フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

花のような君に

2005年11月28日 22時31分55秒 | 第8章 恋愛鼓動編
君はとてもキレイなその栗色の髪を腰の近くまで伸ばしていたね。
そして、人懐っこい笑顔で僕の瞳を覗き込むと、
「お散歩に行きませんか?お花がキレイですよ」
と言って、車椅子を押して病院の庭を歩いてくれたっけ。

「アスター、ヒャクニチソウ、トレニア、オオキンケイギク・・・・・・」

君はまるで紋白蝶のように花から花へと軽やかに歩くと、僕に花の名前を教えてくれた。
「ニチニチソウ、マリーゴールド・・・・・・」
君の声は穏やかで心地良く、僕の心を包み込んでいくようだった。
だからかな・・・・・・。
僕はただ君の声がもっと聞きたくて、次々と花を指差しては君に質問してしまった。

最後に僕は、天使が羽を伸ばしたような小さな花に目を留め、「これは何?」と君に尋ねた。
「それはサギソウ。だんだん、数が少なくなって絶滅の危機に瀕している花なの。可憐な花・・・・・・」
君はその花にそっと触れ、憐憫の眼差しで愛でていたね。

僕は今まで花を見たことが無かった。
いや、正確には見ようとしていなかった。
君に出会うまで、花なんて存在しなかった・・・・・・。
でも、君に出会ったことで、花はその名前を持ち、芳しい匂いを放ちながら、一斉に華やかな色彩を僕の中で帯び始めた。

僕は君の顔を自分自身の目で見てみたい誘惑に駆られてサングラスを外した。
君は光に向かって手をかざしながら歩いていたね。
僕は、君が光の中に溶けてしまうんじゃないかって錯覚に捕らわれ、慌てて君の手を掴んでしまった。
君は真っ赤な顔をして、僕から手を離すと「・・・・・・もう行かなくちゃ」と、小さな声で呟いた。

「明日も、来る?」
「ううん。もう来ない」
「明日も、来て」
君は真っ赤な顔をして「もう来ない」と頭を振って、走り出した。

「待って!君、名前は?」
君はもう振り返ったりしなかった。
君のお母さんらしき人が「ハルナちゃん!こっちよ」と手を振って君を呼び寄せていた。

ハルナって言うのか・・・・・・
僕は、初めて君の名前を口ずさみ、胸の高鳴りを覚えたんだ。


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僕は君と出会った・・・

2005年11月27日 21時51分56秒 | 第8章 恋愛鼓動編
日本に帰国する前に僕は金髪を黒色に染めた。
「どうしたんだい。一体」
驚く両親を前に、「気分転換」とだけ答えた。
その上、目にあまり刺激を与えないためにサングラスまでしていたものだから、
「まるで変装しているみたいだね」と父は笑った。

日本の病院では直ぐに僕の目の診察が行われた。
やはり、4年前の目の怪我の後遺症との診断を受け、直ぐに目の手術が行われた。


手術後、許可を貰った僕は車椅子に乗って、サングラスを掛けると早速散策に出掛けた。
初夏とは言え、まんじりと汗の滲む、そんな暑い日の午後だった。
僕は、少しでも涼を取れる木の下で車椅子を止めると、一日も早くアメリカへ帰る事を考えていた。
日本の気候に上手く馴染めないものを感じていたし、取り分け、鬱陶しく纏わり付く湿気は僕の判断を鈍らせると感じたからだ。

喉の渇きをおぼえて、僕は自動販売機まで車椅子を動かした。
そして、お茶でも飲もうと自販機にお金を入れようとしたら、思いのほか位置が高くてお金を落としてしまった。

「大丈夫ですか?」
背後から女の子の声がして、掌に五百円玉を乗せて僕に差し出した。
「すみません」
「いえ。でも、ここ買いにくくないですか?」
不思議と安らぎを感じる温かな声の持ち主は、
「そうだ。ちょっと良いですか?」と言うと僕の乗っている車椅子をくるりと方向転換すると、小走りに食堂近くの自販機まで押して行った。

「ほら!私もね、さっき見つけたんですけど、ここの自販機だけスライダーみたいなのが付いてて、車椅子でも楽々買えるんですよ」
「凄いね」
「でしょ?ところで何を飲みますか?」
「お茶だったら何でも」

女の子は、白く細い手を伸ばして、ボタンを押した。
「はい。どうぞ」


君はそう言うとはにかむように笑って目の前に現れ、僕にお茶を差し出したね。
僕はその時、ハルナ・・・、初めて君に出会ったんだ。


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君の声

2005年11月26日 20時44分56秒 | 第8章 恋愛鼓動編
体がだるい・・・・・・。

枕元で誰かが泣いている。
女の子?!
栗色の髪の華奢な女の子・・・。
大きな瞳からは、大粒の涙を流していた・・・・・・。
「大丈夫だから、泣かないで」
僕はそのコの頬に手を添えた。
彼女は僕の手に自分の手を重ねると、「ごめんね。トオル君」と咽び泣いていた。

僕はこのコを知っている。
なのに、名前がどうしても思い出せない・・・。
とても切ない、この気持ちは何だろう。


僕が目を覚ますと女の子の姿は消えていた。
あの子は誰だったんだろう・・・。
ひどく懐かしい気がする。

「徹!大丈夫か?」
「父さん、・・・母さん・・・」
両親は、僕のことをとても心配そうに見ていた。
「僕は・・・」
「階段から落ちて骨折したんだよ」

ああ。やはりそうか・・・だから貧血を起こしたんだ。
じゃ、ここは父の通っている病院なのか。
ほっとすると同時に僕は目に異常を覚えた。

父が言うには4年前の事件の後遺症ではないかとのことだった。
「日本に私の知り合いで、眼科の権威がいる。
一緒に日本に行って治療を受けてみないか」
父の突然の申し出に、僕はこのアメリカでまだやらなくてはならないことがあるから即答はできないと言った。

母は、「徹。おばあ様、覚えているかしら。実は、痴呆症を発症していて、私達に日本に戻って来て欲しいとおじい様からご連絡があったの」と、帰国を懇願された。

「ここで、一度日本に帰ってみるのも良いかもしれないな。
リハビリだと思って」
父に続き、母も、
「それでね。私達、あなたに向こうの高校に通って貰って、年相応の経験を積んで欲しいとも思っているのよ」
と、言いにくそうに切り出した。

日本の高校に通う・・・。
一度も考えたことの無い選択肢だった。
何より、両親の態度に違和感を覚えた。
そうだ。
以前、日本に戻ろうとした時に似ている。
彼らは今度は一体何を思って日本に帰ろうと言うのだろう。

僕はゆらゆらと漂う夢現の中で、まだ見ぬ君の声だけを頼りに日本に行くことを決めたのかもしれない。


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プレゼントの箱

2005年11月25日 20時28分35秒 | 第8章 恋愛鼓動編
「徹。準備が出来たから、良かったらお友達も一緒にお食事しましょう」
キンケイドは僕の方を向くと、
「そうだな。今日はクリスマスだ無粋な話しはまた今度な」
そして、彼は扉を開けると、
「有り難うございます。奥さん。ですが、ちょっと私も用事があるのでこれで失礼しますよ」
と、僕の方を向き直して、にやっと笑った。

「ああ、そうだ、トール!言い忘れてたよ。プレゼントは2回、振るもんだぜ」
と言い残し帰っていった。
「プレゼント・・・。2回・・・?まさか?!」
僕は急いで駆け上り、さっきの空箱を2回振った。

すると、中から小さなマイクロチップが出てきた。

「徹。どうしたの?」
階下から母の声がして、「な、何でもないよ!」と慌てて返事をした。

僕はマイクロチップを元の箱に戻すと、再度2回振った。
チップは無くなっていた。
「これは何なんだ?」

マイクロチップを箱ごと引き出しにしまうと僕は階下へ向かおうとした。

その時、一瞬、視界が大きく歪み、僕はバランスを崩して、そのまま階段を踏み外してしまった。

勢い良く階段を滑り落ち、貧血に似た症状を起こした。

足を折ったかもしれない・・・

僕は手すりにつかまり起き上がろうとしたが、血の気が引いて意識を失ってしまった。


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コンフィデンシャル

2005年11月24日 21時27分01秒 | 第8章 恋愛鼓動編
キンケイドはジョージのクライアントを調べると言った。
ジョージのことを調べれば、きっと僕の秘密についても明らかになるだろう。
そう楽観していた。

彼からは1年毎に報告があったが、これといった情報は掴めず調査は難航していたようだった。
そして、4年経ったクリスマスの日、キンケイドが僕の家の門前に雪だるまのように立っていた。
「メリークリスマス!トール」

僕は彼の突然の訪問に驚いたものの、家へ招き入れた。
両親には、大学院の先輩だと偽って・・・・・・。
母はキンケイドと以前会っていたので、僕は内心ドキドキしたが、「どちら様ですか?」と言う言葉に安堵した。

「クリスマスプレゼントだ」
部屋に入るなり彼はテーブルの上に、小さな箱を置いた。
「これは一体なんですか?」
その小さく軽い箱を手に取ると、僕は彼の答えを待った。
「開けてみろよ。・・・残念だが、入ってるのは指輪じゃないぜ」
僕は軽く笑うと蓋を開けた。
「空っぽ・・・・・・?!どういうことですか?」
キンケイドは答えなかった。

「オレは、ずっとジョージのことを調べてきた。しかし、決まって出てくる文字は『confidential』さ。
ヤツが何をしていたのか・・・・・・。
表面的な書類はあるが、そこから先は全てがコンフィデンシャルなんだ」

僕は落胆しながらも彼の言葉に耳を傾けた。
「オレは以前、お前に言っただろう?!合衆国政府はお前達を匿っているって」

キンケイドは何を言っているんだ?
なぜ、政府が僕を匿う必要があるんだ?
僕はそれが彼の言い掛かりに過ぎない、気のせいだと言った。

すると、彼はテーブルに手をつくと身を乗り出して、首を振り、話を続けた。
「お前は知っているのか。かつてのアシュケナード・・・」

彼がそう言い掛けた時、扉を叩く音がした。


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アイデンティティ

2005年11月23日 11時09分48秒 | 第8章 恋愛鼓動編
「そんな・・・・・・」
僕はぐらぐらと足元が揺らぐ、そんな感じがしてその場に跪いてしまった。
「僕はてっきりこの女性が僕の本当の母親かと・・・」
「・・・そうだな。オレも最初はそう思ったよ。だが、アリシアは死んでたんだ。
君が生まれるずっと以前に」

僕はふともう一つの考えが浮かんだ。
「ジョージは?!ジョージが僕の父親と言うことは?」
すると、キンケイドは頭を振って、否定した。
「ヤツは独身だったし、それにヤツはやはりアリシアを愛していた。
アリシア以外の女性と、とは考えられないな。それはオレも一緒かもな」

では僕は誰なんだ?
少なくとも両親の子供ではないことは確かだ。
生粋の日本人の二人から僕のような容貌の子供が生まれることは有り得ないことだ。
両親が僕の親であることには変わりない。
二人を心から尊敬し、愛している。
だけど、僕は僕自身が何者なのかが知りたかった。

「そう、がっかりしなさんな」
キンケイドはそう言うと僕の肩をぽんと軽く叩き、
「お前が誰であろうとお前はお前だ。しゃんと生きていけよ。って、オレもか」
ははっと力無く笑った。

僕はキンケイドにジョージと出会った経緯を話した。
彼が僕の護衛をしていたこと、そして、僕が拉致されそうになった場合は射殺する命令が出ていたこと・・・。

「ヤツには絶対お前は殺せなかったんだろう。それ位、お前はアリシアに良く似てる。
・・・ヤツのクライアントが誰だったのかはオレが調べるよ」
「すみません。お願いします」
「・・・ホント、良く似てるなぁ。オレはゲイじゃないが、宗旨変えしようかな~♪」
キンケイドは、そう言うと僕にキスをしようとしてきた。

「わっ!止めろ!!変態おやじ!!」
「ちょっと位、いいじゃねーか。けち。
ホント、黙ってりゃ、アリシアそっくりなのになぁ」
キンケイドは至極残念そうだった。
そして、「冗談。冗談」と一笑に付した。

・・・本当に、冗談だろうなぁ?!
・・・僕は危うく男にキスされるところだった。


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疑問

2005年11月23日 02時04分58秒 | 第8章 恋愛鼓動編
「トール。本当にお前は見れば見るほどアリシアに本当に良く似ている・・・」
キンケイドは僕の目を通してその先にいるアリシアに向かって話しているようだった。
「だから、初めてお前を見た時、オレは心臓が止るかと思った。
そして、次の瞬間、思ったんだ。つまり・・・」
キンケイドのこの言葉を聞いて、今まで抱いていた疑問を僕は口に出そうとしていた。

僕は、アリシアの・・・・・。


キンケイドは僕から目を逸らすと、小枝をパキパキと神経質に音を立てて折りながら話を続けた。
「馬鹿だな・・・。そんなはずはないのに」
キンケイドは手の甲を口に当て、くっくっと笑いを噛み殺した。
「そんなはずはない。ありえない」

僕はキンケイドの持って回った話し方に段々苛立ちを覚えていた。

「あの日の喧嘩を最後にオレ達は会うことはなかった。
いや、正確には1度だけ会ったんだ・・・ったな」
「なぜ会わなかったんですか?」
「オレは、NYに家族共々引っ越しちまったし、ジョージはその後、軍隊に入ったと聞いた。
アリシアは・・・・その後どうしたのか、実は詳しくは知らないんだ」
「知らない・・・って、じゃぁ、アリシアが今どうしているか知らないんですね」
僕は、このアリシアと言う女性に関心を抱かずにはいられなかった。

「いや、知ってるよ」
キンケイドは僕の方を向きながら答えた。
「どこにいるんですか?」
「・・・・・・死んだよ」
「え?!」
「15年前にな。お前が生まれる3、4年も前の話さ。
オレとジョージはその時、最後に会ったんだ。アリシアの葬式でな」


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アリシア

2005年11月22日 22時06分28秒 | 第8章 恋愛鼓動編
「アリシアは俺たちの天使だった・・・」
キンケイドはまるで昨日のことのようだと穏やかな目で語り始めた。


オレとアリシアは幼なじみだった。
美しく優しいアリシア・・・
彼女と幼なじみと言うだけで話し掛けて貰えるオレは世界一幸せだった。

ジョージはオレと同級生でアリシアの兄だった。
取り分け仲のいい美しい兄妹――――
二人が並んで歩くと皆が良く振り返ったものだった。
無口なジョージも天使のようなアリシアが話し掛けるとそれは嬉しそうに笑ったんだ。



あれはアリシアが15歳の誕生日の前日だったと思う。
あの日、オレ達3人はいつものように川へジョージお得意のフライフィッシングを見に行った。
ジョージの釣りを見て、アリシアが手を叩いて喜び、オレはそんな彼女に見惚れていた。
だけど、途中、雨が降ってオレ達は急いで川を離れ、山を降りた。
近くに民家があったので、そこで雨宿りをさせて欲しいとオレ達は頼んだ。

オレは彼女に温かいスープを飲ませてあげたいと思い、おばさんに頼んで作ってもらったスープを台所から運んでくるところだった。
部屋の戸を開け、オレはその光景に思わず叫びスープ皿を落としてしまっていた。

ジョージがアリシアにキスをしているのを見てしまったからだ・・・。
彼らは兄妹ではなかったのか?
いや、兄妹のはずだ・・・。
なぜなら、彼らはとても良く似ていたのだから・・・。

オレはアリシアを愛し始めていた・・・。
女神や天使を敬うようにではなく、1人の女性として・・・。
だから、オレは彼女がジョージに汚されているようで我慢が出来なかった。

彼女の胸の膨らみを弄るジョージの喜びに満ちた顔を見た時、オレはもう耐え切れず、ヤツに掴み掛かっていたんだ。

アリシアは、泣きながらオレ達の中に割って入り喧嘩を止めようとした。
オレが不用意に放った拳がアリシアの顔に当たった時、オレは初めて自分がしたことに気付いた。

アリシアはそんなオレを責めるでもなく、ただ、黙って抱きしめてオレの気持ちを鎮めようとしていた。
そんなアリシアの天使のような優しさに触れながらでも男としての欲求を押さえることが難しかったんだ。
そして、だからこそジョージが許せなかった。

アリシアは彼女の望むと望まざるとに拘わらず男を惑わせる。
彼女は天使でもあり、妖婦でもあった・・・。
彼女を見れば男は誰でも彼女を欲しいと欲望を掻き立てられる。
そして、その純粋無垢さゆえに無理矢理にでも手折ってみたいと・・・

男達の心を惑わせる、そう言う女性だった・・・。


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接点

2005年11月22日 19時58分16秒 | 第8章 恋愛鼓動編
さわさわと優しい風が川面を滑り、森の中へと駆けて行った。
「・・・思い出すなぁ」
そう言うと、キンケイドは遥か遠くの空を仰ぎ見た。
「オレは昔、フライ・フィッシングが得意な友人に良く川へと連れ出されたんだよ」
と、彼は笑った。
「オレは下手くそでな。良くヤツに笑われたよ・・・」

フライ・フィッシング・・・
まさか!?
僕は咄嗟にその人の名前を叫んでいた。
「ジョージ!?もしかして、ジョージ・ヘイワーズのこと?」
するとキンケイドはひどく驚いたようで、天を仰いだ目をかっと見開き僕を凝視した。
「なんで、ヤツを知っているんだ」

キンケイドはもしかしたら何かを知っているのかもしれない・・・。
そうだ!
僕は急いで喪服のブレザーの内ポケットに入れてあった写真を取り出し、彼に見せた。

「アリシア!」
キンケイドは写真を引っ手繰るようにして僕から奪うと、「アリシア・・・」と呟き、そのまま凍りついたように動かなくなってしまった。

この人がアリシア・・・
金髪に翠色の穏やかな目をたたえたこの美しい女性が、アリシア・・・

「この女性の写真は僕の父の書斎にもあったんです」
キンケイドは写真から再び僕に目を移すと、「はっ・・・・!はは・・・」と、頭に手を当てながら首を振った。

「ジョージは・・・、アリシアって誰なんですか?」
僕は今度こそこの二人の接点となるはずのキンケイドから何かを聞き出そうとしていた。


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悲しみの中で

2005年11月21日 23時07分19秒 | 第8章 恋愛鼓動編
お弔いの鐘が鳴る。
丘陵からは悲しげなラッパの音が流れ、空に向けて空砲が鳴り響いた。
家族を、恋人を、友人を失った悲しみの声を風が丘から運んで来た。

僕は葬式の列席者から遠く離れた川のほとりで悲しみと向き合っていた。
ジョージと一緒にフライフィッシングをした川とは違い木々が鬱蒼と茂る中で僕は1人で佇んでいた。

ジョージ・アンダーソン・・・いや、ジョージ・ヘイワーズは何かを知っていたはずなんだ。
そして、この写真・・・この金髪の女性は誰なのかも知っていたはずなんだ・・・。

なぜ、僕を殺さなかったんだろう・・・。
クライアントとは誰だったんだろう・・・。

川辺に膝をついて座ろうとした時、背後から草木を踏み分ける音がした。
僕は咄嗟に身構えた。
すると、見覚えのある人物が姿を現した。

「キンケイド!なぜ、ここに!!」
キンケイドは驚きもせず手を振ると、「探したよ。トール・フジエダ」と力無く笑った。

「君が、まさか例の研究所のチーフだったとはね。オレの情報網も錆付いたもんだな」
「一体、何をしに来たんですか?」

僕は彼が差し出す右手の握手を無視して彼を睨んだ。
「嫌われちまったか。ま、いっか」

彼は、ぼりぼりと頭を掻くと気だるそうに口を開いた。
「・・・オレもここに、友人の葬式に駆けつけたのさ」
「喪服を着ていないようですが・・・」
僕がジーパンにジャンパー姿の彼に対して訝しげに尋ねると、
「形式張ったことが嫌いな男だったんでね。
まぁ、普段どおりにお見送り程度の軽~い気持ちで来てやったって訳さ」

そう言いながら淋しそうに笑い、「一服やるか?」とタバコを差し出した。
僕が頭を横に振ると「そうか」と肩を竦めながら、自分の煙草に火をつけて煙をくゆらせ始めた。


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