『 れんげ草の記憶 』 ~ 第一話 わたくしのおにいさま ~
歴史ある城下町にある老舗呉服店「よねや」の京香は、両親が結婚10年目にして授かったかけがえのないひとり娘。足袋の町として栄える行田には多くの足袋問屋があり、その中でも一番の大店である「おいかわ」の跡取りである光博とは幼なじみだ。5つ年上の優しい光博のことを「みつにいさま」と呼んで慕っていた幼い日の京香を、男兄弟だけの光博も妹のように愛おしく感じていた。足袋工場裏の空き地で夢中でれんげ草を摘んで遊んでいる京香に、一輪の花で指輪を作ってそっとその小さな指にはめる光博。そんな微笑ましい姿を見た双方の両親は、家柄も釣り合っているふたりを幼い頃から許嫁として考え、あたたかいまなざしで見守っていた。
瞬く間に年月は経ち、光博23歳京香18歳の春。何ごともなければふたりは夫婦になっている年頃…が、未熟児で生まれた京香は通常の学校に通うのがやっとの状態で、大店の奥さまとしてやっていけるとは思えず、いつしか許嫁の約束は双方の親の相談の末に反故となっていた。東京の大学を終えて故郷に戻った光博は、海外貿易を学ぶための留学をひかえ忙しい日々を送っていたが、そこにあらためて縁談の話が持ち上がっていた。
白羽の矢がたったのは、代々医業を営む地元の名士である医者の娘の秋穂。ドイツへの留学の経験もあり英語やドイツ語が堪能な秋穂は、これから大店を発展させていく定めを背負った光博にはまたとない相手だった。裕福な家庭でのびのびと育った秋穂は、その美貌を鼻にかけることも無く心根も優しい女性で、光博もこの縁談を断る理由などどこにも無かった。ただ気になるのは幼い頃から身近にいた京香のこと。同い年の京香と秋穂は友達であり、いつも秋穂はからかわれている京香をかばう役割りだっただけに、余計にこの状況を理解させるには忍びない…。(つづく)
*この物語はフィクションであり人物名や店名はすべて架空のものです。
歴史ある城下町にある老舗呉服店「よねや」の京香は、両親が結婚10年目にして授かったかけがえのないひとり娘。足袋の町として栄える行田には多くの足袋問屋があり、その中でも一番の大店である「おいかわ」の跡取りである光博とは幼なじみだ。5つ年上の優しい光博のことを「みつにいさま」と呼んで慕っていた幼い日の京香を、男兄弟だけの光博も妹のように愛おしく感じていた。足袋工場裏の空き地で夢中でれんげ草を摘んで遊んでいる京香に、一輪の花で指輪を作ってそっとその小さな指にはめる光博。そんな微笑ましい姿を見た双方の両親は、家柄も釣り合っているふたりを幼い頃から許嫁として考え、あたたかいまなざしで見守っていた。
瞬く間に年月は経ち、光博23歳京香18歳の春。何ごともなければふたりは夫婦になっている年頃…が、未熟児で生まれた京香は通常の学校に通うのがやっとの状態で、大店の奥さまとしてやっていけるとは思えず、いつしか許嫁の約束は双方の親の相談の末に反故となっていた。東京の大学を終えて故郷に戻った光博は、海外貿易を学ぶための留学をひかえ忙しい日々を送っていたが、そこにあらためて縁談の話が持ち上がっていた。
白羽の矢がたったのは、代々医業を営む地元の名士である医者の娘の秋穂。ドイツへの留学の経験もあり英語やドイツ語が堪能な秋穂は、これから大店を発展させていく定めを背負った光博にはまたとない相手だった。裕福な家庭でのびのびと育った秋穂は、その美貌を鼻にかけることも無く心根も優しい女性で、光博もこの縁談を断る理由などどこにも無かった。ただ気になるのは幼い頃から身近にいた京香のこと。同い年の京香と秋穂は友達であり、いつも秋穂はからかわれている京香をかばう役割りだっただけに、余計にこの状況を理解させるには忍びない…。(つづく)
*この物語はフィクションであり人物名や店名はすべて架空のものです。