フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

美しい女性

2006年01月04日 17時50分06秒 | 第10章 恋愛分岐編
医療器具の入ったカバンを掴んで車外へ出ようとした時、携帯が鳴った。

「すまねぇ。トール。奴らに捕まっちまった。今、リンカーン・・・」
キンケイドが言い終わらないうちに電源が落ちてしまった。

「キンケイド!キンケイド、どうした!!」
僕は彼らを救うと言いながら、それを遂行できなかった。
「・・・・・・ジーザス!」
血の気が引く思いと共にシートに携帯を投げつけると、突然重くなった体をどさりとシートに沈めた。


だが、キンケイドが電話できた状況を考えると、彼らはリンカーン像の前で僕が現れるのを待っているに違いない。
一刻も彼らを救出に向かわなくては。

カバンを小脇に抱え直し、ドアを開けると記念館目指して走り出そうとした。

「トール・フジエダ!待って!!」

背後から僕の名前を呼ぶ女性の声とバイクの爆音に驚き振り向くと、大型バイクに跨り、真っ赤なライダースーツに身を包んだ女性がヘルメットを脱ごうとしているところだった。

脱いだヘルメットの中からは煌く金髪がポトマック川からの風を含みながらふわりと豊かに広がり、彼女の顔にまとわりついた。

「あなたがトールね。兄から聞いてバイクを飛ばして来たの。
説明は後!とにかく乗って!」

息を呑むようなその若く美しい女性は、金髪の長い髪を手早く三つ編みにすると、僕に後ろに乗るように促し、自分がさっきまで被っていたヘルメットを僕に被せた。

「君が危ない。僕はいいから被って下さい」
「大丈夫よ。私、腕は良いから・・・・・・。それにあなた医者なんでしょ」
僕が軽く頷くと、
「OK! じゃ、何かあったら宜しく!」と十字を切った。

「しっかり掴まってね」
僕は医療カバンを彼女と僕の間に置くとそっと彼女の脇に手を添えた。

「そんなんじゃ、振り落とされるわよ!しっかり、ここに手を回して!!」
彼女は僕の両腕をがっちり掴むと自分のウエストに回した。

見た目以上に華奢でくびれた彼女の腰に僕は少し動揺しながら手を回した(ごめん。ハルナ・・・・・・)。



「いい!?飛ばすわよ!!」
彼女の号令と共にバイクはけたたましい爆音を立てながら、風を裂き、凄まじい勢いで街路樹を北側へと吹き飛ばして駆け抜けて行った。



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アメリカ医療の愁い

2006年01月04日 11時19分05秒 | 第10章 恋愛分岐編
キンケイド達の身を案じつつ、来た道を南下した。
車は不安材料を抱えつつも快適に街路樹を駆け抜けていった。




1990年代、アメリカの病院はひとつの間違いを犯した。
当時、慢性的に不足している看護婦の数を埋めるべく、各病院は挙って無資格の看護援助者の採用を進めた。

当初は、人手不足の解消のための採用と言った意味合いが濃かったのだが、看護婦よりもとても安い彼らの雇用賃金は雇用する側、即ち病院側にとっては魅力的だった。

そこにC&H社は目を付けた。
地獄からの冷血なコストカッター(COLD&HELL社と世間からの揶揄)の異名を取るC&H社CEO(最高経営責任者)グレアム・マッカーシーは無資格者の採用に力を入れ、正規看護婦の露骨な肩叩きを始めた。

その反対派の急先鋒となっていたのが、今は退職した当時の婦長達だった。
無資格者による数々の医療ミスとサービスの低下を憂えた彼女達は、ストライキを立案し、組合の結成を呼びかけた。
そうした彼女達の動きを察知したマッカーシーはある時は、懐柔策を持ち出し、それでも頑なに受け付けない者には、マフィアもここまではやるまいと言うような制裁を加えていったと言う。

アメリカの大規模な病院では医者が出資者となることを許容していたため、多くの医者が競うようにC&H社への出資を行い、利益を手にしていた。

一番の犠牲者は何も知らずに最低の医療行為に、従来よりも高い治療費を払っている患者自身だった。

そのC&H社の魔手が、我が社・・・・・・AMH社へと伸び、その巨大な病巣へと引き摺り込もうとしている・・・・・・。


「そんなことさせない!」
僕は勢いアクセルを踏んだ。

・・・・・・しかし、車はプスンプスンと音を立てて止った。

「・・・・・・っ、くっそぉ!」
僕は慌てて車から降りてトマス・ハザウェイの言った個所を蹴ろうとハンドルから手を放し、視線を車の扉に移した。
その時、ふとある計器に目が止り、がっくりと肩を落とした。

「・・・ガソリン、入れといて下さいよ・・・・・・。ハザウェイさん・・・・・・」



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運任せ

2006年01月04日 02時51分29秒 | 第10章 恋愛分岐編
車から降りるとポトマック川を左に臨みながら徒歩で北を目指した。
コートのポケットから携帯電話を取り出し、会社宛てにプッシュしようとした。
と、同時に携帯が揺れた。

「例の女性達!押さえました」
ハインツは興奮した声で電話口で叫んでいた。

「驚きましたよ!彼女達・・・・・・」
その時、携帯は電源が今にも切れそうな警告音を発し始めた。

僕は彼の言葉を遮って、急いで用件を述べなくてはならなかった。
「貰った電話ですまない。直ぐに医療器具を調達したいんだけど」
「医療器具ですか?」
「うん。出来れば小さな診療所とかで手配して貰いたいんだ。
今、ポトマック川沿いを北上していて、モール付近まで来てるはずなんだけど・・・・・・」

ハインツは目の前のパソコンで急いで検索したのか、数十秒で答えを弾き出した。
そして、その診療所の医者はハインツと大学時代からの親友とのことで必要な器具は全て揃えておいてくれるようお願いするとのことだった。

僕はハインツに礼を述べると共に、連邦労働法に詳しい弁護士とのコンタクトを指示し電話を切った。


これからは時間との戦いになる。

冬の到来を告げるポトマック川から吹き上げる風を肌に受けながら、僕は強くコートの襟を握り締めて足早に診療所を目指した。




「途方も無く歩く街ですよ」
それはハインツの言った通りだった。
僕は途中でヒッチハイクをしながら、診療所を目指さなくてはならないことに気が付き、50代くらいの男性が運転する車を止めて同乗させて貰った。
紹介されたトマス・ハザウェイが開く診療所はモールを更に北上しなくてはならなかったため、目的地を変更してくれた彼に詫び、車で送ってもらった。

診療所は、街角の一角に自然と溶け込んでいて、一見すると見落としそうな位小さな佇まいだった。

キンケイド達と別れてから時間が随分経ってしまっていたことに焦りを覚えたが、トマスは僕が必要と指示した医療器具と車を用意してくれていたために、少しだけ時間を短縮できたことを心から感謝した。

「C&H社のやり方が、オレは前々から気に入らなかったんだ」

30代の穏やかな目をしたその紳士はその容貌に似つかわしくない位、辛辣な言葉でC&H社を批判した。

「奴らに一泡吹かせてくれ!」
そう言うと、ウィンクして親指を立て、
「この車、ぽんこつだから止ったらこの部分を蹴り上げてみて」
と、車を蹴り上げて笑った。

・・・・・・出来ることなら止らない車を貸して欲しかったけど、彼に礼を言い、運を天に任せる気持ちで車に飛び乗った。



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