フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

遠い世界に住むヒト

2006年01月11日 23時34分45秒 | 第11章 飛翔編
翌朝、ケータイの着音で目が覚めた。
スズが慌てた様子で口早にケータイの向こう側で叫んでいた。

「ハルナ!ビックリだよ!!8チャン、すぐつけてみ!」


隣りでぐっすりと眠っているかずにぃを起こさないように、テレビをつけた。


「・・・・・・とは驚きですねぇ。」
解説者らしきヒトがゲストらしきヒトに話し掛けているところだった。

「あ、会見が始まったようですね」

そして、次の瞬間、私は飛び込んできた映像に驚き、思わず叫んでしまっていた。


「トオル君!!」
幾つものマイクに囲まれた壇上で、スーツにネクタイをしたトオル君が、沢山のフラッシュを浴びながらも物怖じせず、会場に居る人達に挨拶をすると、流暢な英語で話し始めた。

私はなぜ彼がテレビに出ているのか分からなくて、ただ呆然とテレビを見つめていた。



「この度、我が社は友好的M&Aにより、C&H社を弊社の100%子会社と致しました。
今回のM&Aは、C&H社の・・・・・・」

彼の言う言葉に合わせて、通訳らしき女性が日本語で遅れながら彼の言葉を追っていた。


なに?
何を言ってるの??
違うよ・・・・・・。
変だよ、このテレビ・・・・・・。

このヒトは誰??


・・・ううん。違うよ。やっぱり、トオル君じゃないよ。
・・・・・・だって、トオル君は、運転中にハンドルを切り損ねちゃうくらいおっちょこちょいで・・・・・・、フツーの、ごくごくフツーのヒトだよ・・・・・・。


彼が話す画像の下に、呆然とした私の目が辛うじて追える速度でテロップが流れた。


『・・・今や、世界第1位の個人資産を有する・・・・若きカリスマ・・・最年少13歳でハーバード・メディカルスクールを卒業、その後、やはり最年少15歳でスタンフォード大学でMBAを取得するなど・・・』

テレビに写る彼がとてもとても遠くの・・・・・・まるで違う世界に住むヒトみたいに見える。
彼がアップで写ったので、慌ててその頬にそっと触れ、「本当に、トオル君なの?」と呟いていた。

突然、彼の目と私の目が合い、彼の強張った表情が一瞬和らいだ。

「ええ・・・・・・そうですね。今後、大変な問題が山積みですが、どんなに困難な状況に陥っても、僕は最善を尽くすだけです」

ブラウン管の中の彼は、優しく微笑みながら私に語り掛けているようだった。



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温もりに還りたい

2006年01月11日 00時02分59秒 | 第11章 飛翔編
広々としたダブルベッドはそれだけで私を不安にさせたから、ソファで寝ると言うかずにぃに「風邪引くよ」とベッドの隣りを明け渡した。

結局、私はかずにぃを心から拒絶することなんて出来ないんだ。
ほんとのところ、私には愛も恋も良く分かってないのかもしれない。

私の冷え切った手を、大きくて温かなかずにぃの手が包み込む。
「手を繋ぐだけだから・・・・・・」
かずにぃの手はあの日の手とは違う温もりで私を包んでくれた。


・・・・・・そう言えば、怖いお話を聞いた夜、こうして良くかずにぃが手を繋いで寝てくれた。
小さい頃が懐かしくて、涙が滲んできた。

かずにぃは頼もしくてやんちゃなお兄ちゃんで、私はいつもかずにぃの後をちょこちょこ付いて回るお荷物だった。
今思えばかなり迷惑を掛けた・・・・・・。

だけど、かずにぃはいつも、「しょーがねーなー」って笑って許してくれた。


あの頃の、私とかずにぃの間には、男とか、女とか、kissとか、sexとか、何も無かったんだ。
ただ、じゃれ合ってた・・・・・・。
遠い遠い昔のこと。

無邪気に意味も分からずに、かずにぃのお嫁さんになるんだって、レンゲ草で花輪を編んでは嫌がるかずにぃの首に掛けた。
レンゲの花に突然、蜂が寄って来て私達は命辛々、逃げたっけ。
それでも、かずにぃは私が編んだレンゲ草を捨てずに、そのまま逃げたんだよね。
そんな泣きたくなるくらい懐かしい思い出の記憶が押し寄せては胸を熱くする。


暫くするとかずにぃの安心しきった寝息が聞こえてきた。
「さっきまで、ちょっと泣いたりした・・・よね」
私は恨めしそうに良く寝ているかずにぃの寝顔に口を尖らせていた。

すると、突然、かずにぃは大きく寝返りを打って、がーって羽毛布団を全部持っていってしまった。

私、ちっとも大切にされてない・・・・・・。
お布団全部持ってっちゃうなんて・・・・・・。
私はかずにぃの頭をちょんと叩いた。

かずにぃは寝ぼけ眼でむくっと起き上がると、「ハルナ、風邪引くぞぉ・・・・・・」と布団を投げ、私をすっぽり包むと、そのまま抱きしめて眠った。

・・・・・・あ~あ。かずにぃ、何も着てない。
風邪引くよぉ~。

今度は私がお布団を彼に掛ける羽目になった。



何気ないことだけど、こういうのがいい。
心をナイフで切るような、そんな言葉の応酬はもうしたくない。


子供の頃に還りたい。
かずにぃの腕の中で、ただ無邪気に甘えていたい・・・・・・。
それだけでいいのに・・・・・・。


例え、明日つらい現実が待っているとしても、今は男も女もない、懐かしいこの温もりを大切にしていたい、そう思っていた。




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