てながら壁に寄り掛かっていた。
そうしながら、私たちの会話に全神経を集中させているのが分かる。

「昨日の夜は、頑張り過ぎちゃったからなぁ~」
「カ、カズト!」

聞かれたくなかった……
そんなことトオル君の前で言って欲しくなかった……

私は、動揺に耳を塞ぎ、目を伏せると、声を振り絞った。
恐くて、トオル君の顔が見れない……

「夫婦になるんだから、そんなの当然だろ?だけど、いつもそぉゆー顔するんだよな。お前は……」

カズトは、ベッドから立ち上がると、天井を見上げ、溜息を吐いた。
「それでも、今まで……何とかなると……。お前はオレのものなんだから、と……」
カズトの声は震え、途切れがちになった。

「会場に戻る」

何かを決心したように、そう言うとカズトはトオル君を鋭く睨みつけた。
「こいつと話すことなんか何にもねぇから!」
「カズト!」
「花嫁に逃げられた間抜けな新郎の役を、最後まで演じてくるさ。もう、お前の顔なんか見たくもねー」

そう言うと、足音も荒々しく後ろ手に戸を閉めて出て行った。
「カズト!待って!!」
私は慌てて起き上がるとドレスの裾を持ち上げて、ハイヒールに足を通した。

トオル君と目が合い、一瞬時間が止った。
何も話さなくても、トオル君は私の思っていることを感じ取ってくれた。
心が通い合い、私達は同じ想いを瞳から伝え合っていた。
トオル君は優しく頷き、笑った。

「行っておいでよ。君は君自身のものだ。片岡のものでも、僕のものでもない。
君はいつだって自由な翼を持っているんだ」
「……トオル君、ごめんね!」

それだけ言い残すと、私はカズトの後を追って駆け出した。

------------------------------------------------------------------
「フラワーガーデン2」連載始めました


↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

淡雪通信vol.21(F2開店)

2006年03月27日 22時26分15秒 | 最終章 エターナル
最終回が近づくにつれ、こんなにも沢山の人に読んで頂けるなんて……もう泣きそう。
本当に、感謝しています。
実は今日、「フラワーガーデン2」(http://plaza.rakuten.co.jp/flowergarden2/)を楽天広場に立ち上げました。
トオル君の出生の秘密が明らかになります。
アリシア、ジョージ、キンケイド、トオル君の両親が出てきます。
第一部の伏線を拾い捲る予定です。
良かったらお越し下さい\(≧▽≦)/


↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に感涙しています。本当に有り難うございました
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

ハルナの幸せ

2006年03月27日 01時16分53秒 | 最終章 エターナル
パパの仲裁のお蔭で、カズトとトオル君の2人は無事医務室送りとなっていた。

当のパパは「おー!痛……!」と言いながら、私が差し出した濡れタオルを左頬に当てていた。

仲裁に入ったパパが視界に飛び込むなり、トオル君の拳は寸前でピタッと止ったけど、カズトの方は勢い止らず、パパの左頬を強打してしまっていた。

「カズトのヤツ!どさくさに紛れて、僕のこと3度も『お父さん!』と呼びやがった!!!!」
「パパ、それ怒りどころが違うから……(ってゆーか、殴られた事を怒ろうよ……)」

私のツッコミを無視して、パパは私をじっと見つめた。

「しかし、あれだね……。トオル君だっけ?彼のあの技はどこで習ったんだろうね。空手とも柔道とも違っていた……。あれは確実に相手の急所を捕え、人を殺傷する事を目的とした技だった……。背筋が凍ったよ。彼が手加減しなければ、カズトはあの世送りだったかもしれないね……」

私は、まるで舞うようにカズトの拳をすり抜けるトオル君のしなやかな動きを思い出していた。

美しいと思った……

でも、今、パパの話を聞いて、彼はどうしてそんな技を身に付けなくてはならなかったんだろう……そう思うと悲しくなった。

私が、彼のことを考え、物思いに浸っていると、パパが徐に口を開いた。
「君はあの少年と付き合っていたのか?」
突然のパパの質問に一瞬戸惑ったけど、私は静かに頷いた。
「だけど、君のお腹の子の父親はカズト……。僕はその意味をどう取ったらいいのかな?」

パパは私の表情を読み取ろうとするかのように、じっと私の顔を見つめた。
私はパパの目線から逃れるように唇を固く結ぶと、俯いた。

「僕は神様でもなければ、裁判官でもない。だから、誰がどう悪いのか裁くつもりも無い……。だけど、君の父親として、心から君の幸せを願っているんだよ」
パパの優しい言葉に涙が溢れそうになった。

「……君は、あの少年を愛しているんだね?」
「あ……。私……」
「『世間体』とか、『こうしなくちゃならない』とかではなくて、きちんと自分の心を見つめるんだ。……結婚を侮っちゃいけないよ」

パパは私の頭を優しく撫で、少し開いた扉の向こう側に向かって大声で話し掛けた。
「そう言う訳で、式場関係者と招待客には、僕と和明から上手く話をしておくから、後は君達3人でよく話し合いなさい!」
扉がギィーっと開くと、タオルを左頬に当てたトオル君とカズトが入ってきた。

パパとカズトとトオル君の3人は、お互いタオルを左頬に当てながら一瞬目線を合わせると気まずそぉ~な顔をした。

「もう一度殴り合いをしたら、君達に娘はやらんぞ!」

パパは睨みながら2人の頭を小突くと、式場へと足早に走っていった。



↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

略奪

2006年03月26日 07時22分03秒 | 最終章 エターナル
トオル君は、温かくてその大きな両手に私の手を包んだまま、目を瞑り、額にあてた。
まるでお祈りでもしているかのように……

「君を……愛している」

トオル君の想いを振り払おうと、強く首を振り、懸命に手を引くのに……
それでも、彼の揺ぎ無い瞳の前に、私の心が捕まってしまう。

「ハルナ……、もう嘘はつかないで。今、君が本当のことを言わなかったら、僕たちは一生、お互いの心を求めて彷徨うんだ。……そんな運命を、君は黙って受け入れるつもりか!?」
「出て行けよ!コソドロ!!」

突然、扉が大きく開いたかと思うと、烈火の如く怒りを露わにしたカズトが部屋へ飛び込んで来た。
トオル君の襟を掴み持ち上げたかと思うと、次の瞬間、彼の頬に拳を振り上げた。

「トオル君!!」

壁に打ちつけられたトオル君の唇から血が流れ落ちていた。

「大した心臓だな!?オレ達の結婚式に来るなんてな!だが、お前を呼んだ覚えはねぇぞ!!」

トオル君は切れた唇から、流れ落ちる血を袖で拭いながら立ち上がった。

「みっともねぇことすんなよな!」
「……みっともなくてもいいさ。今、伝えなければ、ハルナを一生失ってしまうんだ」
「ヒトの女を気安く呼び捨てにしてんじゃねぇよ!!」

カズトの放った拳が再度トオル君の頬を打ち、彼はガラガラとパイプ椅子をなぎ倒しながらその場に倒れこんでしまった。
それでもトオル君は、カズトを睨みつけながら、ユラユラと立ち上がった。

「トオル君……!カズト、止めて!!」


いつの間にか、控え室には、式場のスタッフや、数人の招待客が入って来ていた。
「何だ?」
「どうしたんだ?一体……」
「おい!誰か警備員を呼んで来いよ!!」

騒然とした控え室は、たちまち新たな見物客を呼び込んでしまっていた。
三度、カズトの放った拳に、私は悲鳴を上げ、目を瞑った。

「殴られっぱなしじゃ、割に合わないな……」

そう言うと、トオル君はカズトの拳をヒラリと交わし、驚いて振り向くカズトの顔面に右ストレートを放った。
カズトは強く床に打ち付けられ、切れた口の中から出た血をぺっと吐き出した。
「このやろぉ!!!」
掴み掛かろうとするカズトの手を掴んだかと思うと、トオル君はその手を捩じ上げ、くるんとカズトの体を宙に浮かせ、床に打ちつけた。

「止めて!二人とも!!トオル君!!カズト!!」
泣きながら叫ぶ私の声は、ざわざわと集まった野次馬の声に掻き消された。

「ごめんね!ハルナ!!」
いつの間にかトモが泣きながら背後から私を抱き締めていた。

「私……、私、トオル君から、電話を貰ってたの……。
『片岡と話がしたいから住所を教えてくれ』って……。
でも、私、『もう遅いよ。諦めた方がいいよ』って教えなかったんだよ。
そしたら、トオル君、『じゃ、仕方ないね』って笑って、『本意じゃないけど、結婚式場まで略奪に行くしかないか……』って言ってて……。
でも、まさか本当になるとは思ってなくて……」

動揺するトモを抱き締めながら、私は顔を上げた。

そして、次の瞬間、ぞくっとした。
カズトの拳を紙一重で交わし、赤子の手を捻るかのようにカズトを扱うトオル君の姿に慄然とした。
私は、トオル君のその訓練された無駄の無い動きに鳥肌が立ち、震えた。

「止めさせなければ……」
パパの声が背後でしたかと思うと、素早く二人の間に割って入り、「ここまでだ!」と叫び、2人の拳をその腕で受け止めていた。



↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

引き寄せる手

2006年03月25日 00時04分34秒 | 最終章 エターナル
夜景が自慢のホテルでの披露宴が始まった。
招待客は東京の夜景を堪能しつつ、ホテル自慢の料理に舌鼓を打ち、会話に花を咲かせていた。
そうした中、司会進行も滞りなく進み、披露宴は終始和やかな雰囲気に包まれていた。

「ご夫婦で……」
「ご新婦様には……」
「お若い二人が……」
「夫として、妻として……」

祝福のスピーチを聞く度に、私はカズトの妻になるのだと言う責任の重さを強く意識し始めていた。
次第に冷たい汗が体を伝い、音と言う音が遠のいて行く。

タイミング良く、花嫁のお色直しを告げる司会の言葉にほっとし、介添さんに付き添われて席を立った。
「少し、横になって来いよ」
ヒソヒソ声で、体を気遣ってくれるカズトの優しさにそっと笑顔を返した。

あの日の電話以来、ずっと何かを言いたそうにしていたトモの横を会釈しながら通り過ぎ、足早に控え室を目指した。

控え室に入るなり、お色直しのドレスを着ている私の顔を見ながら、介添さんが心配そうに声を掛けてきた。

「まぁ……。大丈夫ですか?お顔が真っ青ですよ」
「……大丈夫です。でも……、5分だけ、横になってもいいですか?」

私はコルセットを緩め、ハイヒールを脱ぐと、予め持ち込まれていたベッドに横になった。
「妻……かぁ」
今日は、精神的にちょっと不安定かもしれない。
「妻」と言う司会や参列者さんからの言葉に、心が動揺する。

じんわりと滲む涙を慌てて拭いていると、突然、控え室に流れているクラシック音楽が耳に入ってきて、私は飛び起きた。

「美しく青きドナウ……」
堪らず涙が溢れ出た。

「トオル君……トオル君……」
小さな声で呟き泣いていると、目の前にすっと白いハンカチが差し出された。
まさか人がいたなんて……。
聞かれただろうか……。

ドキドキしながらも、「有り難うございます」とお礼を言い、何とかこの場をやり過ごそうと、ハンカチに手を伸ばした瞬間、その手は私の手を強く握り締めた。

「泣き虫で嘘つきな花嫁さん……。このワルツに想い出でもあるの?」

その聞き覚えのある声に驚き、顔を上げた。

「ト、トオル君!どうしてここに……」
息が止り、言葉が喉の奥に引っ掛かる。
「アメリカに帰るって……」

トオル君は、片膝をつき、私の手を取ると真剣な眼差しで手の甲にキスをした。
「君を取り戻しに来た」
トオル君の言葉に驚き、強く首を振ると、私は手を引こうと力を込めた。
だけど、彼はより強い力で私の手を握り締め、決して離してはくれなかった。

私は、泣きながらトオル君の指をひとつひとつ離し、解こうとした。
「だ、だめだよ。トオル君……。私と、トオル君は、きっと結ばれない運命だったんだよ」

トオル君は、迷いの無い強い瞳で私を見つめると、両手で私の手を包み込んでしまっていた。
「僕は、そう言う運命と死に物狂いで戦うつもりだ。僕はもう絶対に君を諦めない。
君が『YES』と言うまで、何度でも言うよ。
……僕と結婚して欲しい」




↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

受難の花婿

2006年03月24日 10時49分35秒 | 最終章 エターナル
髪を結い、生まれて初めての化粧をし、生まれて初めてのウェディングドレスに袖を通した。

ただでさえ慣れない雰囲気にそわそわしているのに、招待客のざわざわとした声が控え室にも届き、より一層私を落ち着かなくさせる。

「まぁ!まぁ~!!なんてお若くてお美しい花嫁様なんでしょう!!」
着付けとメイクをして下さったスタッフの人達から、一斉に感嘆と溜息が漏れる。

「あ、有り難うございます……」

履き慣れないハイヒールで、ドレスの裾を踏まないように気を付けて歩く。
ホテルの中を移動しながら、恥かしくて心なしか俯き加減になってしまう。

「まぁ~、綺麗ね~!」
「お人形さんみたい!」
「若い頃の私みたいだわ~」

お約束の賛辞を受けながら、何とかホテル内にある教会の入り口に辿り付くと、パパが目を潤ませて立っていた。

「綺麗だよ、ハルナ……。くそっ!和明のヤツ!!」
「パパ……、それカズトのお父さんの名前だよ?!」
「あ!そうだった……。カズトのヤツ!!」

パパは、私が腕をそっと掴むと、ぶわっと涙を浮かべ、また「くそっ!!」と呟き、目頭をハンカチで抑えた。

教会への扉が開き、ロボット歩きのパパの歩に慌ててツーステップで合わせる。

歩みを止めると、試着の時、「燕尾服なんて、七五三以来だ」と笑っていたカズトが、背筋を伸ばして微笑んで立っていた。

二人は一礼すると、パパは私の手をカズトに渡した。

外国人の神父さんのたどたどしい日本語による、厳粛な式が始まった。
賛美歌に、誓いの言葉に、誓いのキス……
パパの「ちくしょう!」と小さく呟いたつもりの声が教会にこだまし、参列者の泣き笑いを誘っていた。




結婚式の朝、私とカズトは実家に一旦戻り、お互いの親に挨拶しようと車を走らせた。
カズトと私は、「じゃぁ、後で」と目配せすると、隣同士のお互いの玄関の戸を開けた。

家では、パパもママもすっかり支度を済ませていた。
パパは、私の顔を見ると、「また、綺麗になったんじゃないか?」と笑った。

私達はリビングのソファーに腰を下ろし、最後の時間をゆったりと過ごした。
パパは、コーヒーをテーブルに置き、家族の写真に目を細めながら、穏やかな口調で話し始めた。

「若くして結婚した僕達の元には、なかなかコウノトリが現われなくてね。
『もう、赤ちゃんは授からないだろう』と落胆した頃に、ママは君を身篭ったんだ。
その君は16年前の今日、2,000gにも満たない未熟児で産まれて、無事育つだろうかと毎晩不安な気持ちで寝顔を覗き込んでいたんだよ……。それを!それを!!16年しか育てていないのに和明に取られるとは!!」
「パッ!パパ!!それ、カズトのお父さんの名前だから……」
「そうだったな。はは……」
私の突っ込みに、パパは力なく笑った。

出掛ける前に、パパとママに今まで育ててもらったお礼を言おうと、言葉を切り出すと、ママは微笑み、パパは「言うな!」と号泣した。

その時のパパの淋しい横顔が、今も淋しさに項垂れていた。

挙式を無事に終え、披露宴が始まる前の控え室でパパとカズトは、楽しそうに笑いながら話していた。

「でも、お隣同士ですし、すぐにいつでも会えますよ。お父さん」
「……まだ、入籍していないんだから、お父さんは早いだろう!」
拗ねたパパの言葉に、ママと私は「パパ!!」とユニゾって反論した。

パパは私達をチロンと睨みつけると襟を正した。
少し拗ねながらもパパはコホンとひとつ咳をし、カズトに頭を下げた。

「娘を頼むよ」
「いや……そんな、こちらこそ……お父さん」
「だから、お父さんは早いと言ってるだろう!!」
「あ!パパ!!」
「あなたっっっっ!!!」

頭を下げるカズトのミゾオチに、パパは思わずボクシング部で鍛えた拳をお見舞いしてしまっていた。



↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

結婚前夜

2006年03月23日 20時08分42秒 | 最終章 エターナル
「全ての人生劇というものは結婚をもって終わるって、バイロンのヤローは言ってたけど、オレは待ち遠しいなぁ……」
カズトは、婚姻届の「夫になる人」の欄に名前を書き込みながら嬉しそうに微笑んだ。

私達は、婚姻届を挙式したその足で提出しようと決めた。
カズトは市役所で手に入れた婚姻届を、家に帰るなり書き始めていた。

そして、「夫の職業」の欄で手を止めると、「げっ!オレ、もしかして無職?カッコわりぃ。学生じゃダメなのかよ!?」と、紙に向かって1人突っ込みを入れては、私を笑わせた。

一通り書き終わると、テーブルの向かい側に座って見ていた私の方に紙の方向を変え、「ん!」と顎をしゃくりあげながらボールペンごと渡した。

緊張に震える私の手を見ながら、カズトの方が息を飲み緊張しているようだった。
何とか「妻になる人」の欄に自分の名前を書き終え、私が「ほぉ~」とおでこの汗を拭っていた時、カズトが「あ゛ーーーーーーーー!!!」と叫び、私の頭をペンッ!と叩いた。

「このバカタレ!ここは『片岡』じゃなくて、今の名前の『園田』だろぉ!」
「あ、そ……っなの?」
「あ、そ……っなの?じゃねぇよ!お前、全っ然、説明聞いてなかったな!!」

カズトは、がっくりと肩を落とすと、書き損じた婚姻届をビリビリと破り始めた。
そして、もう一度、新しい婚姻届をべしっとテーブルに置くと自分の欄を書き始めた。
「ったく。手の掛かるヤツ!さっきの方が、字がマシに書けてたのに……」

カズトが書き終わり、再度私が書く番になった。
2回目は失敗しないように、更に緊張しながらペンを滑らせていたけど、「本籍地」に「東京」と書いて手が止まった。
「カズト……。ごめんね。……間違えちゃった……かも」
カズトは、目を皿のようにして、「またかよ……」と怒りに声を震わせた。

「そう言えば、うちは本籍地って長崎だったような気がする」
「おいっ!今頃言うか?!」
カズトは私のおでこをグリグリすると、「家に電話して確認しろよ!」とむくれた。

私が急いで家に電話するとママが出た。
「そうよ。良く覚えてたわね~。パパの実家があった、長崎のまんまよ」
「やっぱり……。詳しい本籍地の住所とか筆頭者の氏名とか分かるかな?」
「パパに聞いてみないと……」
はぁ~と私が溜息を吐くと同時に、背後でカズトがやけくそ気味に婚姻届を細かく千切り、ふーふーと息を吹きかけながら紙吹雪を散らしていた。

もう!後で掃除をするのは私なのに……

「分かった。じゃ、明日、挙式の前に、パパのサインを貰う時に一緒に書くから教えてね」
そう言って、切ろうとした時、「あ!ハルナ、そう言えば、『フジエダトオル』君って言う男の子から、電話を貰ったわよ」とママが急に彼の名前を口にした。

突然のことに、心臓が動揺しざわざわと騒ぎ出す。
「……いつ?」
「いつだったかしら??」
「……なんて、言って……たの?」

ママが答えようとした時、カズトが「オレにも代わって!」と受話器を持つジェスチャーをしたから聞けなかった。

「ごめん。カズトが代わりたいって」
私はカズトに受話器を渡すと、思いも掛けず彼の名前を耳にし、高鳴る胸を抑えてベランダに出た。

遠く瞬く一番星を見上げて、ふっと笑った。
「名前を聞いただけで動揺しちゃうなんて……。
ママはダメダメだよね」
お腹の赤ちゃんに話し掛けながら、ひんやりとする手摺に手を添えて、顔を埋めた。
目を瞑ると、不意に彼の面影が浮かび、慌てて手の甲で涙を拭った。

冷気に体を震わせ室内に入る前に、もう一度、一番星を見上げた……

トオル君……
明日、私は『片岡春名』になります。



↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

零れ落ちる涙

2006年03月23日 00時25分16秒 | 最終章 エターナル
退院の日、私達はそれぞれの親にたっぷり怒られた。
「二人して入院なんて!親としての自覚に欠けている!」
特にカズトは、おばさんから紅葉色の立派な手形を両頬に貰っていて、痛々しかった。

マンションに帰って、私がその手形を見る度にクスクス笑うと、カズトはむっとした。
「ひっでぇ……。笑ってるし……」
彼はそう言いながら、私の首に腕を回し体を引き寄せると、拳で私の頭をグリグリし、「お前にもお裾分けだーー!」と笑った。
嫌がって逃げ回る私を見るカズトの目は、以前のように穏やかで、私をほっとさせた。

カズトは笑った私に一通り復讐すると、ソファにふんぞり返りながら、
「ったく。いい年した息子を捕まえて、『愛のムチだ!』つって往復ビンタはねぇよな」
と、ブツブツ文句を言って、鏡にその頬を代わる代わる映しては何度も「痛ぇ~」と擦った。

私がタオルを冷して彼に渡そうと、笑いに涙を拭きながら水道の蛇口を捻った時、電話が鳴った。

電話に出たカズトの声と顔が一瞬、冷たくなった。

「ハルナ……。トモちゃんからだ」

カズトの顔からは笑みが消え、受話器を持ち上げながら、私の顔をじっと見つめた。

息を飲み、震えそうな指先に力をいれて受話器を受け取った。

「もしもし……」
「あ!ハルナ!電話しても出ないから心配してたよぉ~」
テンションの高いトモの電話を受けながら、私の鼓動はその動きを速めて行く。
「……ごめんね、トモ。今、私、ちょっと手が離せないから……」

「話せばいいだろう!!」

カズトの怒声が電話を通して聞こえたようで、トモは一瞬言葉を失っていた。
「……まさか、ばれたの?」
トモの問いに、私は沈黙で答えた。

「ごめん!ハルナ!!本当にごめんね……。あたし余計な事、しちゃって……」
「ううん。じゃ、また」
「ハルナ!あたし、急いでハルナに伝えたい事があって……」
「ごめん……。切るね」

私は、カズトの目線を逸らしながら、急いで電話を切った。

トモを責めるつもりなんてない。
私は、あの京都で本当に幸せだったから……
トオル君とほんの一瞬でも心を通わせる事が出来て、一緒に過ごせて幸せだったから。

そう思いながらも動揺し、タオルを絞る手が震えた。
カズトはじっと私を見つめたまま、私の側に歩み寄るとキスをした。

「カズト、ダメ……。すぐに頬を冷さないと……」

タオルを彼の頬に当てようとした瞬間、彼は私の手を取り、ツカツカと早足で彼の部屋へと連れて行った。

そして、彼はベッドに私を押し倒すと、再び唇を重ね、胸元を弄り始めた。
「カズト……。あ……」
「今日はどんな言い逃れも聞かねぇからな……」
目を瞑り、震える息を堪える私の上半身を露わにし、その胸の頂きを口に含みながら、カズトは言った。

「ハルナ……。ハルナ……。オレの方がずっとお前の事を愛してる……」

シーツを掴み、カズトを受け入れながら、今日、アメリカに帰るトオル君を想い、私は零れ落ちる涙を枕に隠していた。



↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

天使の腕の中で

2006年03月22日 10時18分22秒 | 最終章 エターナル
舞う雪を見上げながら、私はいつの間にか、あの日トオル君に教わったワルツのステップをゆっくりと踏みながら、歩いていた。
「ここは……」
気付くとトオル君と初めて出会ったフラワーガーデンに足を踏み入れていた。
突然、ぐにゃりとした感覚が全身を覆い、堪らず座り込んでいた。
「や……だ。気持ち悪い……」
造血剤は昨日飲んだはずなのに……
私はその場にうずくまり、グルグルと回る世界の中でトオル君の思い出と出会った。


トオル君は謎ばかりで、いつも愁いのある横顔が気になった。
ちょっと恥かしそうに柔らかく笑いながら、髪を掻き揚げるしぐさが好きだった。

ヒンヤリとした地面の冷たさを頬に感じながら、力が抜けた。
「このまま死ねたら、楽になれるかなぁ……」
だけど、その時、お腹の赤ちゃんがトントンと私のお腹を優しくノックした。

「お前1人の問題じゃない!アカンボはオレの子でもあるんだぞ!!!」
真剣に怒ったカズトの顔が思い出され、私一人の体じゃなかったんだと、生きなくちゃと意識を必死に保った。

「誰か!すみません!!誰か……」

人気のない病院の裏庭で、私は叫んだ。
花のように舞っていた雪が、今は鋭い槍となって批難するように私の体を突き刺していく……

「寒い……」
赤ちゃんだけでも温めようと、体を丸めた。


遠のきそうな意識の中で、トオル君にそっくりな天使様が膝を折って私の顔を覗き込んでいた。
私をふわりと抱き上げると、ふわふわと雲の上を歩いてくれた。

「私、天国に行くの?」
「行けないよ。君は嘘をつくからね。……しかも、かなり下手くそだ」
天使のトオル君もやっぱりイジワルだ。

「天国なんてやめて、僕のところに来なよ」
天使様は柔らかく笑うと私にキスをした。
「この唇からは『YES』以外は受け付けないよ……」
「だめ……」
「『YES』だ」
「強引過ぎるよ。でも……」
「でも?」
「……誰よりも愛してる」
天使様ははにかむようににっこり笑うと、「僕もだよ」とキスをした。




サラサラと粉雪が音を立てて、梢から落ちる音に目を覚ますと、私は病室にいた。
強い日差しに目を細め、ヒトの気配のする方を見ると、カズトがいた。

「ここは?」
「病院」
「私、気持ち悪くなって……」
「貧血だってさ。ちゃんとメシ食え!」

カズトは私の手を握ると「ばっかやろぉ……」と唇を噛んだ。
「誰かが、助けてくれなかったら、お前、凍死してたぞ!」
『誰か』と言う言葉にぎくっとなった。
「誰が私を助けてくれたの?」
「知らねぇ……」

カズトは私をその胸に強く抱き締めると、「もうどこにも行くなよ」と体を震わせていた。




↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS