時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ロシアでも不法移民締め出し

2007年02月23日 | 移民政策を追って

  ロシアにおける移民・外国人労働者の実態については、これまであまり知られていない。本年1月末、ロシア政府は突然移民法を改正し、外国人労働者への規制に踏み切った。

  政府は改正移民法によって、ロシア国内で働く不法就労外国人労働者の就労禁止、彼らの市場からの排除、就労実態の把握、そして現在国内に滞在する不法就労者については、簡易な手続きで合法就労に移れるとしている。しかし、4月1日までに、ロシアの小売市場の外国人を、最大限40%に制限するなどの厳しい措置が含まれている。

  規制の対象は主としてコーカサス、中央アジアの旧ソヴィエット諸国、中国などからの出稼ぎ労働者である。規制は即時に実施され、これまで市場を牛耳っていたタジキスタン人、中国人などが市場から追い出されている。
  
  ロシアは目覚しい経済発展をとげているが、社会の経済格差も拡大している。こうした外国人が経営する店は商品が安く、そうした市場に頼る人々も多い。外国人労働者の賃金も安い。

  他方、増加する外国人への反発も高まっている。多くの死傷者が出た2006年8月のモスクワの市場での爆破事件は、そのひとつの動きである。不法就労の外国人との軋轢も増加してる。ロシアの外国人労働者は1200万人を超えており、不法就労者はそのうち800-1000万人と大多数を占めるといわれる。彼らは建設現場やレストランなどで働いている。今年は旧ソヴィエット諸国からの出稼ぎ労働者受け入れ許可は最大でも600万人といわれており、閉め出される外国人の数も大きい。

  ロシア国内では、エスニック・ナショナリズムともいえる動きが急速に高まっている。民族主義の台頭に伴って、外国人がロシアの富を奪っているとの不満が強い。プーチン大統領は、スラヴ・ロシア人の保護を公言している。今回の措置も表向きはロシアの農民が生産する農産物価格の改善に寄与することが目的といわれてはいるが、実際は非スラヴ系の外国人を追い出すことにあるらしい。

  改正法では3日以内に手続きすれば労働許可を与えるとしているが、不法滞在者の間には疑念がある。今回の措置では、ロシアで合法労働が認められるためには一度国外へ出なければならない。しかし、不法労働者のうち3%しか合法許可は与えられないとの推定がある。出国の際に罰則を受ける可能性もある。移民局などに見つからなければ彼らを雇う使用者は多く、ビジネス機会もある。もし、合法化許可が得られず、国外退去となれば最長5年間は入国禁止となる。ということで、この急な対応措置には多くの不安と混乱があるようだ。

  改正移民法は全ロシアに及ぶため、極東地域などでも混乱が起きている。ウラジオストック、ウスリースクなどでは、ロシア人の経営する市場で、中国人労働者が働いたり、店を開き、商品を持ち込んで販売している。衣料品から日用品までほとんど市場でそろう。建設ラッシュで人手は足りない。ロシア人の人口は年々減少している。ここでも外国人労働者に頼らないとやってゆけなくなっている。ヨーロッパを旅して、かなり移動の自由度は増加したと感じる点もあるが、国境の壁は厚い。

  今回の移民法改正は、抜本的措置には程遠い。プーチン政権の強権発動による一時的な対応である。新たな混乱が生まれ、しばらく続くだろう。 国境はここでも高くなった。

Reference

“Market forces.” The Economist January 20th 2007

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