フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

彼女の正体

2006年01月08日 11時03分57秒 | 第10章 恋愛分岐編
「トール!こっち!!」

声のする方を振り向いた。

「グレイス!!」
「乗って!早く!!」

猛ダッシュで彼女の運転するバイクに飛び乗ると、彼女はフルスピードでバイクを飛ばした。



「閃光弾、役立ったみたいねー!!」
彼女はさっきキスした時に僕のコートに忍ばせた閃光弾について言及した。
「あんなもの持っているなんて、君は一体・・・・・・」

僕の疑問に答えず、彼女は、「かばん、開けるわよ!!」と叫んだ。
なだらかな丘陵に辿り着くと、軽く弧を描きながらバイクを止め、「あそこにケッチャムとキンケイドがいるわ」
と、木々の隙間から辛うじて見えるリムジンを指差した。

「君は、一体、誰だ?」
僕はかばんに詰められた手榴弾や銃を見てその正体に疑問を持った。

「ハザウェイの妹というのは、ウソなんだろう?」

彼女はくすくすと笑うと、そっと僕の耳に唇を寄せながら「エフ、ビー、アイ」と囁いた。


「さ。彼らを助けるわよ。ここで待っててね」

彼女は僕を車の至近距離にいるように指示し、プランを話すと、再び1人でバイクに跨り車の前に踊り出た。

そして、バイクごと横滑りに横転し、「キャー!」と叫んだ。
バイクはそのまま火花を散らしながら路上を滑り、木にぶつかって止ると大破した。
車に乗っていた男二人が車外へ飛び出し、「大丈夫か」と彼女に駆け寄った。

「イヤだわ・・・・・・。怪我しちゃったみたい・・・・・・」
彼女は魅惑的な微笑をたたえながら、ゆっくりとライダースーツのジッパーを下ろし始めた。
豊かな胸の谷間に男達が唾を飲み込んだ頃、「あ、あれは!」と彼女は叫んで後方を指差した。

僕は先程の閃光弾を男達に向かって投げつけるとリムジンに飛び乗った。



グレイスもリムジンに乗り込んだ頃、リンカーン記念公園の方から銃声が幾つも鳴り響き始めた。
「応援が間に合ったようね」
彼女は金髪を掻き揚げながら微笑むと、親指を立て「Good job! トール」と笑った。


「・・・・・・胸、早くしまったら?」
僕は彼女の肌蹴た胸が気になり、目のやり場に困ってしまっていた。
一瞬、きょとんとしたグレイスは、やがてからかうように、更にジッパーを下ろし始めた。

「もっと、見てもいいわよ~♪」
「運転を誤って昇天しますよ。あの世の道連れになりたくなかったら、仕舞って下さい」


彼女は横目で僕の顔を見つめると、くすくすと笑いながらジッパーを上げた。


この女性を乗せてAMH社まで行かなくてはならないのかと思うと、

やれやれ・・・・・・

僕は自分の身に起きた不運を嘆いていた。




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迫り来る危機

2006年01月07日 21時52分55秒 | 第10章 恋愛分岐編
「はっ!殺したとはこれまた随分な言い掛かりを・・・・・・。
その上、被告人呼ばわりですか」

マッカーシーは足音を響かせながら僕の側にゆっくりと歩み寄ると、突然、僕の襟首を掴み締め上げ始めた。
「貴様のようなクソガキをここで蜂の巣にすることなぞ造作も無いことなんだぞ!」
「凄い殺し文句だな」
僕の回答が余程気に入らなかったのか彼はぎりぎりと襟首を締め上げ始めた。


「ジェイク・フーバーは・・・・・・」
この名を聞いたマッカーシーに一瞬の隙が生じ、その隙を衝いて彼のみぞおちを蹴り上げた。

咳き込む彼の背後を取り腕を捩じ上げると、逆に人の盾としてマッカーシーを銃を構える男達の方へと向けた。

「ジェイク・フーバーはかなり腕のいい会計士だったようだね」
マッカーシーの額に一筋の汗が光り、流れ落ちた。




「ああ。そうだ、あんたがフーバーに指示した60億ドルの嫁ぎ先なんだけど・・・・・・」
「な、何のことだ・・・・・・」
マッカーシーの顔は次第に蒼白になり、ブルブルと震え出した。

「え?!忘れたの?あんたに便宜を図ってくれている裏のお偉いさん達からくすねたポケットマネーじゃないか。
フーバーがどこに隠したか知りたくないの?」
「・・・・・・なっ、何のことだ?わ、私は、し、知らない・・・・・・」

マッカーシーは一瞬顔を上げ、その視線で何かを捉えると、すぐさま顔を背けた。

この銃を構える男達の中に、異質の者がいる。
そいつは気配を殺してこそいるが、確実に僕を、そしてマッカーシーをも闇に葬り去ろうとしている。


身に迫る危険を察知し、
「・・・・・・そうか。仕方ないな。では、真実は後日、法廷で!
あんたが生きていれば、だけど・・・・・・っね!!」

言い終えないうちに僕は彼の背中を蹴り、閃光弾(flash bang)を投げつけた。




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コートの闘い

2006年01月06日 22時32分03秒 | 第10章 恋愛分岐編
露骨に脅すとは彼は余程ゆとりがないと見える。

「それは怖いな。まだ死にたくないよ」
弱々しい動物のように声を細く震えさせながら僕は答えた。

「君はまだまだ若く未熟だ。私の言う通りにすれば恐いことなど何もないさ。
そうそう、君はテニスもプロ級と聞いた。今度一緒にコートで親交を深めようじゃないか」
交渉に優位に立った者が見せる尊大さをマッカーシーは隠そうともしなかった。


「もっとも、君がケッチャム君から貰ったものを私にくれさえすればだがね・・・・・・」
彼はこの上に乗せろとばかりに掌を差し出し、指をくいっくいっと折り曲げた。


「このマイクロチップのこと?!これを返したら、助けてくれるんだね」
僕は昂揚した口調でマイクロチップをポケットから摘み出し、彼の目の高さに翳した。


彼はマイクロチップを奪い取ると、くつくつと笑いながら右手を挙げた。
「・・・・・・ご協力感謝する。だが、残念ながら君達3人はこの後謎の失踪を遂げ、世間からその存在を消すことにした方がいいね」

記念館の柱の影から銃を持った男達がバラバラと出てきた。
「この白亜の神殿が血で汚れるのは私の美学が許さない。
車にご同乗願おうか」
「断ると、言ったら」
マッカーシは目を細めると、「美学に反してでもここで殺るしかないでしょうね」と笑った。

「マッカーシー。僕は行かない」
彼の顔が微妙に歪んだ。


「僕が今、あんたに渡したマイクロチップは確かにケッチャムから預かったものだ。
だけど、それは単に数字が羅列されているだけだよ」
「何?!」
「暗号さ。解読は困難だよ。あんたには一生掛けても不可能だ」
僕を囲んでいた男達は一斉に銃口を向けてきた。
「世界中捜してもその暗号を解読出来るのは二人だけだよ。
1人はあんたが殺したこの暗号の作者でもある会計士のジェイク・フーバーと・・・・・・」

マッカーシの顔色がさっと変わったのを確認して言葉を続けた。
「もう1人は」
「まさか・・・・・・」
マッカーシーは、銃を持った男達を手で制しながら、固唾を飲んだ。

「そう・・・・・・僕だよ。僕のことは良く知っているはずだ。
では、被告人グレアム・マッカーシーさん。
リンカーン元弁護士が鎮座ましますこのコート(court:法廷)であんたと決着をつけようか」




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白亜の神殿

2006年01月05日 23時46分47秒 | 第10章 恋愛分岐編
バイクから降りると、彼女に手を差し出し礼を述べようとした。

「有り難う。えぇ・・・っと」
「グレイスよ。グレイス・ハザウェイ」
「有り難う。グレイス」

グレイスは微笑むと力強く握手を返した。

「お礼はまた今度改めて」
「・・・・・・じゃ、今はこれでいいわ」

彼女はそう言うと僕の肩に手を回し、唇を重ねてきた。


「な・・・・・・!?」
慌てて振り解いた僕の顔を彼女はいたずらっぽい目で覗き込みながら「ふふふ」と満足そうに笑った。

グレイスはバイクに跨ると、エンジンを掛け、ヘルメットを被りながら叫んだ。
「マッカーシーは本当に卑劣な奴よ!気をつけてね!!
じゃ、生きていたら会いましょう!」


呆気に取られたとは正にこのことだ。
人の生死をあっけらかんと忠告できるとは・・・・・・。




「生きて還るさ」
僕はリンカーン記念館の白亜の神殿に向かって一歩一歩力強く歩を進めた。


「キンケイドォ!ケッチャーム!」
夕暮れ迫るキーンと冴えた建物内に声が響き渡った。

・・・・・・何の返答もない。



「随分、もったいぶって待たせるんですね。トール・フジエダ」
背後からの甲高い男の声に驚き後ろを振り返った。


40代前半と思しきその男は、ダークスーツを身に纏い、神経質なまでに整髪料で撫で付けられた赤味がかった栗色の髪を幾度も忙しなく掻き揚げた。


「トール・フジエダ。ご高名は何度か。直接こうしてお目に掛かるのは初めてですが・・・・・・。
初めまして。私は、グレアム・マッカーシーと申します」


慇懃な挨拶をした後、マッカーシーは握手を求めてきた。
僕がその手を無視すると、彼は引っ込めたその手で鼻の上に乗せた銀縁メガネを少し持ち上げながら、その奥に潜む冷酷な目で僕を凝視し、冷笑した。



「あなたの大切なお友達は車の中でお休み頂いていますから、ご安心を。
まぁ・・・・・・そのままあの世までお休み頂くか、仲良く手を繋いでお帰り頂くかはあなた次第ですがね」



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タンデム in WASHINGTON,DC

2006年01月05日 20時46分24秒 | 第10章 恋愛分岐編
「兄がガソリン、ごめんなさいって!」
彼女は大きな声で何かを叫んだようだったけど、バイクの音と、川から吹きつけるビュービューと言う風の音に掻き消されて、よく聞き取れなかった。

「え!!何?!」
「だーかーらー、ごめんって!!」

どうやら、謝っているらしい。
ガソリンの事だろうかと推察して、「いいよ」と適当に答えた。



彼女がコーナーで車体を傾けるタイミングに合わせて僕も重心を移動させた。

「上手ね!乗ったことあるの?」
彼女はまた何か叫んでいるようだった。

「ごめん!良く聞こえない!!」
彼女の腹筋が微かに動く。
どうやら笑っているらしい。

「トールって、とびっきりクールボーイね」
・・・・・・ボーイって言うのだけは、聞こえた。


僕はちょっとむっとして、彼女に抗議した。
「NOT A BOY! BUT A GUY!」
彼女は再び笑った。


彼女の髪からは微かにいい匂いがした。
ハルナも以前、香水をつけていた時があったっけ。
でも、ハルナの香りとは違う・・・・・・。

大人の女性に・・・・・・、この女性に良く似合う香りが微かだけど風を縫って鼻腔を掠める。


「リンカーン記念館よ!」


パルテノン神殿のような白く美しいリンカーン記念館が、僕を待ち受けるかのように厳粛にその姿を木々の合間から表していった。






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美しい女性

2006年01月04日 17時50分06秒 | 第10章 恋愛分岐編
医療器具の入ったカバンを掴んで車外へ出ようとした時、携帯が鳴った。

「すまねぇ。トール。奴らに捕まっちまった。今、リンカーン・・・」
キンケイドが言い終わらないうちに電源が落ちてしまった。

「キンケイド!キンケイド、どうした!!」
僕は彼らを救うと言いながら、それを遂行できなかった。
「・・・・・・ジーザス!」
血の気が引く思いと共にシートに携帯を投げつけると、突然重くなった体をどさりとシートに沈めた。


だが、キンケイドが電話できた状況を考えると、彼らはリンカーン像の前で僕が現れるのを待っているに違いない。
一刻も彼らを救出に向かわなくては。

カバンを小脇に抱え直し、ドアを開けると記念館目指して走り出そうとした。

「トール・フジエダ!待って!!」

背後から僕の名前を呼ぶ女性の声とバイクの爆音に驚き振り向くと、大型バイクに跨り、真っ赤なライダースーツに身を包んだ女性がヘルメットを脱ごうとしているところだった。

脱いだヘルメットの中からは煌く金髪がポトマック川からの風を含みながらふわりと豊かに広がり、彼女の顔にまとわりついた。

「あなたがトールね。兄から聞いてバイクを飛ばして来たの。
説明は後!とにかく乗って!」

息を呑むようなその若く美しい女性は、金髪の長い髪を手早く三つ編みにすると、僕に後ろに乗るように促し、自分がさっきまで被っていたヘルメットを僕に被せた。

「君が危ない。僕はいいから被って下さい」
「大丈夫よ。私、腕は良いから・・・・・・。それにあなた医者なんでしょ」
僕が軽く頷くと、
「OK! じゃ、何かあったら宜しく!」と十字を切った。

「しっかり掴まってね」
僕は医療カバンを彼女と僕の間に置くとそっと彼女の脇に手を添えた。

「そんなんじゃ、振り落とされるわよ!しっかり、ここに手を回して!!」
彼女は僕の両腕をがっちり掴むと自分のウエストに回した。

見た目以上に華奢でくびれた彼女の腰に僕は少し動揺しながら手を回した(ごめん。ハルナ・・・・・・)。



「いい!?飛ばすわよ!!」
彼女の号令と共にバイクはけたたましい爆音を立てながら、風を裂き、凄まじい勢いで街路樹を北側へと吹き飛ばして駆け抜けて行った。



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アメリカ医療の愁い

2006年01月04日 11時19分05秒 | 第10章 恋愛分岐編
キンケイド達の身を案じつつ、来た道を南下した。
車は不安材料を抱えつつも快適に街路樹を駆け抜けていった。




1990年代、アメリカの病院はひとつの間違いを犯した。
当時、慢性的に不足している看護婦の数を埋めるべく、各病院は挙って無資格の看護援助者の採用を進めた。

当初は、人手不足の解消のための採用と言った意味合いが濃かったのだが、看護婦よりもとても安い彼らの雇用賃金は雇用する側、即ち病院側にとっては魅力的だった。

そこにC&H社は目を付けた。
地獄からの冷血なコストカッター(COLD&HELL社と世間からの揶揄)の異名を取るC&H社CEO(最高経営責任者)グレアム・マッカーシーは無資格者の採用に力を入れ、正規看護婦の露骨な肩叩きを始めた。

その反対派の急先鋒となっていたのが、今は退職した当時の婦長達だった。
無資格者による数々の医療ミスとサービスの低下を憂えた彼女達は、ストライキを立案し、組合の結成を呼びかけた。
そうした彼女達の動きを察知したマッカーシーはある時は、懐柔策を持ち出し、それでも頑なに受け付けない者には、マフィアもここまではやるまいと言うような制裁を加えていったと言う。

アメリカの大規模な病院では医者が出資者となることを許容していたため、多くの医者が競うようにC&H社への出資を行い、利益を手にしていた。

一番の犠牲者は何も知らずに最低の医療行為に、従来よりも高い治療費を払っている患者自身だった。

そのC&H社の魔手が、我が社・・・・・・AMH社へと伸び、その巨大な病巣へと引き摺り込もうとしている・・・・・・。


「そんなことさせない!」
僕は勢いアクセルを踏んだ。

・・・・・・しかし、車はプスンプスンと音を立てて止った。

「・・・・・・っ、くっそぉ!」
僕は慌てて車から降りてトマス・ハザウェイの言った個所を蹴ろうとハンドルから手を放し、視線を車の扉に移した。
その時、ふとある計器に目が止り、がっくりと肩を落とした。

「・・・ガソリン、入れといて下さいよ・・・・・・。ハザウェイさん・・・・・・」



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運任せ

2006年01月04日 02時51分29秒 | 第10章 恋愛分岐編
車から降りるとポトマック川を左に臨みながら徒歩で北を目指した。
コートのポケットから携帯電話を取り出し、会社宛てにプッシュしようとした。
と、同時に携帯が揺れた。

「例の女性達!押さえました」
ハインツは興奮した声で電話口で叫んでいた。

「驚きましたよ!彼女達・・・・・・」
その時、携帯は電源が今にも切れそうな警告音を発し始めた。

僕は彼の言葉を遮って、急いで用件を述べなくてはならなかった。
「貰った電話ですまない。直ぐに医療器具を調達したいんだけど」
「医療器具ですか?」
「うん。出来れば小さな診療所とかで手配して貰いたいんだ。
今、ポトマック川沿いを北上していて、モール付近まで来てるはずなんだけど・・・・・・」

ハインツは目の前のパソコンで急いで検索したのか、数十秒で答えを弾き出した。
そして、その診療所の医者はハインツと大学時代からの親友とのことで必要な器具は全て揃えておいてくれるようお願いするとのことだった。

僕はハインツに礼を述べると共に、連邦労働法に詳しい弁護士とのコンタクトを指示し電話を切った。


これからは時間との戦いになる。

冬の到来を告げるポトマック川から吹き上げる風を肌に受けながら、僕は強くコートの襟を握り締めて足早に診療所を目指した。




「途方も無く歩く街ですよ」
それはハインツの言った通りだった。
僕は途中でヒッチハイクをしながら、診療所を目指さなくてはならないことに気が付き、50代くらいの男性が運転する車を止めて同乗させて貰った。
紹介されたトマス・ハザウェイが開く診療所はモールを更に北上しなくてはならなかったため、目的地を変更してくれた彼に詫び、車で送ってもらった。

診療所は、街角の一角に自然と溶け込んでいて、一見すると見落としそうな位小さな佇まいだった。

キンケイド達と別れてから時間が随分経ってしまっていたことに焦りを覚えたが、トマスは僕が必要と指示した医療器具と車を用意してくれていたために、少しだけ時間を短縮できたことを心から感謝した。

「C&H社のやり方が、オレは前々から気に入らなかったんだ」

30代の穏やかな目をしたその紳士はその容貌に似つかわしくない位、辛辣な言葉でC&H社を批判した。

「奴らに一泡吹かせてくれ!」
そう言うと、ウィンクして親指を立て、
「この車、ぽんこつだから止ったらこの部分を蹴り上げてみて」
と、車を蹴り上げて笑った。

・・・・・・出来ることなら止らない車を貸して欲しかったけど、彼に礼を言い、運を天に任せる気持ちで車に飛び乗った。



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追っ手

2005年12月31日 15時15分10秒 | 第10章 恋愛分岐編
ケッチャムは運転席に座ると車を急発進させた。
僕とケッチャムは後部座席に乗り込み、追っ手に向け発砲し続けた。

やがて、門を通り抜け、木々に囲まれた道路へと車は滑り出た。

おかしい・・・・・・
何かがおかしい・・・・・・
・・・・・・まさか!

僕達は泳がされているのではないか。
そういった疑念が湧いてきた。

そう考えれば辻褄が合う。

「ケッチャム!服を脱いで!!」
僕がケッチャムの服を脱がそうとすると、
「おいおい。どうしたんだよ、トール。宗旨替えかぁ?」
追っ手を撒いて、安心したのかキンケイドは煙草に点けながらニヤニヤ笑って冷やかし始めた。

僕は、彼の言葉を無視して、丹念にケッチャムの体を調べた。
僕が、彼の肩の後ろに赤く鬱血した後を見つけ、
「ケッチャム、この痕は?」
と尋ねた。

「あ?何の痕だぁ?」
「これか!」
「おーい。一体、どうしたんだよ。トール?」
キンケイドがミラー越しに僕に話し掛けてきた。
「多分だけど、彼らはケッチャムの肩にマイクロチップを植え込んでいる可能性がある。
これで奴らはケッチャムの位置を正確に把握することが出来ているんだ」

キンケイドとケッチャムの顔色がさっと変わった。
「どうするよ?」
「・・・・・・市街地に出たら僕を下ろして。医療器具を調達してくる」
「その間、俺達は?」
「場所の特定を出来ないように数分おきに車を移動させて」
「どこで落ち合うんだ?」
「リンカーン記念館の像の前で」
彼らの顔に緊張の色が浮かんだ。

「大丈夫、必ず僕が助ける」
僕は彼らに話し掛けながら自分に言い聞かせていた。




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救出作戦

2005年12月26日 22時45分47秒 | 第10章 恋愛分岐編
白い建物の中は入り組んだ迷路のようになっていた。
内部の構造に詳しいケッチャムの誘導で僕達は駐車場を目指した。

僕達が認識しているだけでも警備員は6名はいたはずだ。

キンケイドは、アタッシュケースの書類の下から銃を2丁を取り出すと、
「あ~あ。結局、プランBの『強行突破』かぁ」
と、皮肉を込めて笑いながらケッチャムに銃を手渡し、自らも銃を構えた。

僕達はケッチャムを挟むようにして駐車場を目指した。

僕が殿でケッチャムを援護しながら退路を確保した。

銃弾が飛び交う中、その正確な射撃に僕はジョージのような熟練したプロであることを感じ取った。

「キンケイド、彼らは単なる警備員じゃない。プロだ」
キンケイドもそれは感じ取っていたようだ。
だけど、おかしい。
本気で僕達を狙っているようには思えない。


「っつぅか・・・・・・ケッチャム!お前さ、こんな奴らに追われるなんて一体何をしでかしたんだよ」
キンケイドは銃で応戦しながらケッチャムに大声で問い掛けた。

「いや、単に二重帳簿とか、マネーロンダリングとか、連邦政府への妨害工作とか・・・・・・お前に渡したヤツに入ってるよ」
「え?!オレ、知らねーぞ!!」

キンケイドは上から撃ってくる連中を一掃しようと陰に隠れマガジンを装填した。

「やったよ。マイクロチップ、渡したろ?」
「え?!あれがそーだったの?」
「AMH社の社長に渡してって言って渡したやつがそうだよ。
渡してくれたのか?」
「渡したよ。なぁ、トール」
「ケッチャム、だから僕はここに来たんだよ」
ケッチャムは改めて僕のほうを向くと口をアングリとさせた。

「あ、あんたが社長!?どう見ても高校生じゃないか!」
ケッチャムは僕を一瞥すると目を丸くさせながら後ずさりした。
「そうだね。高校生だったよ。ここに来るまではね・・・・・・」



駐車場の近くまで来ると、僕達が乗ってきた車が見えた。
「よし!行くぞ!」
キンケイドが走り出した。

「待って!・・・・・・ダメだ!」
僕は彼に待ったを掛けた。
「何か、変だ。ここまで来て追っ手らしい追っ手に出会わないのもおかしいと思わないか?車に何か仕掛けをしているかもしれない・・・・・・」
「じゃぁ、徒歩で逃げろってぇのか?」
キンケイドは苛つきながら僕を睨みつけた。

僕はさっきの男の懐から失敬した鍵の束を取り出した。


その中から、車のキーを探し出し、開錠キーを押した。


駐車場の右手奥から車のライトがパッシングするのが見えた。
僕達は急いで、パッシングのする方向に走り、車に急いで乗り込んだ。



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