フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

かずにぃの決意

2006年01月23日 23時50分03秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃはベッドを離れ、2、3歩歩くと、机の引出しを開けた。

「ハルナはさ。実はオレのこと、密かにこえーとか思ってるだろ」
「そんなこと・・・・・・」

かずにぃは引き出しから、ライターをひとつ取り出すと、カチカチと音を鳴らせながら何度も点けたり消したりを繰り返し、それをじっと凝視していた。

「いいよ。無理しなくても・・・・・・。
ほら、オレさ、バスケがダメんなってからヤケになって・・・・・・。
高校生なのに、煙草は吸うーわ、マージャンは打つわ、女遊びはするわでさ、散々、親泣かしたし・・・・・・」
「でも・・・・・・、かずにぃ、頑張って、医学部に入ったから・・・・・・おばさん、喜んでたよ」

かずにぃは、苦笑いをすると、
「で、そのオフクロが娘みたいに大切に育ててきたお前を孕ませちまったもんだから、あれからも泣きながら相当、ぶったたかれたよ・・・・・・」
と、今まさに打たれた後かのように左の頬をさすった。

「でさ、オフクロが『これからどうするんだぁー』って言うからさ、『大学辞めて、働いて、ガキとハルナの二人位食わしてみせる!!』って言ったんだ」

かずにぃの手元をじっと見ていると、まるでマジシャンのように引き出しから続々と新しいライターが取り出されていた。

「したら、オフクロのヤツ、『あんたたち、親子3人を食べさせる位の稼ぎはあるわ!それよりも、きっちり大学卒業して見通しをつけなさいよ!』っつーて、回し蹴り食らったよ」

かずにぃは、今度は背伸びして、開き戸の中の箱を下ろし始めた。
「ホント、ガキだよな。親がいなくちゃ、お前とアカンボを食わせることも出来ねーんだもん」
一通り箱を下ろした後、かずにぃは手をパンパンと叩き、手に付いた埃を払い始めた。

そして、ゴミ箱2つを足で引き寄せると、ライターと『Caster7』と書かれた小さな緑色の箱をバラバラと「こっちが燃えるごみか・・・」と、分別しながら捨て始めた。

「何してるの?」
と尋ねる私に、かずにぃは「禁煙」と素っ気無く答えて、ゴミ箱を台所に運んでいった。


そして、再び部屋に戻り、椅子をベッドの近くまで引き寄せると、私の顔を覗き込んで微笑んだ。
「だけど、2児の父親となったからにはさ・・・・・・」

かずにぃの言葉にぎくっとなった私は、「え!?」と小さな叫び声を挙げて、エコー写真に再び目を落とした。
「赤ちゃん、双子なの???」
「いや」
「じゃ、他にも子供がいるの?」

かずにぃは、目を細めると、「オレ、そんなに節操なくないぞ!」と笑いに肩を震わせながら怒った。
「じゃ、もう1人の子供って?」
「お~い!自覚しろよ・・・・・・」
そう笑いながら、私の頭をちょんと小突いた。



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追求

2006年01月23日 22時18分40秒 | 第11章 飛翔編
随分長い時間かずにぃは私を抱きしめた後、ためらいがちに口を開いた。

「ハルナ、大事なことを聞きたい・・・・・・。
1度しか、聞きたくないことだから、正直に話して欲しいんだ」
私は、かずにぃの真剣な声に身を固くした。

「トオルとは、どうする?」
「・・・・・・」
「ヤツとは話し合ったのか?」
私は、小さく頭を振った。


今でも目を瞑るとトオル君の顔が浮かんでくる。
彼のことを思うだけで胸の中を熱い想いがざわざわと駆け巡る。
彼を忘れるなんて、会わないでいるなんて・・・・・・出来るの?

握り締めた手に薄っすらと汗が滲む。

「・・・・・・もう、会わない」
「それで、いいのか?」
「うん」
「後悔は?」
「しない・・・」
「ハルナ、本当に?」

かずにぃは私を抱きしめる手を緩めようともせず、微かに震える声で質問を重ねた。
「後悔はしないんだな?」

「・・・・・・私ね」
そう言い掛けて、震える声を抑えようと息を呑んだ。

「私、病院に行く前に、トオル君にメールを打ったの。
『ごめんなさい。私、待てなかった。もう、会えない』って」

だけど、その後、歩道橋でトオル君に似た人を見掛けただけで、私は走り出してしまっていたんだっけ・・・・・・。
それを思い出すと、メールに託した決意が揺らぎそうになった。

「トオルはなんて?」
私は首を振った。
「直ぐに、電源を切ったから・・・・・・わかんない。でも、もう会わない」

・・・・・・もう、会えない。
彼をもう待っちゃいけないんだ。

「ハルナ・・・・・・。オレ、ヤツと直接話をしたいんだけど・・・・・・」

そう言いながら、かずにぃは私の瞳を覗き込もうと、抱きしめる手を緩めた。
私は彼に必死にしがみ付き、ぎゅっと目を瞑った。
「私は、赤ちゃんを・・・かずにぃを選んだんだよ!それだけじゃ、答えにならないの?」

かずにぃはそれ以上の追求を止め、「分かったよ」とその腕を解いた。




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写真の中の決意

2006年01月23日 18時45分38秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは机を塞ぐようにその前に立ちはだかると、後ろ手にすぅっと写真を抜き取ったようだった。

「宇宙の写真?」
でも何となく違うような気がする・・・・・・。


かずにぃは手を後ろにしまったまま、小さな声で答えた。
「・・・・・・写真」
「え?」

良く聞こえなくて、彼の後ろを見ようと私は首を傾け、「見ちゃだめなもの?」と質問した。
「・・・・・・エコー写真」
「エコー写真って?」
私は初めて聞く言葉に首を傾げた。

暫くの間があった後、かずにぃはしぶしぶと写真を差し出した。
「お前とオレのアカンボの写真」
「・・・・・・この写真が?赤ちゃんの??」
「お前、この間、産まないとか言ってたし、動揺するといけないから・・・・・・」

そのテレビのざらざらとしたノイズの入ったような扇状の形をした白黒写真の中に、大きな丸い黒の輪郭が見えて、その中に2つの白い豆のようなものがあった。

「医師にはお前には見せないで欲しいって頼んでて・・・・・・」

これが・・・・・・赤ちゃん・・・・・・?

私は震える手で写真を手に取ると、もう片方の手でそっと自分のお腹に手を当てた。

「医師も見せない方がいいならって、お前に内緒でオレだけに写真を・・・・・・」
かずにぃは、目を伏せながら言い難そうに言葉を繋いだ。

「ね。この写真、どう見ればいいの?」
「え?!」
「頭とか、体とか、手とか??あるの?」

かずにぃは慌てて屈みこむと、私の方をちらちら見ながら白い二つの豆のようなものを指差して説明を始めた。

「え!?ああ・・・・・・。えぇーっと、こっちが頭とか言ってたよ。
で、こっちが胴体で・・・・・・」

私はぶわーっと涙が溢れてきた。
かずにぃは「ごめん。しまい忘れて・・・・・・」と謝りながら、慌てて私から写真を取り上げようとした。

「あっ!待って、違うの。まだ、見たい!」
「・・・・・・ホントに、大丈夫なのか?」
かずにぃは、再び私の手の中に赤ちゃんの写真を返してくれた。

写真をじっと見つめていると、涙と共に笑顔がこぼれた。
「私ね、赤ちゃんが死んじゃうって思った時、夢中で助けることしか考えられなかったの。
妊娠したって聞いた最初の時、凄く恐くて・・・・・・恐くて・・・・・・。
絶対に、産めないって思ってて。
でも、あの時、初めて気が付いたの」

かずにぃは不安そうな顔をしながら少し頭を傾けると、私の頬を伝う涙をそっと拭いて、「何を気付いたんだよ」と尋ねた。

「お腹の中に、本当に赤ちゃんがいて、必死で生きていたんだって・・・・・・。
私が死にたくないって思うのと同じ位・・・・・・、ううん、それ以上に、この子も必死で『生きたい』って叫んでるんだって思えて・・・・・・。
どんどん、体から赤ちゃんが消えていく気がして・・・・・・。
気付いたら夢中で叫んでたの。『赤ちゃんを助けて』って。
今でも、正直、産むって思うとプルプル震えちゃうのにね。不思議・・・・・・」

かずにぃは何も言わずそっと壊れ物を包み込むようにその広い胸に私を包み込んだ。




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