時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

未来からの移民(2):ロボットが人間を超える日

2014年05月19日 | 特別トピックス

 

ロボットのイメージ:「鉄腕アトム」

 

 

  このところ、海外著名メディアでロボットがかなり話題になっている。「ロボット」という言葉を聞いて思い浮かべるイメージは、人様々だが、日本人は一般に、人間に類似した形状のヒューマノイド・タイプが好みらしい。1950年代初めに登場し、TV放映もされ、世界的に知られた手塚治虫の「鉄腕アトム」(アメリカではアストロ・ボーイの名で放映されてきた)などから、ロボットとはこういうものだとのイメージが生まれたようだ。その後、1970年代の「マジンガーZ」などが登場、実際のロボットとしては、アシモ(Asimo)やあざらしの子供のようなパロ(Paro)などに結実してきた。

 他方、この二足歩行型の人型ロボットあるいは動物型には、西欧諸国ではイメージが人間に近すぎると好まない人もいる。「フランケンシュタイン」や「ターミネーター」のように、いつか人間に反逆するようなイメージも影響しているともいわれる。日本人はロボットと人間との距離、境界の認識が不分明で、どこまでをロボットとみなすか、曖昧になっているといわれる。ロボットにかなり親近感のようなものも感じるようだ。日本ではほとんど抵抗なく受け入れられ、増殖?している「ゆるキャラ」なる奇妙な存在も、違和感があるということを聞いたことがある。そういわれてみると、ボールパーク(野球場)やサッカースタディアムにも、ディズニータイプの動物型ぬいぐるみやチアーガールズは登場しているが、一見すると由来のよく分からない「ゆるキャラ」型は、あまり見た記憶がない。

 しかし、西欧においても、総じて近未来のロボットは人間に似た、二足歩行型タイプが主流になると考えられている。多機能型には、ヒューマノイド型の方が向いているのだろうか。
 

 最近、ヒット商品として話題になっているルンバ Roomba もこれから展開するロボット革命のほんの初期段階とされている。ルンバも性能が急速に改善されて、日本でも競争製品が市場にでているほどだが、形状はシンプルな円盤型だ。そのため、これをロボットと思わない人たちも多い。しかし、製品開発にこめられた思想は、明らかにロボットによる家事労働の代替だ。室内の清掃という家事労働の中心的部分に向けられている。あらかじめ設定しておけば、住人が仕事などで外出している間に、一生懸命に働いてくれる。人間のように、一息入れたり、さぼったり?することなく、エネルギーがあるかぎり、きまじめすぎるほど働いてくれるようだ。家事でも、洗濯や料理などについては、すでに機械による代替がかなり進んでいるから、残った領域でかなり手間のかかる掃除という仕事を、機械で代替しようと開発者たちが考えたのは、きわめて自然だった。

 近未来には、洗濯、清掃、料理、自宅にいる高齢者や病人や来客への対応(宅配便受け取り、番犬?など)など、家事全般をまとめてやってくれる一体型のロボットが出現する可能性は十分あるようだ。怪しい者が近づくと、吠えたり、記録をとるロボット・ドッグはすでに実用化されている。こちらは抵抗がないのか、最初から犬のイメージが採用されている。

 ロボットの可能性は、かぎりなく多様だが、これまでの開発目的のひとつは省力化にあった。とりわけ、バブル期に日本で使われ、世界に広まった「3K労働」(汚い、きつい、危険な仕事、英語では3D)といわれる領域に多い、単調、反復労働などを代替するロボットが開発され、実用化した。比較的、低い熟練度の仕事が対象となるが、福島原発の廃炉作業のように、ロボットなしには実施できない。文字通り危険な仕事を、ロボットに託することになる。

 近未来に最も数が増加するのは、中程度のスキルを持って、かなりの難度の仕事をこなすロボットが主流になりそうだ。この領域のロボットは、恐らく人間を上回る安定したスキルと正確な実務能力を持ち、人間の仕事を脅かすだろう。大量生産が進むと、ロボットのコストダウンも進み、競争力を持つと思われる。人間のブルーカラー。ホワイトカラーの仕事はかなり省力化される。当然ロボットによる工程などの操業管理、プログラミングなども行われるようになり、技術者の仕事に近接する。ロボットがもたらす仕事の質の変化は大きい。

 遺伝子工学の発達で、クローンの誕生も起こりうる。他方、人工頭脳の急速な進歩で、人間とロボットの関係はきわめて微妙なものになる。今日すでにロボット工学としては試みられている、制作者にかぎりなく外見を近づけたロボットを見ると、肌寒くなる。恐らく家族や友人でも外見からは区別がしがたいほど似ている。皆さんは、自分と外面は寸分違わないロボットが、町を歩いていたら、どんな反応をしますか。近未来に生きる若い世代は、真に人間しかできない、人間らしい仕事のスキル修得を目指す必要がある。教育のあり方にも関わる重大事だ。それはいったいどんな仕事? それこそ、人間が考えねばならない。



* 東京丸善本店に、「手塚治虫書店」の名で、この世界的に大きな影響を与えた作家の全作品を集めたコーナーが4月に開店した。


Referencs
「ロボットと人間の未来」Newsweek, April 29-May 6, 2014
"Rise of the Robots" The Economist March 29th-April 4th, 2014


 

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