フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

夢に見るヒト

2006年01月09日 20時56分06秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは私の肩を掴むと、
「あの時の・・・・・・か?」
と詰め寄った。

私が目を逸らすと両手で頬を包み、
「そうなのか?」と
私の目を追った。

私は両腕を顔の前に交差すると、無言でかずにぃの質問を交わした。

「病院には行ったのか?」
「検査は?」
「ハルナ!」

かずにぃはどんどん私を逃げ場のない袋小路へと追い込んでいく。
涙が頬の輪郭をなぞりながらはらはらと流れ落ちた。

「検・・・査、してない。怖い・・・し・・・。もしそうだったらって・・・・・・」

暫くかずにぃは黙って私を抱きしめた。



私が泣き止んだ頃、彼はその重い口を開いた。
「明日さ、一緒に病院に行こう」
「い、嫌!」
「ハルナ・・・・・・。じゃ、せめて検査薬で調べよう」

私はかずにぃの腕の中できゅっと彼の手を握り締めた。
「さっき、このホテルの向かい側のビルに薬局が入ってたから、そこで買ってくるよ」
「嫌!」
私はそう叫ぶと再び吐き気を催して、トイレに駆け込んだ。

かずにぃは、いつの間にか背後にいて、私の背中を擦りながら訴えた。
「やっぱ、調べよう。もう、吐く物が残っていない位、吐いてるじゃないか。
もし、妊娠じゃなかったとしたら、そっちの方がよっぽど深刻な問題だろ?!」



私は口を拭いながら壁に寄り掛かるとそのままうな垂れた。
もう独りで抱えるには限界だった。

私の心は不安な日々の中、たった1人の人を求めて叫び続けて来た・・・・・・。

助けてって、怖いって。

だけど、その人は遠く、アメリカにいる。


トオル君さえいてくれれば・・・・・・
トオル君の側にさえいれば・・・・・・
トオル君の腕の中にさえいれば・・・・・・

全てが悪夢だったって、そう思えるのに。


夢に出てくる彼はただ優しく微笑んで、
「ヤツのとこに行けよ」と私の背後に立っているかずにぃを指差しながら去っていく。
意識が闇の中で彷徨し、交錯する。
真っ暗な沼の中に私の手も足も溶け込んで、呑み込まれそうになった頃、誰かが扉を叩く音がした。


「検査薬、買ってきた。大丈夫か?」
私はこくんと頷き部屋を出ると、独りトイレの中で僅かな希望にしがみついていた。

そして長い時間を祈るような気持ちで目を瞑っていた。



扉を荒々しく何度も叩く音と私の名前を叫ぶ声がする。
あれは、誰が叩いているの?

お腹の中にいる赤ちゃんが私を責めて叩いているの?


ほんの少し前のかずにぃとのたった一夜の出来事。
だけど、あれが夢ではなかったことを、手元から滑り落ちた検査の結果が告げていた。




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辻褄

2006年01月09日 13時18分20秒 | 第11章 飛翔編
かずにぃは私の家に電話すると今日はこのままホテルに泊まる事を告げた。
そして電話を切ると、私の方に戻って来て、
「まだ少し顔色が悪いな・・・・・・。なんか食いたいもんあるか?」
と尋ねた。

「ううん。何も食べたくない・・・・・・」
「でも、無理してでも食っといた方がいい。朝も食べてないっておばさんから聞いたよ」
「だけど、ホントに食べたくない・・・・・・」

かずにぃは小さく溜息を吐くと、「フロントに行って来る」と言って再び出掛けた。


かずにぃはもう抱かないって言ってた。
信じていいのかな・・・・・・。
初めて抱こうとした時も、途中で止めてくれた。
けど、それはリョーコさんが帰って来たからで、それがなければあのまま彼は私を抱こうとしていた・・・・・・。
そして、あの時・・・・・・。
信じたい、信じられない、そんな気持ちの間を行ったり来たりしていると、かずにぃはお盆にお鍋を乗せながら部屋に戻ってきた。

「厨房のコックさんに頼んで、作ってもらったお粥だよ。
これ位なら食えっだろ」

かずにぃが蓋を開けた途端そのお粥の臭いに胸がムカムカして、吐き気を催した。
口を抑え、ベッドから飛び降りるとトイレに駆け込みそのまま吐いた。
かずにぃが心配して、戸をノックした。

「大丈夫か?救急車呼ぶか?」

私は慌てて戸を開けると、無理に元気を装った。

「ううん。本当に大丈夫!最近、遅くまで勉強していたから体が疲れてるみたいなの」
「だと、いいけど・・・・・・さ。お前、お粥を見た途端、吐きそうになるなんて・・・・・・」

そう言い掛けて、かずにぃはお粥の蓋を閉めようとしていたその手を突然止めた。

「ま、さか・・・・・・」

かずにぃは「それだったら辻褄が合う」と呟くと、私の方を凝視した。
私の心臓がドクンとなった。


「妊・・・・・・娠、したのか?ハルナ」




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約束

2006年01月09日 00時45分19秒 | 第11章 飛翔編
神社は既に参拝客で溢れ返っていた。
出店からは焼き鳥や焼きそば、それから何だか分からない甘い香りがブレンドされて、不思議な臭いを醸し出していて、私はちょっと具合が悪くなってきた。
石畳の縁に足を取られ、体が揺れるとかずにぃが私を支え、「大丈夫か?」と心配そうな顔で覗き込んだ。

人混みに酔ったせいなのか、それともきつく締められた帯のせいなのか、本格的に気持ち悪くなってきた。

「・・・・・・ごめん。かずにぃ、吐きそう・・・・・・」
かずにぃは慌てて私を抱き抱えると、
「すみません。急病人です!通して下さい!!」
と叫びながら参拝客の波に逆らって大通りに向かって走り出した。

抱き抱えられて、体が揺れたからなのか堪らず吐いてしまっていた。
かずにぃのジャンパーとマフラーは私のせいで汚れてしまった。

「ごめん!ごめんね!かずにぃ・・・・・・」
咽び泣きながらかずにぃの腕の中で謝っていた。
「気にしなくていい!大丈夫か?」
かずにぃは私を抱きしめる腕に力を込めた。

神社近くのデパートの駐車場に止めてあった車の後部座席に私を横たえると、
「我慢できるか?」と、私の顔を心配そうに覗き込んだ。
「真っ青だな。急いで病院に行こう・・・・・・」
かずにぃの言葉を聞いて、心臓が止りそうになった。

「い、行かない!病院になんか行きたくない!絶対に嫌!!」

かずにぃは困った顔をすると、前方を見据え、やがてゆっくりと車を発進させた。

そして、暫く走らせた後、ひとつの建物の中に車を進ませると、後部座席のドアを開けた。
「・・・?こ、ここは?」
「ホテルだよ」

私は体を強張らせると、覚束ない足取りで車道へと駆け出そうとした。
咄嗟にかずにぃは私の腕を掴み、

「危ない!ハルナ!!」

そう叫ぶと、私を引き戻した。


「嫌!嫌!!かずにぃの嘘つき!さっきはごめんって、ごめんって言ったじゃない!」

抵抗してかずにぃの体を強く叩く私を抱きしめると、頭をそっと撫でた。
「もう無理に抱いたりしない。だから落ち着け、ハルナ」

かずにぃが連れてきたホテルはファミリー向けの温かな配色のホテルだった。

「少しここで寝るといい」

私をガウンに着替えさせ、ベッドに横たえると、「ちょっと出てくる」と言って部屋を後にした。




何時間位寝たんだろう・・・・・・
目覚めると辺りはすっかり薄暗くなり始めていた。

かずにぃは、いつの間に戻ってきたのかソファの上で靴を履いたまま足を投げ出して眠っていた。
テーブルの上には、『福袋』と書かれた袋が置いてあり、中には私の着れそうな服が入っていた。

これを買いに行ってくれてたんだ・・・・・・。
ぶっきらぼうな彼がどんな顔してこれを買ったんだろうと思うと、笑いながら涙が出てきた。

かずにぃは寝返りを打とうとしたのか、体をくるりと回すとそのままソファから落ちて目を覚ました。

「いってぇー!」
打った鼻を擦りながら床から起き上がった時、私と目が合い、真っ赤になった。
「だっせー」と一言バツが悪そうに言い、背中を向けた。

「良く眠れたか?」
「・・・・・・うん。ありがと」
「着物はホテルのクリーニングに出してあるから」
「・・・・・・うん」
「それから、さっきも言ったけど」
「・・・・・・うん」
「もうお前を抱いたりしないから」
「え?!」
顔を上げると、かずにぃはベッドに座っている私の方へ歩み寄り、その側に膝をついて私の手を取った。
「お前自身がオレを欲しがらない限りはもう絶対、無茶なことはしない」
そう言うと、私の頭に手を置き、髪をくしゃくしゃにしながら、
「約束するよ」
と口を真一文字に結び、笑った。



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