「長い旅路でしたね! お疲れさまでした」と言いたい美術展に出会うことになった。『黄金のアフガニスタン」と題する特別展(九州国立博物館開館10周年記念特別展、2月14日まで)である*。
実は、ほとんど10年近く遡る2006年6月から07年4月まで、パリのギメ東洋美術館で開催された同一テーマの特別展について、このブログに記したことがあった。その当時、学芸員の人から聞いた話では、2-3年のうちに日本へも巡回しますよとの答だった。ギメの特別展での印象があまりに素晴らしかったので、ぜひもう一度見たいと思っていた。しかし、いつになっても日本へ巡回してくる気配がなかった。その後、分かったのは大変な人気で、多くの国々を巡回し、このたびやっと日本で特別展開催の運びとなったようだ。
9.11の同時多発テロの後、アフガニスタンが戦火に巻き込まれて以来、カブール(Kabul 現地の発音はカーブルに近い)の国立美術館に所蔵されていた貴重な所蔵品の9割近くは、焼失、散逸、窃盗などで失われたといわれていた。その中で同館館員の献身的な努力で、宮殿・中央銀行の地下室深くに密かに移転されていた秘宝があった。それらは25年の間、人の目に触れずにいたが、上述のパリの企画展で初めて公開された。2001年にイスラーム主義タリバンが偶像破壊の名目で2000点を越すといわれた文化財を破壊したことを考えると、こうした展示品が生き残り、目の前にすることができるのは奇跡としかいいようがない。いいかえると、戦争は多くの人命を奪うばかりか、人類が営々と築きあげてきた文明の成果(文化財)を抹消してしまう許しがたい行為なのだ。
博物館員たちの懸命な努力で地下室に隠匿されていたアフガンの名品は、再び人の目に触れられるまでになった。文字通り、東西文明の交差点にあった、この国に残っていた秘蔵品の精髄とも言うべき品々だ。数はないが、見る者の目を奪う素晴らしさだ。ギメ東洋美術館で公開された時の人々の驚嘆を思い起こす。決して多くはないが、息をのむような華麗で優雅な出土品の数々に、声を失い、魅了された。出展された品々は、西暦前2000年から西暦5世紀くらいまでの選り抜かれた名品である。
今回、九州国立博物館での展示品は、カタログで見るかぎり、ギメ展の出品と一部重なるが、同じではないようだ。特記すべきは、アフガニスタンから海外に流出し、日本が保管し、展覧会後にアフガニスタンに返還される作品が出品されることだ。また、特別出品として平山郁夫画伯の紙本彩色も2点展示される。
かつて、東西文明が交差し繁栄をきわめた土地アフガニスタン、その栄華の一端を偲ぶことができ、文字通り目を奪われる展示である。
* 東京国立博物館(4月12日ー6月19日)へ巡回
References
Afganistan: Hidden Treasures from the National Museum, Kabul, edited by Fredrik Hiebert and Pierre Cambon. Washington: National Gallery of Art, 2008
Afghanistan les trésors retrouvés: Collections du musée national d'Afghanistan
Musée des arts asiatiques Guimet, 6 décembre 2006 - 30 avril 2007
追記(2016年1月20日 「ドラゴン人物文ペンダント」『朝日新聞』 九州展紹介
この記事のペンダントは、本ブログのどこかに掲載されています。