花散らしの冷たい雨が降り、大好きな桜の季節も終わりをむかえている。花の盛りの頃、仕事の行き帰りに病院構内の桜並木に携帯のカメラを向けていると、いつも誰かしら患者さんから声をかけられた。
「綺麗ですね~。いいわねぇ、この時期は。そうか、携帯で写してるのね。私も撮っておこうかしら?」
「すごく綺麗だし、せっかくだから桜と一緒にお写真お撮りしましょうか?」
そんな会話が多かった。
院内の大きな窓からは、陽光を浴びてキラキラ輝く紅枝垂れの姿が正面に見えている。病棟から外来の診察に下りてきた入院患者の車椅子のおじいさんが、それを静かに眺めている。その後姿は、いろいろなことを背負っているようで、少し切ない気持ちになる。病気を抱えた人にとって、今年の桜が見られるというのは、大きな意味があることだろう。この冬、顔見知りだったお年寄りの患者さんが何人も亡くなった。いつも穏やかで和ませてくれたおじいちゃんも、花を見る前に逝ってしまった。ガンであるけれど、外来受診のたびに私たちと軽やかに話をしていった明るいおばさんの死も、
「長い間お世話になりましたが、年明けに逝きました。いままでお世話になりました」
と娘さんが伝えに来て知った。
「来年も桜が見られる」と当然のことのように思えるのは、病を抱えていない健康な人だ。幸せなことだが、本当に見られるかは、実は誰にもわからない。「終(つい)の桜」がいつになるかわからないのだから、その年その年の桜を、精一杯心にとどめたいと思う。人の命のかけがえのなさというものをより強く感じる職場にいて、そんなことを考えた。桜はその懸命さと儚さゆえに、人の心に深く響く。今日の日めくりカレンダーの、こんな言葉が目にとまった。
「 生 死 事 大 」 -今を大切に-
~ 花筵 風が遊んでゆきにけり ~ 黛まどか



「綺麗ですね~。いいわねぇ、この時期は。そうか、携帯で写してるのね。私も撮っておこうかしら?」
「すごく綺麗だし、せっかくだから桜と一緒にお写真お撮りしましょうか?」
そんな会話が多かった。
院内の大きな窓からは、陽光を浴びてキラキラ輝く紅枝垂れの姿が正面に見えている。病棟から外来の診察に下りてきた入院患者の車椅子のおじいさんが、それを静かに眺めている。その後姿は、いろいろなことを背負っているようで、少し切ない気持ちになる。病気を抱えた人にとって、今年の桜が見られるというのは、大きな意味があることだろう。この冬、顔見知りだったお年寄りの患者さんが何人も亡くなった。いつも穏やかで和ませてくれたおじいちゃんも、花を見る前に逝ってしまった。ガンであるけれど、外来受診のたびに私たちと軽やかに話をしていった明るいおばさんの死も、
「長い間お世話になりましたが、年明けに逝きました。いままでお世話になりました」
と娘さんが伝えに来て知った。
「来年も桜が見られる」と当然のことのように思えるのは、病を抱えていない健康な人だ。幸せなことだが、本当に見られるかは、実は誰にもわからない。「終(つい)の桜」がいつになるかわからないのだから、その年その年の桜を、精一杯心にとどめたいと思う。人の命のかけがえのなさというものをより強く感じる職場にいて、そんなことを考えた。桜はその懸命さと儚さゆえに、人の心に深く響く。今日の日めくりカレンダーの、こんな言葉が目にとまった。
「 生 死 事 大 」 -今を大切に-
~ 花筵 風が遊んでゆきにけり ~ 黛まどか


