フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

未来に続く道(3)

2006年03月31日 00時06分12秒 | おまけの章
天井の蛍光灯の灯りががぼやけたり、焦点が合ったりを繰り返していた時、カズトの顔がぬっとその光を遮った。

「すっげぇ、汗……。大丈夫か?つか、トオルは?!」
「事務室……。入院の手続とか、説明を……あ!」
答えている間にも、ズンズンと陣痛が襲ってくる。

つらくて手を伸ばした時、カズトの両手がしっかりと私の手を握り締めた。
「おばさんに書き置きしてきた。荷物も、ほら、持ってきた。でっ、なんか他にできる事、あるか?」
カズトの優しい言葉に首を振った。
「アリガト……ダイジョブ。……あ、っつ~~」
また来た波に、ラマーズ法を試してみたけど、声が震え、教わった通りに出来ない。

カズトの心配そうな顔が、陣痛の痛みで歪んで見えた。

看護師さんがやって来て、カルタに目を通すと、口早に説明と質問を幾つかされた。
「園田さんは経膣分娩をギリギリまで、希望されていましたが……。骨盤位経膣分娩の際のリスクは説明してありますよね」
私は、もう痛みで何が何だか分からないけど、うんうんと頷いた。

通常は、入院する際に受ける住所や、年齢と言った質問を、あまりにも早くお産が進むので、ベッドの上で、陣痛に堪えながら答えていた。

「では子宮口8cm開大ですから、とりあえず、分娩室に移動しましょうね」
看護師さんは私をベッドから抱き起こした。
移動している間にもズクンズクンと陣痛が襲ってきた。
陣痛と陣痛の合間を縫って、私は猛ダッシュした。

分娩室では、帝王切開手術の準備も整えて、先生が待っていた。

「……ご主人様ですか?」

え?!っと思い振り向くと、カズトが後からついてきていた。
「あ、そのぉ~、えーっと、オレは4ヶ月前に、ご主人……に……なり損ねた男です」

先生は、目を点にすると今度は、丁度、分娩室に飛び込んできたトオル君の方をくるんと振り向いて、にっこりと微笑んだ。
「ああ!では、君がご主人ですね」


「あ、そのぉ~、……はい」
このトオル君の返事に、カズトは「あ!きったねぇーー!まだ、違うじゃんよ!」と指を指して抗議した。
トオル君は、平然とした顔で、主張を続けた。
「……いいんだよ。4ヵ月後の僕の18歳の誕生日には入籍するんだから、ご主人予定と言う事で……」

2人は、分娩室で闘う私の隣りで、もうひとつの闘いを始めていた。

「ふ、ふ、2人とも出てってぇぇぇぇぇーーーーー!!!!」
私は、分娩台の上で怒りにプルプル打ち震えながら絶叫した。

すると、その時、お腹の中でグニョロ~~ンとした大きなウネリを感じた。
こ、これは、も……もしかすると……

「2人とも出て行きなさい!!そして、『今の』ご主人を連れてきなさい!!」
「せ、先生、もしかしたら、赤ちゃん、頭が、頭がぁぁ……」
私は言い掛けて、また陣痛の痛みに言葉を失った。

先生は、すぐに分娩台に戻り「あれ?!頭が出てきている……」と、カルテ片手にぎょっとしていた。
「え!本当ですか?!」
先生の言葉に、追い出され掛けていたトオル君とカズトは、駆け戻って来てしまった。

「出てってーーーーーーーーーーー!!」と、叫びたいのに、私は痛みでそれどころじゃなくなってしまっていた。

先生と助産婦さんの言葉に従って、無我夢中で、イキミ、無我夢中で、意識を保った。

気が付くと、2人に手を握り締められ、「はっ!はっ!はっ……」と短息呼吸をしていた。

「おめでとうございます。可愛らしい女のお子さんですよ」

赤ちゃんの元気な鳴き声と共にようやく目の焦点が合ってきた。

程無く、私の肌蹴た胸の上に、搗き立てのお餅のようにふにゃふにゃのチビちゃんが載せられた。

トオル君は「お疲れ様」とキスをし、カズトは、「有り難う」と涙を流し、先生と助産婦さんは「前代未聞だ!」と笑った。

新米のパパ達は、それはそれは嬉しそうに代わる代わる赤ちゃんを抱いて、
「この鼻が低いところとか、ハルナそっくりだ!」
と大笑いし、
「ひどい!目のクリクリしたところが私そっくりで可愛いって言おうよ!」
と私は大泣きした。

ともあれ、私は無事2,700gの女の子を出産し、16歳でママになった。


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チビちゃんへ

あなたには2人の素敵なパパがいます。
2人とも私のかけがえのない人です。

もし、あなたが道に迷ったら、2人があなたの暗い道を照らし、未来へと導いてくれるから、大船に乗った気持ちで安心してね。

そして、私を愛しているが故に身を引いてくれたパパと、私を愛しているが故に、決して諦めなかったパパのことを、いつの日か、あなたに話す時が来るでしょう。
沢山泣いて、沢山迷った時がママにもあった事を、あなたに話す時が来るでしょう。

でも、どんな時も、私はあなたに必ずこう言うと思うよ。

ママは今、とても幸せです……

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おしまい
ヤレヤレ……

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未来に続く道(2)

2006年03月30日 02時26分40秒 | おまけの章
トオル君は2段跳びに階段を駆け上ってきた。

私は、トオル君と会う時だけ羽が生える。
トオル君がくれた自由の翼……恋する翼……
嬉しくて、涙が零れて、彼目掛けてジャンプする。

「わ!わ!わ!危ないよ!ハルナ!!」

仰け反りながら抱き止めてくれたトオル君は、ペタンと階段にしゃがみ込みちょっぴり怖い顔。

「ひっく。お…ひっく、おかえり……な…さい……ひっく」
私は久し振りのトオル君の腕の中で、ポロポロ泣いた。
お布団でも、クッションでもない、本物のトオル君の温もりを抱き締めた。

「しょうのないコだね……」
安堵の溜息を吐くトオル君の温もりが伝わってくる。
「……ただいま、ハルナ」

それから、トオル君はにかんだように笑うと、私の顎にちょんと手を当て、顔を持ち上げるとキスをした。

「カ……」
カズトがいるからダメ……と、言い掛けた私の唇は、トオル君と重なった瞬間、何を言おうとしていたのかも忘れてしまった。


離れていた時間を埋めるかのような長い長いキス……
唇を重ねながら、トオル君は質問を重ねた。

「淋しかった?」
「……ううん」
「つらかった?」
「……ううん」
「ったく、もー!何度キスしたら君は正直に『うん』って言うんだよ!」

私はちょっぴり困った顔で、涙を拭くと彼にちょこんとキスを返した。

「『会いたかった?』って聞こうよ!そしたら『うん』って答えるから……」

トオル君は笑う。
つられて私も笑う。

その隣りに、カズトがどっかりと腰を下ろした。
「目の毒なんだけど……。オレに気の毒だと思わねぇーのかよ」
苦々しく毒気付いてカズトは笑っていた。

「あ!片岡、いたのか!?久し振り」
トオル君は、驚いて、握手しようとカズトに手を差し出した。

カズトはトオル君の差し出す手をパンっと叩いて、トオル君を睨みつけた。
「何が、『あ!片岡、いたのか!?』だよ!空々しい!!っつーか、お前、来週戻ってくるって言ってなかったっけ?」
「僕は、君に言った覚えないけど……」
「あ、わり。おばさん(ハルナのママ)経由で、うちのオフクロが聞いてたんだった」

2人の間にちょっぴりぴりぴりしたムードを感じて、胃がズクン!とした。
……あれ??胃と言うよりも、もっと下の方……かも……


私は、痛む胃、よりもちょっと下の方を押さえた。
もしかして……
もしかして……
これは……
「……来た……かも……」

「へ?」
カズトは前を歩きながら振り向いた。
「どうしたの?ハルナ?」
トオル君は、後ろから顔を覗き込んできた。

「……陣痛」

2人はぴたっと歩を止めた。
「じ、陣痛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

2人揃って、見事なシンクロ絶叫をした。

「……っ!いった……い。ズクンズクンする……」
私はお腹を抱え込むと、その場にしゃがみ込んでしまった。

「じ、陣痛ってお前……」
「片岡、すまない。荷物を頼む」

トオル君は、素早くちらっと腕時計に目を落とし、動揺するカズトに、自分の荷物を渡し、私をひょいと抱え、車道まで走った。

「ハルナ、今は、大丈夫だよね。痛みは消えてるよね」
私は彼の言葉に、こくんと頷いた。
「じゃぁ、次に波が来たらまた教えて」

3人でタクシーに乗り込むと、トオル君はカズトに私の入院荷物のピックアップとママ達への連絡を指示した。
そして、私の家の前でカズトを降ろすと、すぐさま病院へとタクシーを走らせた。

冷静なトオル君の行動にほっとした頃、また次の波が来た。

「10分間隔か……」

トオル君の額に汗が滲んでいた。
ふと、目と目が合うと、彼は心配そうな顔で、「つらい?」と聞いてきた。
微笑み首を振る私に、「こう言うときはつらいって言っていいんだよ……」と言って、強く抱き締めてくれたんだ。

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未来に続く道(1)

2006年03月29日 00時05分37秒 | おまけの章
トオル君

お元気ですか?
アメリカは、暑いですか?
日本は、入道雲が天高く空に浮かび、うだるような夏の気配が一層感じられるようになってきて、臨月の私にはちょっと厳しい日々が続いています。
赤ちゃんの出産予定日には間に合わないとのことでしたが、それでも帰ってきてくれるだけで嬉しいです。
赤ちゃんは、逆子らしく、やっぱり今日の検診で帝王切開にしようと先生がおっしゃっていました。
それでも諦められなくて、毎夜フーフー言いながら逆子運動をしています。

そうそう。あれから、何度もテレビでトオル君を観ました。
この間、電話で、「忙しくて3時間と寝ていない」と言っていましたが、大丈夫ですか?

赤ちゃんとママと私の3人で(パパも転勤先から明日戻って来てくれるから4人です)、トオル君の帰りを待っていますね。

愛してます。(←う~ん、やっぱ、恥かしいよ……。次回からこれは省略します!)

byニンプハルナ

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可能性は低いけど、自然分娩を望むならそろそろ運動をこまめにして、子宮口を柔らかくした方が良いという先生のアドバイスの下、私は郵便ポストまでの長い階段を「ヒッ、ヒッ、フー」とラマーズ法の練習をしながら降りていった。

だけど、さすがにお腹が重くて、歩いていると足の付け根が痛くなってきた。
歩き方も、お相撲さんチックだし。
でも何よりも辛いのは寝る時……。
私は、うつ伏せになって寝るのが好き。
何となくその方がトオル君に抱き締められているような気がするから。
それが出来なくてつらい。
でも横になっても、仰向けになっても苦しくて寝れなかった日々ともう少しでサヨナラなんだ……。
ちょっぴり淋しいような気がするよ。チビちゃん。

階段の途中で「よっこらしょ」と腰掛けて、お家から持ってきた水筒に手を伸ばすと、中に入っていたミネラルウォーターをゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいた。
「ん~!美味しいよぉぉぉぉ!!」
でも、チビちゃんには冷た過ぎたのか、お腹の中で嫌がるようにウニョーンと動いた。
「ごめんね。冷た過ぎたかな?」
お腹をさすりながら、私はチビちゃんに話し掛けていた。
すると、暫くして、お腹の赤ちゃんがシャックリを始めた。
お腹の中が、ピクンピクンと小刻みに動いている。
しかも、止らないらしい……。
ウニョーンがちょっと激しくなる。

「だ、大丈夫?チビちゃん!ご、ごめんね」

私が懸命に話し掛けていると、階段の天辺から声が降ってきた。

「おーい、そこのニンプ!独り言は寒いぞ!」
「カズト!」

私は、少し歩を速めて階段を駆け上がった。

「いつ、こっちに?大学は?」
「……久し振り!たった今着いたとこ。大学は夏休みに入ったよ」

カズトの久し振りの笑顔に少し涙ぐんでしまった。

「お~い、泣くな~。こっちはまだ傷が癒えきってねぇんだから、そんな目で見られると、抱き締めたくなっちまうだろ?!」

笑顔!笑顔!
私は頑張って、ニコ~と笑った。
カズトは目を皿のようにすると、冷ややか~な声で言った。
「ざぁとらしー笑顔……。っつーか、お前さ、4ヶ月近く会わないうちに、ますます横綱に磨きが掛かったみてぇだな」

日に焼けたカズトが、笑いながら私の涙を指で拭った。

「ひどい!久し振りに会ったのにそのセリフ?」

私がカズトをちょっぴり睨みながら笑っていると、今度は階段の下から、微かに私の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


まさか……
まさか、だよね……

「ハルナ!」

この声のする方を振り向くと、トオル君が手を振っていた。

「トオル君!!」

あまりの事に、私はビックリして目がドングリになった。
ついでにチビちゃんもビックリしたようで、いつの間にかシャックリがピタリと止ってしまっていた。

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