フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

幸せの所在

2006年01月17日 23時02分39秒 | 第11章 飛翔編
ドクンドクンと鳴る心臓の音を抑え込もうと無理に息を吸い込んだ。
呼吸が苦しくなる・・・・・・。

「ハルナちゃん、悪いけど、食事は管理しているからこのケーキは・・・・・・。
ハルナちゃん?!ハルナちゃん、どうしたの?」

ヒューヒューと喉が鳴り、またあの時の苦しみが蘇って来た。
医師と看護士が慌てて部屋に入ってくると、注射の準備を始めた。


「息を長く吐いて」
不意にトオル君の声が聞こえてきた。

「精神安定剤で止めることも出来るけど、君だったら自力で頑張れるよ。
ゆっくり、ゆっくり呼吸するんだ」
「出来ない!無理だよ」
「ちょっとずつ頑張っていこうよ」
「苦しい、やっぱり無理!
トオル君はなったことが無いからそんな気楽なこと、言えるんだよ!!」

布団を握り締める手に涙がこぼれ落ちた。

私は医師の注射を拒否すると、背筋を伸ばし、すぅっと息をゆっくり吐いた。

頑張ってみよう・・・・・・。
今まで、トオル君に頼りっぱなしだったけど、もう彼はいないんだもの・・・・・・。
私は私を頑張らなきゃいけないんだ・・・・・・。


何時間も吸ったり吐いたりばかりに集中して繰り返しているような気がした。
「もう、いいだろう。注射を打つよ」
側に控えていた医師が看護士に目配せをした。

「ま・・・・・・って、く・・・ださ・・・い」
私は喉を抑えながら、首を必死になって振った。

目の前が真っ暗だったのが、微かに、医師達の顔が見えるようになってきた。
そして、咳き込みながらも、徐々に荒々しかった呼吸も穏やかになってきた。

まだ、肩で息をしているけど、出来たよ!トオル君。
私、頑張って自分で抑えたよ・・・・・・。

私は込み上げてくる涙を拭き、顔を上げた。


やっぱり、さっきはトオル君が来たのかもしれない。
ふと、そんな不思議な感覚に囚われていた。


私はさっきかずにぃをトオル君だと思って抱きしめ、受け入れた。
きっと、傷付けた。

いつもそう・・・・・・。
私の弱さはトオル君も、かずにぃも傷付けてきた。

私は自分が幸せになりたくて、二人に幸せにして欲しくて・・・・・・、そればかり追い駆けて、結局、誰も幸せにならなかった。


今はどうやって生きていったら良いのか、それすらも見えないけど私はトオル君にもう一度会った時、胸を張って「私、頑張ったよ」って言えるような生き方をしよう・・・・・・そう思った。




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白昼夢

2006年01月17日 01時37分12秒 | 第11章 飛翔編
翌朝、医師の回診の時間が終ると看護士さんに頼んで部屋の窓をちょっと開けて貰った。
1月にしてはポカポカ暖かい陽差しが部屋の中をぱぁっと明るくし、ベッドの白いシーツをほんわりと温めてくれる。

「具合はいかがですか?」
看護士さんがカーテンをシャーシャーっと勢い良く開けながら私に笑い掛けた。
「昨日より、いいみたいです」
私は目だけを動かしながら、看護士さんの動きを追った。

「しばらくはおトイレに行く以外はじっと横になって、安静にして下さいね」
「・・・・・・はい」
「それにしても、ハルナちゃん・・・・・・旦那様、ステキで羨ましいわぁ~」
「え?」

何のこと言っているのか分かりかねて私は心の中で
(旦那様って、かっこいいって、かずにぃのこと??)
と首を傾げていた。

「すっごいハンサムな上に、ハルナちゃんのこと、とても大切にしているじゃない?
うちの旦那なんて、もう禿げちゃって、太っちゃって・・・・・・。
それに比べて、ハルナちゃんの旦那様は『かっこいいし、ステキ!』ってナースステーションでは、みんなで盛り上がってるんだから」

・・・・・・かっこいいのかぁ。
身近に居過ぎて分からないのかもしれない・・・・・・。



お昼を過ぎた頃になると、昨日の疲れからか、暖かな陽射しの中でウトウトし始めていた。

気付くと辺りは眩いばかりの光に包まれていて、ベッドの側にはトオル君が立っていた。
私は驚きのあまり声が出なくて、ただ泣きながら彼にしがみ付いた。

彼の熱いキスを受け入れ、夢中になって彼を抱きしめた。


トオル君も私を包むように抱きしめてくれた。
それから、ゆっくりと首筋に愛撫しながら、やがて、私の胸を弄り、唇で吸い始めた。

「あ・・・・・・」
堪えきれず、吐息が洩れる・・・・・・。
私は、彼の髪をくしゃくしゃにしながら抱きしめた。
「トオル君・・・・・・トオル君・・・・・・愛してる。私、・・・待ってたんだよ」

私が、そう言うと、トオル君は一瞬その手を止め、光の中に走り去っていった。

「トオル君!待って!!嫌だ!!行っちゃ嫌!!!」

泣きながら目が覚めると、どんより曇った空が見えた。
今にも雨が降りそうな冷たい風が部屋の中にさぁっと吹き込んできた。

「・・・・・・夢・・・だったの」
ほぉぅっとため息を吐いていた。

それでもいい、夢の中でも会えたんだったら、それだけでも嬉しかった・・・・・・。
私は、彼から貰ったペンダントを握り締めてキスをした。



「あらあら、風が強くなってきたわね」
午後の検温に来た看護士さんが窓を締めようとした時、「あら?」っとテーブルの上を見た。

そして、「ハルナちゃん、これは?食べ物の持込はダメよ!」と白い箱を持ち上げた。

私は、胸がドクンと鳴るのを感じた。

「す、すみません。その箱、開けてもらっていいですか?」
「いいけど??」

看護士さんは、箱を開けると、「まぁ、おいしそう!」と笑いながら、チョコレートケーキを見せてくれた。



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