フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

稀代の病

2006年01月31日 23時39分47秒 | 第12章 逡巡編
とにかくオレは猛烈に勉学に打ち込んだ。
大学受験ですらこんなに頑張ったことはなかった。

朝は、コーヒーで気合を入れ、夜はカップラーメンを啜っては腹を満たした。
そんな生活が1ヶ月以上続いただろうか。
ある日、オレの体は変調を来たした。

大学受験生の試験官のバイトをしていた時、急に目の前が真っ暗になり足がガクンと折れた。
それからゆっくりと真っ暗な暗闇が広がり、周囲の叫び声を遠くに聞きながらオレは意識を失った。

目を覚ますと矢部教授と試験官をしていたはずのゼミ生総勢17人がオレのベッドの周りを取り囲んでいた。

「・・・・・・オレ、一体どうしたんですか?」
「現代稀なる奇病に罹ったんじゃよ」

矢部教授は深刻な顔で点滴の残量を確認していた。
ハルナとアカンボがいるのに冗談じゃない!

「オレの病名は!?」
「イマドキこんな病気に罹るヤツなんていないよなぁ」
「ありえないでしょう。ある意味、尊敬に値するよ」
ゼミ生の奴ら人の体だと思って・・・好き放題言ってやがる。

起き上がろうとして、右腕を見てぎょっとした。
「なんだぁ!?この腫れ上がった腕は??」
ゼミの4回生の先輩が申し訳なさそうに項垂れて「あ、ごめ~ん。採血に失敗して、パンクしちゃった」と謝罪した。
「・・・・・・オレの腕で練習しないで下さい・・・・・・。で!病名は!?」

「・・・・・・栄養失調だとよ」
K大の理工学部に進んでいた高校時代の悪友北尾がオレのベッドに弁当を投げながら「ほれ!食え!!」と言った。

「何でお前ここにいんの!?」
「隣りの教室で試験官のバイトをしてたんだよ。
で、オレもこのヒト達と一緒にお前を担いだのよ」

北尾は担架を指差すと、周りのゼミ生を見回した。

「みんな・・・・・・、迷惑掛けてすみません」
オレはみんなの優しさに目頭が熱くなった。
「いや~、僕達もいい勉強になったよ。また、是非診させてくれよなぁ」
「・・・・・・それは嫌ッス」

矢部教授もニヤニヤ笑って、「ちゃんと栄養のあるものを食べるように」とオレに忠告した。

そして、
「今回の診療代は、この間壊したプロジェクタ代と一緒に出世払いにツケとくからねぇ」
と、怪しげなメモ帳に書き込んだ。



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ラブパワー

2006年01月31日 19時29分23秒 | 第12章 逡巡編
オレはハルナがプロポーズを受けてくれたことで浮き足立っていた。
嬉しくて毎日がスキップをしているようだった。
大学に行って矢部教授に「発情期だのぅ」とからかわれても、「そうなんですよ!」と上機嫌で切り替えし、気味悪がられていた。

大学での勉強もアカンボとハルナのことを思えば、目標とか生き甲斐とかそんなもんが出来て、自然と力が入った。

そんなオレがいつものように矢部教授が大教室で使うプロジェクターを慎重に運んでいた時のことだった。
「重いでしょ?手伝おうか?」
リョーコがその前に立っていた。

同じ大学の学部に通っていながら、オレ達は大学で会うことがあまりなかったから、声を掛けられた時は少し驚いた。

「おー!?リョーコ、珍しいな。大学で会うなんてな」
「そりゃ、そうよ。会うの避けてたもん」

彼女は殊更大きな声でおどけてみせると、オレの早足に合わせ大股で歩き、向かい風に絡む前髪を笑いながら掻き揚げた。

何で避ける必要があるんだよ、と言い掛けて止めた。

こいつが玉砕覚悟でオレにアタックしたことを思い出すと、聞いちゃいけないヤバ目な質問であることが推察された。

「ハルナちゃんに会ったわよ」
「え?!いつ」
「先週・・・・・・雪が降った日の前日だった、かな?」
「なんか話したのか?」
「別に。・・・・・・気になる?」
「・・・・・・別に」
「話したわよ。私があなたにコクってフラレタこととか・・・・・・」

お前なぁ~、余計なこと言うなよ・・・・・・と、言い掛けて止めた。

過去の経験上、女に喧嘩を吹っ掛けて口論で勝ったためしがない。
自分の立場を正当化する女達の口頭戦術はそりゃアッパレとしか言いようがない。
オレは女とのバトルの日々(注記:含むオフクロ)から、「沈黙こそ最大の防御なり」と言う誠に貴重な経験を得たものだった。

「そうか。じゃっ!オレ急ぐから」

オレはこれ以上厄介事を抱え込むのは真っ平だとばかりに、歩を速めた。

「来週には出るから!あのマンション!!」

リョーコの思いも掛けない言葉に驚いたオレは、振り向いた瞬間、段差に躓き、プロジェクターを落としていた。

「あ~あ。粉々に壊しちゃったね~。このプロジェクタ、100万円は下らないわよぉ~。
私が声掛けちゃったから悪いんだけどね。私の弁済分はかずぼんからの『馬の鼻向け』ってことで、宜しくね。
ま、ラブラブパワーで頑張って教授に弁償してね♪」
・・・・・・彼女の微笑が悪魔に見えた。

この言葉を最後にリョーコはにこやかに部屋を退去した。

やっぱ、女はこぇーわ。



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