フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

アメリカへ

2005年09月27日 20時56分46秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
「どうした。徹?最近、元気が無いな」
成田空港に向かう電車の中で、ダディが僕のおでこに手を当てながら聞いた。

僕は聞けないでいた。
あの写真の女の人が誰なのかを。

途中、ベビーカーを押しながら家族が乗ってきた。
「まぁ!小さくて可愛らしいわねぇ」
マミィが目を細めながら赤ん坊を見つめていた。

僕はその赤ん坊がやっぱり日本人で、両親も日本人であることを確認してがっくりとした。

僕は、隔世遺伝なのかもしれない。
きっと、ダディかマミィのどちらかの家系に金髪で緑の瞳をした人がいて、僕はその人の遺伝子を受け継いだんだと思おうとした。
だけど、写真の女性の顔がずっと頭から離れないでいた。

落としてしまった写真立ては、ダディが寝ている隙にきちんと直して元の場所に戻しておいた。
その方がいいと思ったからそうしたんだけど、どうしてそうしたのかは自分でも分からなかった。

小雨が降る中、僕達は重い荷物を引き摺りながら成田空港に着いた。
搭乗予定の飛行機が僕達が来るのを待ちわびているように見えた。

「とにかく一刻も早く日本から離れるんだ」

不意にそんな衝動に駆られた。
搭乗を告げるアナウンスを聞きながら、ようやく僕は安堵した。


「日本になんか来ない方が良かった」

飛行機に乗り込みながら、僕はそっと呟いた。
そうすれば、何もかも気付くことはなかったかもしれないのに……。

僕は飛行機のシートに深く腰掛けると、窓の外に顔を向け、頬を伝う涙を両親に見られないよう長袖で拭った。




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ポートレート

2005年09月27日 10時07分24秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
アメリカへ帰る準備が慌しく過ぎていった。
僕は幼稚園でお別れ会を開いてもらい、沢山の心もこもった手紙を貰った。
僕は家に帰ると早速ダディにこの手紙を見せたくて、書斎をノックした。
ダディは書斎で座ったまま寝てしまっていた。

「ダディ、風邪引くよ!もう、マミィに『めっ!』ってされちゃうよ」

ダディの腕に手を掛けようとした時、銀色の写真立てがカタンと音を立てて机から落ちた。

「あ!」

一瞬、割れたかもしれないと思って僕は目をつぶった。
そぉ~っと目を開けると、僕とマミィとダディが写っている写真の後ろから、もう一枚写真が覗いていた。

何だろう。
そう思って、表に返した瞬間僕は息を呑んだ。

金髪にライトグリーンの瞳の女性の写真。

「僕と……同じ……?」

僕は、全身が震えた。



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トンネル

2005年09月27日 00時48分26秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
「徹。君が今の日本の幼稚園に通うことは、難しいかもしれないね」と、言うダディの言葉が僕には理解できなかった。

僕は友達とかけっこしたり、お遊戯をしたりして有意義に過ごしていたのだから。

ただ、これまでと違ったのは、幼稚園の先生に勉強を教わるのではなく、叔父さんにお勉強を教わることになったことだ。

叔父さんは日本のことについてとても詳しくて、それはそれは面白い話をしてくれた。
授業はお散歩をしながらすることになっていた。

交通標記に始まって、日本の株式市場のシステムに至るまで幅広いお話しをしてくれた。
雨が降ったり、風が吹いたりと言った気候の変化も、化学や物理学を交えながら楽しく教えてくれた。

ダディには天文学と医学と数学、それから政治学。
マミィには美術と音楽と英語、日本語を教えて貰った。

でもどれも一緒に外に出掛けて遊びながら教わったので僕は教わっているというよりも、一緒に遊んでもらっているという感覚に近くて、それらの勉強を心から楽しんでいた。


ある日、僕はマミィが幼稚園に迎えに来るまで、幼稚園のお砂場で遊んでいたことがあった。
一生懸命穴を掘っていると、背の高い白髪のおじいちゃんが、話し掛けてきた。

「君は何を作っているのかな」
僕は、穴掘りに夢中になりながら「トンネルだよ」と答えた。
「ほほぉぅ。このトンネルを作ってどうするのかね」
「この穴に手を入れてね、地球の裏側の人と握手するんだ。でも……」

僕は穴に更に深く手を差し入れ、土を掻き出しながら答えていた。

「でもなんだい?」
おじいちゃんは屈んで、僕の顔を覗き込んだ。
「大陸プレートを刺激しちゃって、地震が起きちゃったらどうしよう」
僕は、真剣に悩んでいた。

「わっはっはっは!面白い子だね」
僕とおじいちゃんは楽しく穴掘りをしながら、面白いことを言ってはお腹を抱えて笑った。

夕暮れ時に、ママが、迎えに来てくれたと先生が教えてくれたので、僕はママにこのおじいちゃんのことを教えてあげようと、走り寄って行った。
でも、振り向くとおじいちゃんはもういなくなっていた。

これが僕と父方の祖父との生涯たった一度の出会いだった。



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決断の時

2005年09月26日 01時23分04秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
その日、幼稚園から帰るとダディは僕をリビングへと連れて行き、膝の上に乗せて抱きしめた。

「徹。アメリカに帰ろう」

その時、僕は生まれて初めてダディの涙を見た。


その日の夕方、やはり同じ東京に住むダディの弟が僕達を訪ねて来た。
若くてさばさばした性格の叔父を僕は直ぐに好きになった。
ひとしきり叔父さんと遊んだ後、僕は疲れてソファでウトウトとし始めた。

「大きくなったな~。こいつ。この間、生まれたばかりだと思ったら……。生まれた時はこ~んなに小さかったのになぁ」

叔父さんはそう言いながら、両手を50cmほど開いて見せた。

「4年も経つものなぁ」

ダディは叔父さんのグラスにワインを注ぎながら、懐かしそうに遠くを見つめた。

「兄貴は本当にまたアメリカに行くのか?」
「ああ。大学院もまだ途中だし。それにもう逃げるのは止めようと思ってね。この子の将来のためにも」

「……そうか。オヤジは帰ってきて欲しそうだったぜ」

叔父さんがグラスをテーブルに置き、話を続けた。

「オヤジはこの間、兄貴が帰って来なかったら、銀行から持ち掛けられたMBOを受け入れて、病院の経営を今の経営陣に委ねると言っていたよ。病院を後世に残すためにも、体力、精神力共にある今のうちにやるってさ」
「……それがいいかもしれないな」
「兄貴、本当に病院は継がないのか?」

叔父さんは身を乗り出してダディに詰め寄った。

「嘉彦。お前が継げばいいだろう」
「冗談だろ!オレはお気楽な小さな病院の開業医でいいよ。どうも大病院の経営とか、政治とかはオレには向かないよ」
「僕もだよ。それに今は自分と徹のことで手一杯だ」

そう言うと、ダディは掌で弄んでいたグラスの中身をぐぃっと一気に飲み干した。



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苦悩の日々

2005年09月26日 00時00分00秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
僕は様々な場面で奇異の目で見られた。
まず第一にこの容姿。
金髪にグリーンの瞳。

僕は日本人ではないという事実を否が応でも突き付けられた。

でも、問題はそれだけじゃなかった。

それは4歳の時のことだった。

幼稚園の通常の保育時間が終った後、僕は算数の勉強をそこで教えてもらうことになった。
だけど、3回目の授業の後、先生はマミィに告げた。

「私はもう、この子に教えることはできません。遥かに私の能力を超えてしまっています」

算数の先生は最初は軽い気持ちで僕にテストをさせ始めた。
それを解く僕に対し、賞賛の声を上げ、徐々に難しい問題をテストしていった。
小学1年、2年、3年と難易度を上げていき、遂に3回目の授業では、高校生の問題を出すまでになってしまっていた。

僕は楽しくて、夢中になって関数や微分、積分と言った問題を解いていった。
その頃には、もう、先生の目は「異質のものを見る目」に変わっていたと思う。

両親は、決断をしかねていた。
僕と同年代の子供達と一緒に子供らしい教育を受けさせるべきか、それとも、能力に見合った教育をさせるべきかどうかと言うことを……。

僕は幼稚園の先生や友達が好きだったから、このままでいたいと思っていた。
でも、勉強を教わると楽しくなって、その勉強にのめり込み、知的好奇心が満たされることも確かだった。

子供に合った教育を……

それが両親の願いだった。
唯一それだけだった。

問題は基準だ。

体の成長に合わせるべきか、それとも精神の、つまり頭の成長に合わせるべきかで大きく揺れていたようだ。

そんなことばかり考えて逡巡していた両親に、ある朝アメリカからメールが届いた。

僕はポストに入った癖のある字で書かれたエアメールを取り出すと、マミィに渡した。
マミィは一瞬躊躇しながら震える手でその手紙を受け取った。

「じゃ!マミィ!ダディ!行って来ま~す」

僕はその日も意気揚揚と幼稚園バスに乗り込んだ。


そのメールがこれからの僕の人生を大きく変えるとは夢にも思わずに……。




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普通に生きる

2005年09月25日 16時48分33秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
僕は家の近くの幼稚園に行くことになった。
僕の容貌が他の子供たちと違うことで、仲間外れにさせるのではないかと毎夜両親が遅くまで話し合っていたことを僕は知っている。

しかし、両親には、僕の容姿以上に気に掛けていたことがあった。

しかも、それは直ぐに現実のものとなった。

ある日、幼稚園の遠足で園児が手を切る大怪我をした。
一緒に遊んでいた僕は急いで洗浄、止血し、応急処置をしながら、先生に救急車を呼ぶようお願いした。

「生まれて初めてですよ。あんなこと。鳥肌が立ちました」

先生は信じられないことを目の当たりにしたと、そして、病院の医師からも適切な応急処置の方法を絶賛されたと言うことをマミィに興奮しながら話していたようだ。

その夜、僕はなかなか寝付けなくて、マミィにミルクを作ってもらおうと、両親の寝室に向かった。

二人ともまだ起きていて、部屋から声がしてきた。
僕はそぉっと扉の隙間から、「マミィ」と言った。
でも、聞こえなかったようで二人は話を続けていた。

「あの子の才能を押し殺して普通の子供達と一緒に足並みを揃えさせることが幸せではないことは分かっている。だけど……」

ダディは頭を抱えていた。

「私達、二人が望んでしたことですもの。どんな困難も受け入れていきましょう。私は、あの時から覚悟が出来ています」

僕は何のことだか分からなかったけれど、多分聞いてはいけない会話なんだと思い、そぉっとその場を離れた。

僕は……普通の子じゃないの?
どこが違うの?
何がどう普通じゃないの?
それはおばあ様が僕を嫌っていることや、おじい様がお会い下さらない事と何か関係があるの?

僕は異常なの?

今日したことは先生達や周りの大人は喜んでくれたけど、両親を苦しめることにつながっているのだろうか。
そう思うと、なんだか悲しくなって泣きながら眠ってしまっていた。




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東京異邦人

2005年09月25日 15時00分22秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
四角い建物の隙間から微かに青い空が広がる国。
日本に対する僕の最初の印象はそんな感じだった。
牧歌的なボストンとは違って、皆が皆、とても忙しそうにせかせか歩いていた。

僕はここに来て生まれて初めて疑問を抱いた。

みんな黒い目。黒い髪。
……僕のと、違う。

「ねぇ。ダディ、マミィ。僕は日本人?」
「そうよ。徹。あなたは日本人よ」
「でも、どうしてみんなと違うの?」
「…………」

僕が尋ねても決して返事が返ってくることはなかった。
僕から見た両親は明らかに日本人だった。

僕はタクシーの窓にもたれながら、道を歩く人たちをじっと見つめていた。

空港から2時間ほどで、大きなお屋敷とも言える家に着いた。

「ふぁ~!おおっきいねー!!」

僕は大はしゃぎだった。

大きな扉が開くと、中から数人のおそろいの服を来た人たちと、年を取ったおばあ様が出てきた。

「哲也、この子が、例の子なの?」

おばあ様は僕の方をちらっと一瞥くれると、他人行儀な口調でダディに訊ねた。
僕は本能的に彼女にあまり歓迎されていないことを感じ取った。

「ご無沙汰していました。母さん。この子が徹です。ところで父さんは?」
「お父様はあなたたちにお会いになりません。ただ、お好きなだけ滞在できるよう別邸を用意致しましたから、そちらに行くようにとのことです」

冷たく響く祖母の声に僕は身が竦んだ。

僕達は祖母の用意した車に乗り換えてこれから暫く住む家に向かった。
車が赤信号に捕まり、止まる度に僕は人からじろじろ見られた。
中には「外人だ!」と指を差す子供もいた。

「ガイジンってなぁに?」

日本語がまだ良く分からなかった僕は無邪気にマミィに尋ねた。

マミィは、うっすらと涙を浮かべていた。

「マミィ、泣かないで!元気出して!!」

僕はマミィを抱きしめた。
ダディはそんな僕たちを包み込むように抱きしめた。

「やはり、日本に来たのは間違いだったのかもしれない」

ダディは、苦渋に満ちた眼差しで僕を見つめていた。



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ボストンでの日々

2005年09月25日 11時29分37秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
僕はボストン郊外の小さな町で生まれた。
ふわふわ綿毛のような金髪に明るいライトグリーンの瞳の僕は、ナース達から大変可愛がられたと、今でも母は自慢気に言う。

人生を徹して人々の為に尽くして欲しい――――

そんな両親の願いから僕は「徹」とつけられたことを後年知った。

両親は可能な限り、僕を旅行に連れて行ってくれた。
そして、この世界には空があり、草があり、風があり、太陽があることなど優しく歌うように教えてくれた。

そして、必ずその後に、「あなたは世界一大事な私達のBabyよ」とキスをしてくれた。
全ての時間が優しく流れていた。


「1、2、3、4・・・・・・72!マミィ、この螺旋階段、72段あるよ!」
僕はその時、2歳になるか、ならないかだった。
近くを歩いていた老夫妻は「Remarkable!(なんと素晴らしい!)」と、目を丸くすると、突然拍手をし始めた。

僕は当時、その老夫婦が驚いていた理由が全く理解できなかった。
それから数年して、徐々にその本当の理由を理解していくことになったのだけど……。

3歳になる頃には、僕は好奇心旺盛な人懐っこい子供に成長していた。
自然を愛し、人と話をすることが何よりも楽しかった。

家にはいつも沢山の人たちが訪れ、僕に色々なことを教えてくれた。
中でも、父が通っていたハーバード大学のメディカルスクールの学生が多く、医学について、毎夜熱いディスカッションを繰り広げていた。

最初の頃は何を言っているのか分からない部分が多かったけれど、徐々に話しの内容についていけるようになっていた。
みんなの話はエキサイティングでワクワクするようなものばかりだった。
そして、僕も徐々に話しの輪に加わるようになっていった。

そのうち、学生の1人が、真剣な顔をして「トール、SATを受けてみないか?」と、話を持ちかけた。

僕はまだ3歳だった。

「SATって?」

僕は暗号のような言葉に首を傾げた。

「そんな難しいことじゃない。多分、君にはね」

彼はウィンクした。

彼に勧められるまま、僕は試験を受けることになった。

SAT(Scholastic Aptitude Test:アメリカ学習能力適性試験)Iで、1600満点中、1400点を取った。
周りの大人達の畏怖と賛辞の中に僕はいた。
それから、直ぐに両親は大学での勉強を切り上げて日本に帰国した。
SATの結果が出てから、3日後のことだったと記憶している。

なぜ、そうしたのか今でも分からないけれど、とにかく、僕たち家族は一時日本に戻って暮らすことになった。




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覚醒

2005年09月23日 20時21分09秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
皮肉と言えば皮肉な巡り合わせだ。

オレがハルナへの想いに気付いた時、ハルナはオレへの思いを断ち切ろうとしていたことになる。

そう言えば、2年前の誕生日―――――
ハルナは来なかった。
あの時、ハルナがオレと小谷のことを見ていたとすれば、あいつがその日来なかった事、その後髪を切ったことも、なんとなくだが、辻褄が合うような気がした。


結局、オレは小谷を抱かなかった。
抱けなかったんだ。

危うくまた同じ過ちを犯すところだった。

好きな女じゃないと抱けない。
一度でいい。
心から好きな女を……、ハルナを抱きたいと自覚した。

だけど、ヤツはまだ中学生だ。
それに、今のハンパなオレはハルナに相応しくない。

気持ちにずっと封印しよう、いい兄貴でいようと思った。

それから暫く、隣りに住んでいながらオレとハルナは会うことが無かった。
オレは猛烈に遅れを取り戻すべく勉強を始めたし、ハルナはハルナで東京の中学に通うための、編入試験の勉強を始めたからでもあった。


あれから、オレはチビハルナの初七日に行った帰りに矢部先生の部屋を訪ねた。
矢部先生はチビハルナの書いた本を一冊オレに手渡してくれた。
チビが書いた沢山の花の絵や、この世から病気が無くなるように願った作文や、学校に行きたいと将来の希望が綴られた本だった。

チビが渡米した際に贈られた手術のための募金の殆どが残ってしまったと聞いた。
その大半が、チビハルナと同じように、外国へ行って治療をしなくてはならない子供への資金へと充てられたが、一部は、チビハルナの希望もあり、世界の貧しい国で勉強をしたい子供達への基金へと充てられていた。


オレは、医者になろうと決意していた。
チビハルナみたいな子供を1人でも救いたくて医者になろうと真剣に考え始めていた。
これがオレが足を骨折して、この病院に入院して、チビハルナに出会った運命の必然だ。
そう思った。

ようやくオレはフワフワとした体が地面に着地する感覚を覚えた。
オレは一生懸命生きて、もう決して自分を見失ったりしないとチビハルナに誓った。



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18歳

2005年09月23日 20時09分11秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
「それで?」
オレはノートが何だよと言う態度をとった。
小谷は一歩オレに近づくと小さな包みを差し出した。
「これ……」
「何だよ?これ?」

ぶっきらぼうに小さな包みを小谷につき返しながら尋ねた。

「プレゼント、なの。お誕生日、おめでとう」

この時、初めて今日がオレの18の誕生日だったことに気がついた。

「こんなもん貰うほど、あんたと親しくないんだけど」

オレは冷たく突き放し彼女に背を向けると、玄関のドアノブに手を掛けた。

「……好き。好きです」
「はっ?!」
「片岡君が、骨折で入院した時に気付いたの」
「何を?」
「だから、好きってこと」

オレはこの時、史上最悪の気分だったから、さっさと小谷に帰って貰いたかった。

「悪いけど、今日はそんな話しする気分じゃない」
「片岡君、足を怪我してから変になった」
「……そうかもな」
「だから、昔のように戻って欲しくて……」
「そりゃどーも」
「そのためだったら、何でもしてあげたくて」
「……ふーん。じゃ、ヤラせろよ」
「……」


小谷は驚いたようで真っ赤になって俯いた。
見るからに小谷は男を知らなそうなヤツだった。
だから、困らせてやるつもりで言った。

誰でも良い……。
オレ以上に誰かを傷つけたい。
そんな残酷な衝動に駆られていた。
それに、幾らなんでもこんなサイテーなこと言うヤツ、引っ叩いて逃げるだろうと思った。

だけど、小谷は頷き、小さく、「いいよ」と、消え入りそうな声で言った。
「……まじ?!」

誰でも良かった。
誰でもいい、こんな状態から救い出して欲しかった。
性懲りも無く、また女を抱くことで、空虚な自分から目を背けようとしていた。

オレは黙って玄関の扉を開けた。
突然、小谷が後ろを振り向いた。

「どした?怖気づいた?」
「ううん。そうじゃなくて、人の気配がして」
「気のせいじゃねぇの。入んの?入んないの?」

小谷は下を俯くと、黙ってオレに体を預けてきた。
小谷の微かに震える肩を抱きながら、ふと長い髪に触れた。

「ハルナ……」

オレはその髪に顔を埋めると、思わず口ずさんでいた。




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