ふたりのきもち(後編)

2009年09月21日 17時34分00秒 | B地点 おむ

 

 

(承前 ―― 前編から先にご覧ください)


……それでも、一つ、考え付いた。

大げさにせず、何も言わずに、さりげなく席を譲ろう。
そうすれば、先生も座ってくれるかも。
おむさんは一縷の望みをそこに託して、
黙ってリュックから降りた。
おかか先生はもちろん、
それに気付いた。
だが、つい、そっぽを向いてしまった。
おむさんの気持は手に取るように解る。

しかし、だからこそ、かえって意地を張ってしまうのだ。
おむさんは、リュックの脇で、先生を待った。
だが、先生は、水を飲みに行ってしまった。
いつまで経っても、先生は戻って来ない。
先生も、なんとなく帰りづらいのだ。
おむさんは、がっかりした。
そして、とうとう、あきらめた。
またリュックに乗ることにした。
もう何も考えたくない。
静かに休もう……。
―― だしぬけに、先生が来た。

おむさんは、思わず目を逸らしてしまった。
先生も、おむさんの方を見ようとしない。
そっぽを向いたまま、先生は立ち止まった。
そして、近くまで来た。

けれど二人とも、目を合わせることができない。
おかか先生は何も言わず、おむさんの横に座った。

二人とも、ちょっと気まずかった。

けれど同時に、二人とも、ほっとした。

―― きっと、これでよかったのだ。



翌日は、二人とも素直になりましたとさ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ふたりのきもち(前編)

2009年09月21日 17時02分00秒 | B地点 おむ

 

 

いつものように、
おむさんがリュックに乗る。
くつろぎの時間だ。
が、ふと横を向いたら、
おかか先生と目が合った。
先生は、何も言わない。
おむさんも、何も言えなかった。
―― 先生は、無関心を装っているけれど、
心の底には、リュックに乗りたいという気持があるのだ。
しかし同時に、リュックなどに乗るのはプライドに関わる、という思いもある。

つまり葛藤だ。
おむさんに座らせてやりたいという思い遣りも、遠慮も、もちろんある。

おむさんには、そんな先生の気持がよく解っている。

解っているけれど、うまく対応できない。
おむさんだって、先生に座らせてあげたい。
だが、もし先生に席を譲ったら、どうなるだろう?
先生は、自尊心を傷付けられて、怒るかもしれない。
そう考えると、席を譲るのも難しい。
それに、おむさんは、
やはり、このリュックが好きだ。
独占したい。

それはそれで、一つの本音なのだ。
そもそも、こんなことで悩みたくない。
こんなことで、先生との距離が開いてしまうなんて。
先生と気持が離れてしまうのはイヤだ。
先生の心が遠くに行ってしまうのは、イヤだ。
おむさんは、困ってしまった。

ひどく気疲れしてしまった。


つづく