フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

鼓動

2005年08月29日 02時40分03秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
かずにぃのTシャツからはほのかに汗と煙草の匂いがした。
……ドキドキした。
同時に恐怖と動揺に身が竦んだ。

 これから私、どうなるんだろう・・・
 どうしたらいいんだろ・・・


「……しよ?どうしてもいやだったら、言えよ。止めるから」

かずにぃは耳元で囁いて、身を竦めている私をひょいと抱えてベッドまで運んだ。
ベッドが小さな軋みを立てて私達を迎え入れた。

いやっ!

そんな言葉も発せないまま、すぐさま、かずにぃの唇が塞いでしまっていた。

ずるいよ。
これじゃ。いやって言えないよ!

かずにぃの手が耳から首筋へと、何度も優しく撫でていく。

更に身体を這うように服の上から胸元と乳首を優しく円を描くように撫でていく。
ゾクンとした感覚が頭のてっぺんから広がり、体を捩った。
気持ちいいと一瞬思えてしまった自分が恥ずかしい。

かずにぃの両手は執拗に胸を撫で、その膨らみを確かめているようだった。

「ここ、舐めてもいい?」

胸の頂を唇で弄るかずにぃの言葉に反応して、子宮がぎゅっと縮まる感触を生まれて初めて知った。
でも、次の瞬間、自分が変わってしまうような、もう二度と戻れないような恐怖に身体が震えた。

恐い……

そう思って身を捩じらせ逃げようとしても、かずにぃは容赦なく私を彼自身の身体の重みで動けなくしていった。

「も……。やっ……」

途切れ途切れに唇から声にならない声が出て来て、それがよりかずにぃの行動を煽ってしまっているようだった。

呼吸が震え、乱れる。

「好きだよ。ハル・・・ナ」

優しく胸を愛撫していた片手を背中に這わせ、今度はキャミワンピのジッパーを降ろそうとしていた。

だめ!
そう叫びたいのに、かずにぃは更に私の唇を割って舌を入れてきた。

「んー!ん……」
頭を動かして逃げようとする私の頭を押さえて、かずにぃはジッパーを一気に降ろしてしまった。
ブラの紐とワンピースの紐を同時に肩から滑らせると、服を瞬く間に脱がせ、胸が露わになってしまった。

かずにぃは、まじまじと私の胸を見つめると、彼の震える手をそぉっと両胸にあてがった。じっとあてがわれていた手は、やがて両胸を愛撫し始めた。

「あ!……っん」
自分自身の声に驚いて、頭に血が上ってくらくらした。

「感じて、ハルナ。そしてオレを受け入れて……」

かずにぃはようやくキスをしていた唇を離して、胸に唇を移動し始めた。

「はっ……」

気持ちいい。
恥ずかしい。
逃げたい。
恐い……。


やがて胸先にかずにぃの唇の温もりを感じ、体が弓なりに揺れた。
「い……やっ!!止めて!!」
私は声を限りに叫んだ。

あ。
声が……。
これで、きっとかずにぃも「もう、やめよう。やっぱり、もういいよ」って止めてくれる。
安堵に身体の力が抜けた。

だけど、その期待は直ぐに裏切られた。

かずにぃは上半身を起こすと、貪るように唇を重ねた。
「ごめん、ハルナ……。もう、止められない。……抱きたい。お前、壊しちゃうかもしれないけど、したい。」

かずにぃの肩から腕から顔から汗が流れ落ち、私の胸元へと流れ落ちてきた。
もう、頭の中、ぐちゃぐちゃだ。

私、ずっと考えてた。
私はかずにぃが好きなのか、そうじゃないのか。

でも、今は、頭が真っ白だ。
頭の後ろがガンガンと鳴って何も考えられない。

私はもしかしたらかずにぃのことが好きなのかもしれない。
だって、嫌じゃない。
嫌だけど、嫌じゃない。
決して嫌いじゃない。
それで、いいのかもしれない。

「はぁ。はぁっ……」
呼吸が荒くなり、震える私の胸に再びかずにぃは唇を這わせた。



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抱きたい

2005年08月25日 21時00分27秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
「夢を見てたよ」

かずにぃが私の頬を手で撫でながら言った。

「夢?」
「そう。小さい時のお前の。そしたら、急に大きくなってここにいるんだもん。ビックリしたよ」
それから、少し目を細めて、しみじみと笑った。
「ホント、大きくなったよな……」

あ。今の顔、いつものかずにぃだ。

私は安心して、かずにぃの横に腰を下ろすと、彼の大きな掌に顔を埋めてほっとした。
こういう目のかずにぃの方が好きだな。

すると突然、かずにぃは私の髪に手を通し、上まで引っ張った。
「あ。そうそう。そう言えば、ずっと聞こうと思ってたんだ。どうして髪、切ったんだ?キレイな長い髪だったのに」
私はギクッとした。

私が髪を切ったのは、かずにぃのせいだ。

だけど、喉まで出掛かったその言葉をぐっと押し込んだ。
「き、気分転換?!」
「へぇ~。そうなの。ふ~ん……」

かずにぃは私の髪を弄って遊んでいたけど、やがて、髪から手を離すと私の頭を軽く叩いた。

「家まで送るよ」
「いいよ。かずにぃ。疲れてるでしょ。まだ、早いし、電車で帰れるよ」
「遠慮すんなよ。夕飯時だから一緒に食べにいこう。オフクロが迷惑掛けたみたいだから、何かおごるよ」

かずにぃはベッドから立ち上がり、素早く机の上にある腕時計と鍵を掴んだ。

「わーい。じゃ、ゴチになります♪」

やっぱりいつも通りのかずにぃだ。
この間の気まずさが全て吹き飛んだ気がした。
きっと、あの時のかずにぃはちょっと疲れていたのかも。
だからいつもと違ったんだ。

「あれ?ハルナ、化粧してる?」
かずにぃは驚いた様子で私の顔を覗き込んだ。

「うん。お昼に友達とルージュ買ったんだ。それを塗っただけなんだけど。そだ。ほら、香水も買ったんだよ~。ジャ~ン♪」

私は買ったばかりの香水をちょっぴり手首につけ、首筋にもチョンチョンとつけてみた。

かずにぃは、私の手につけた香水の香りに鼻を近づけた。

「へぇ~。いい匂いだな」
「ちょっと、大人っぽいかな……」
「いや、そんなこと、ないさ。ふ~ん、もう大人なんだな~」
「うん。そっだよ」
「…………」

私ははしゃぎながらドアノブに手を掛け、扉を開けようとした。
その手にかずにぃの手が重なった。

「……やっぱり、まだ、帰したくない」
「え?」

私が振り向くと、かずにぃが重ねた手に力を込めて扉を押し戻した。

扉はバターーンと音を立てて再び閉められた。

「かずにぃ?」

重ねられた右手はすっぽりとかずにぃの手の中に収まっていて、びくとも動かなかった。

「抱きたい……」

突然の言葉に慌てて扉を開けようとドアノブに掛けている手に力を込めた。
けれど、かずにぃはそれを制し、私をきつく抱きしめると、思いのたけをぶつけて来るような激しいキスをした。

「かずにぃ……だめ……」

動揺する私の背後で、

カチッ

と、鍵が閉まる音がした。



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二人きりの部屋

2005年08月25日 02時20分17秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
「ハルナ……」
前のめりにベッドに倒れ込んだ私を、かずにぃは両手で抱き寄せた。

いけない!
起こしちゃった!?

「かずにぃ、あの、私……」
体を起こそうとした時、かずにぃのすぅっと言う寝息が聞こえた。
そぉっと顔をあげて、かずにぃの顔を見てみると、かずにぃは眠っているようだった。

寝ぼけてる?!

とにかくこの体勢はまずいかも。
抜け出そうと四苦八苦していると、かずにぃがパチっと目を覚ました。

「うわっ!ハルナ?!なんでおまえ、ここにいんの?」

かずにぃは飛び起きると、「夢かぁ」と呟いた。

「えっと、おばさんに用事を頼まれて……」
「用事?」
「あ、うん。もうその用事は用事じゃなくなっちゃったんだけど」
「言っていることが分かんねぇんだけど……」
「あの。おじさんが倒れて……」
「え?おやじが!」

さっとかずにぃの顔色が変わった。

「でも、何とも無かったみたい。ニョウカンなんとかって言ってた」
「尿管結石か?」
「あ、それ」
「……そうか」
かずにぃの顔に安堵の色が広がった。

「ねぇ。かずにぃ。ニョウカンケッセキって何?」
「あー。それはつまり石が出来たんだよ」
「石?」
「そう。石」

かずにぃは頷いた。

「体に石が出来るの?どこに?」

私が尋ねると、かずにぃは口籠った。

「え?!それは……その……まぁ、身体に……」
「身体の?どこ?」

かずにぃは天井を見上げると、話を逸らした。

「ハルナ、今、何時?」
「6時くらいかな」
「もうそんな時間かぁ」

目をこするとかずにぃは膝を立てて、ベッドから体を起こした。





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夕暮れ

2005年08月23日 04時17分23秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
玄関でもう一度チャイムを鳴らした。

「やっぱり、いないのかな」
独り言を言いながら、おばさんから借りた鍵で扉を開けた。

玄関を入ってリビングの左がリョーコさんの部屋。
右がかずにぃの部屋だ。

リビングをそぉっと抜け、かずにぃの部屋をノックしてみた。
やっぱり、返事が無い。

「本当にいないのかも」
それでも、ゆっくりと扉を開けてみた。

扉はキィと小さな軋みを立てて開いた。

「……かずにぃ」

いないと思われたかずにぃは、ベッドの上で布団も掛けないでそのまま身体を投げ出して熟睡していた。

顔色があまり良くないみたい。

机の上には無造作に何冊もの医学書や英語の辞書等が積み上げられ、寝ているベッドの脇にも無数のレポート用紙が散らばっていた。

「学校のお勉強、大変なんだろうなぁ」

私は久し振りに見るかずにぃの顔をまじまじと見た。
スズが、「柳楽優弥君をちょっと大人にしたら、カズトさんみたくなるんじゃない?」と騒いでいた事があった。

「そうかな?」

私はかずにぃのベッドの横で肘杖をつきながら、ブラインドの隙間から差し込む西日にちょっと眩しそうに顔をゆがめて寝返りを打ったかずにぃの横顔をまじまじと見つめていた。

あ、起きるかな?
疲れて寝てるみたいだけど……でも、起こさないと。
そしておじさんが病院に運ばれたことを告げないと……。

よしっ!起こそう!と気合いを入れた瞬間、私の携帯がブルブルと震え、着信を告げた。

「はい。もしもし」

受話器を包むように小声で応えると、ベッドから離れ窓辺に移動した。
電話の主はおばさんだった。

「あ!春名ちゃん?!さっきはありがとね。おじさんね、大丈夫だったの。ん~、まぁ、大丈夫でもないんだけど、命にかかわる病気じゃなくてね。尿管結石だったんですって」
「ニョウカンケッセキ?」
「私も詳しくは知らないんだけど、死ぬほど痛いらしいけど、死ぬことはないみたい」

それを聞いてほっとした。

「かずに知らせちゃったかしら?もし知らせたら来なくても大丈夫よって伝えてね。春名ちゃんにも心配を掛けちゃってごめんなさいね」

ほっとした様子でおばさんは電話を切った。

「良かった」
これで私の心の荷も解けた気がした。

再びベッドの近くに歩み寄ってかずにぃの顔を覗き込んだ。

かずにぃはよく寝ているみたいだからこのまま寝かせておこう。

「ここに来たことは、ナイショ、ナイショ♪あまり無理しないでね。かずにぃ」
かずにぃ髪をそっと撫で、立ち上がろうとした時、不意に左手を捕まれ、私はベッドに倒れこんでしまった。



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扉を開けて

2005年08月22日 03時04分23秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
「主人のところに行かなくちゃ」
嗚咽するおばさんの声を聞いて我に返った。

「おばさん!私がかずにぃに知らせてくる!だから、おばさんは早く病院に行って!」
「春名ちゃん。有り難う。ごめんなさいね」
おばさんはまた泣き出した。

おじさんの入院先と連絡先を聞くと、おばさんにかずにぃの家の鍵を貰い、トモとスズに急用が出来たことを告げて急いで電車に飛び乗った。

おじさん。何ともないといいけど。
おばさん一人で大丈夫かな……。

揺れる電車の中で扉に寄り掛かり、通り過ぎる景色に目をくれた。

かずにぃとはあの海以来、連絡を取っていない。
……もう1ヶ月位、経つ。
正直、顔を合わせづらい・・・。


そんなことを考えているうちに電車はかずにぃの住む駅へ着いた。

改札口を出て、駅の近くを流れる鶴見川の土手を歩きながら、ふとトオル君と一緒に歩いた多摩川の星空を思い出していた。

心に温かい感覚が広がってくる。
トオル君のことを考えると心がぽかぽかして、勇気が湧いてきた。

一度しか行った事がないけど、記憶を頼りに何とかかずにぃの住むマンションに着いた。
学生には不相応な位、近代的な立派なマンションを目の前にして、私はちょっと気後れしていた。

それでも勇気を振り絞ってチャイムを押した。

返事が無い……。

聞き逃したのかもしれないと、気を取り直し、2度3度とチャイムを押した。

やっぱり、返事がない。

仕方なく、おばさんから預かった鍵を鍵穴に差し込んだ。
オートロック式の扉がすーっと開いた。

もしかしたら、来てはいけなかったのかもしれない……。
その時、なぜそう思ったのかは分からないけど、そんな気がしながら、扉を通り抜けた。




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躊躇するくちびる

2005年08月21日 01時38分19秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
私の声に驚いた二人が、「どうしたの?ハルナ?」とキョトンと私を見上げた。

「あの人、かずにぃのお母さんなの!」

二人に手短に説明すると、急いで扉を開けて外に飛び出した。


おばさんは真っ青な顔をしていて、私に気付いていない様子だった。

「おばさん!」

おばさんは顔を上げ、私の方を見た。

「おばさん。どうしたの?顔色真っ青だよ」

私がおばさんの両肩を掴み揺すると、さ迷っていた彼女の視線がしっかりと私を捕らえた。

「ハ、春名ちゃん!」
おばさんは血相を変えながらも、涙ながらに理由を話してくれた。

「さっきね。主人の会社から主人が仕事の出先で倒れたと言う連絡が来たの。それで、搬送先の病院へ行く途中なの。」

おばさんは目頭を抑え、懸命に話を続けた。

「かずにも知らせようと何度も電話をしていたの。なのに、あの子ったら、携帯の電源切ってるらしくて、連絡が取れなくて……」

泣き崩れるおばさんの肩を抱き締めながら、かずにぃの顔が頭を過った。

かずにぃの住んでいるところだったら一度だけ行ったことがある。
引越の準備で。

おばさん、私がかずにぃのところに行って知らせてくる!

そう言いおうとして、言葉を呑みこんだ。


あの日から、かずにぃに会ってない……
どんな顔をして会えばいいの?
かずにぃになんて返事をするの?

海でキスをされた時のかずにぃのくちびるの感触が生々しいまでに蘇って、私の身体を硬直させてしまったんだ。



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渋谷のドトールにて

2005年08月17日 00時44分44秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
日曜日の渋谷。

「それってさぁ~。行かない方がいいんじゃな~い?」

スズとトモが声を揃えて言った。

「ってゆーかさ、ハルナ。あんたさ。カズトさんにコクられてるんだよ。それなのにトオル君と一緒に花火に行くのってどうなの?」と、スズ。
「そうだよ。それってウワキとかって言わない?」と、トモ。

渋谷でウインドウショッピングをして、散々歩き回って疲れて入ったドトールで、私は彼女達の格好の餌食にされていた。

「え?え?二人とも違うから、それ。トオル君はお友達も一緒にどうぞって私達を誘ってくれたんだよ。何でも葉山に別荘があるとかで……」
「え?!べ、別荘?!」
「うん。それで、毎年、花火大会の日にその別荘でパーティーをするらしいの。それでお友達と一緒にどうぞってことらしいの」

私は慌てて説明をしながら、氷の入ったアイスティーをカラカラと掻き混ぜた。

「え?そーなの?ごめ~ん!早とちりしちゃったよぉ~」

トモはバツが悪そうに氷の入ったジュースをストローでカラカラ回しながら笑った。

「ん~。行ってもいいけど……さ。でも、やっぱりなんとも思っていない女の子をパーティーなんかに誘うかな~」
スズはチロンと私を見た。

「誘うよ、きっと!トオル君はきさくな人だもん。誘うと思うよ。誰でも」

そう反論しながらふと目線を上げると、窓越しに見覚えのある婦人がタクシーから降りてくるのが見えた。
とても焦っているその人は財布からバラバラと小銭を落としてそれを急いで集めていた。


「お、おばさん!」

私は驚いて大声を上げて立ち上がった。




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東京の星座

2005年08月14日 03時53分22秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
トオル君はすっかりいつものトオル君に戻ってた。
「いつもの」と言い切れるほど、彼のことを知ってるわけじゃないけど、でも、そう思った。

二人で多摩川の土手を星を見上げながら歩いた。
彼は星を指差しながら、私に星や星座の名前を教えてくれた。
ギリシャ神話に彩られた様々な星たちのエピソードを語り、そして、最後に
「東京は本当に星が少なくて残念だ」と、言った。



結局、彼は私の家まで送ってくれた。

「今日は本当にごめんね。じゃ、また」

遠ざかるトオル君の後姿を見ながら、振り向いてもう一度手を振ってくれることを願った。

「お願い。トオル君、振り向いて……」

思わず、そう呟いてしまっていた自分に驚いた。
でも、何よりも驚いたことに、本当にトオル君は振り向いてくれたんだ。

え??
あれ??
こっちに走ってくる。

トオル君は息を少し弾ませながら、少年のような無邪気な笑顔で私に尋ねたんだ。

「来週、一緒に花火を見に行きませんか?あの……ハルナちゃんさえ都合が良ければなんだけど」




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涙、あふれて

2005年07月27日 00時32分41秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
多摩川の河川敷を一緒に歩きながら、やっぱりトオル君は柔らかく笑った。

「ごめんね。ハルナちゃん。あいつら今度シメトクから」

彼のこおゆうところって何だかほっとする。

あ。そだ。聞いてみよ。
さっきのこと。

「あの、トオル君。さっきの子達、トオル君のこと先生って……」
そういい掛けた時、前方から小さくて可愛らしいスピッツを連れた白髪の紳士が声を掛けてきた。


「Toru! Bonsoir!」

トオル君とその紳士は英語ではない言葉で2、3言葉を交わすと、手を振って別れた。
トオル君は私と目が合うと、にこっと笑った。

「あの人はフランスの人で、この河川敷をスナフキンと散歩をしていたら友達になったんだ。○○大学のフランス語文学の教授をされているとかで、とても気さくないい人なんだ。」
「そうなんだ。じゃぁ、今、トオル君が喋っていたのは、フランス語?」
「え?ああ。そうだよ」
「じゃぁ、じゃぁ!もしかして、トオル君はフランスの人なの?」

そう彼に尋ねて、私ははっとした。
トオル君の顔からふぅっと笑顔が消えたからだ。

「いや、違うよ。僕は……日本人だ」

厳しい口調で彼は答えた。
私は、聞いちゃいけないことを聞いてしまったような気がして気まずい思いになった。
トオル君はさっきまでの笑顔がウソみたいに消え、険しい表情になってずんずんと私の前を歩いて行く。
彼が燃え盛る夕陽に今にも消えちゃいそうで不安になる……。

どうしよう。
なんだか鼓動が早くなってきた。
あれれ。涙が……。
私が目を擦っていると、トオル君が振り向いた。

「えっ!?ど、どうしたの?ハルナちゃん?大丈夫?」

トオル君は心配そうに私の目を覗き込んだ。
トオル君の手が優しく私の頬に触れた。

ど、どうしよう。
私きっとまた顔、真っ赤になってるかも……。
しかも、涙が止まらない。
困ったことに、増量中。

だって、あまりにもトオル君が優しいから……。だから……。

「大丈夫?」

そういうトオル君はいつもの優しいトオル君に戻っていた。
私は、もうそれだけで胸がいっぱいになった。



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夕焼け染めて

2005年07月26日 11時55分51秒 | 第2章 恋愛ラビリンス編~ハルナの章~
雲が晴れ、夕日に照らされる多摩川の土手をトオル君と歩いた。
水面に反射した光が、トオル君の髪をキラキラと金色に輝かせていた。

「キレイ……」
思わずそう言ってはっとした。
「でしょう?この辺はこの時間が一番神秘的でキレイなんだ」
トオル君は無邪気に笑った。

「センセー!その人、カノジョ~!?ヒューヒュー♪」
はやし立てる声が下の方から聞こえてきた。

「この子は、友達だよ!」
トオル君は下に向かって叫ぶと、「あの子達は、僕の友達なんだ」と私に説明した。

「え?!友達?」
「そう。一緒にたまに野球をする」
「でも、あの子達……」

どう見ても、小学生だ。それに、先生って……。

「ちょっと待っててくれるかな」
そう言うと、トオル君は滑るように彼らのところまで降りて行き、子供達の輪の中に入って行った。

「今日は誰も怪我しなかった?」
「誰も怪我しなかったよぉ~!ねぇ、ねぇ!それよかさぁ、センセ~。ホントはカノジョなんでしょぉ~?あのヒト」

彼らははしゃぎながら私を指差した。

「でさ、キスとかするのぉ?」
「エッチとかするんだよね~」

キ、キス・・・エ、エッチ・・・。

過激な小学生の言葉に私は瞬時に顔が赤くなるのが分かった。

「あ!センセ~!!カノジョの顔、真っ赤だよ~」

子供達が私を指さし、からかい始めた。
顔が更に真っ赤になって行くのが自分でも分かり、両頬を急いで両手で隠した。

その時、こちらを振り向くトオル君と目が合った。

「夕焼けのせいで赤くなっているんだよ。ほら、みんな、野球、野球!」
そう答えるトオル君も耳まで赤くなっていた。




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