緑色の美しいアスパラガスが店頭に並ぶようになった。初夏の味覚として世界的にも需要が増えてきたようだが、日本でもまつたけ、ブロッコリーに次ぐ、輸入量だといわれる。国内(長野や北海道が主産地)だけでは充足できないらしい。
ヨーロッパは一足早く旬の時期になったようだ。特に、ドイツ、オーストリア、オランダ、フランスなどでの需要が多い。日本と違ってホワイトアスパラガスが好まれるので、日光に触れて緑色にならないよう盛り土して栽培し、折らないように掘り起こし、土をきれいに洗い落とし、長さ・太さにあわせて選別・出荷するという全てが手作業の世界である。
フランス国境に近いドイツ・バーデンバーデンの近傍や、旧東独ポツダムの南の通称「アスパラガス街道」では、収穫の際にはまるで葡萄収穫時のワイナリーのように、外国から季節労働者がやって来て採取を行っている。
今年は価格がキロあたりユーロ7-8($9-10)で、すでに例年を上回る高値だが、さらに上昇しそうである。その原因は食材の高級化と農業労働力の不足らしい。
ドイツの補助金
EU加盟とともに、ドイツは28万人近いポーランド人労働者を受け入れる義務が発生した。その多くは、ドイツのアスパラガス採取の季節労働者である。かれらが出稼ぎに行っている間、社会保障給付の受け取り(全収入の4分の1くらい)はポーランドで行われ、出稼ぎは「ドイツでの有給休暇」といわれている。そして、ドイツの農家は(理論上)全賃金額の5分の1相当を、ポーランド人季節労働者の社会保障給付支払いのために負担することになっている。
しかし、本年4月までは、ドイツの農家とポーランド人の労働者は、そうした条件を無視してきた。ポーランドの政府も補助金問題にわずらわされたくなかった。運悪く、ドイツで就労していたポーランド人労働者が労災にあって、対応が難しい問題を提起した。2週間前、ドイツの農家の繁忙期だが、ドイツ厚生社会保障省の役人がワルシャワへ飛んだ。彼はポーランド政府に2004年および今年前半(アスパラガスの季節)の債務は無視してくれるよう頼み込み、ポーランドも譲歩した。
しかし、ポーランドの譲歩は、ベルリンで問題となった。ドイツ経済省はこれがEU法の違反にならないかと恐れた。労働組合指導者は、中・東欧の新加盟国からの労働者流入で苦労していが、このポーランドへの補助金は賃金ダンピングを許し、ドイツ政府がドイツ人労働者から職を奪っている一例だと文句をつけた。
よく働くポーランド労働者
とはいっても、ドイツで働いているポーランド人労働者を、いまや5百万人になるドイツ人失業者の一部で入れ替えることができるだろうか。農場主はそうした提案がなされることを恐れている。アスパラガスを採取する労働は、大変骨の折れる仕事である。ドイツ人の長期失業者は、ほとんど40歳以上である。他方、ポーランド人労働者は3ヶ月の収穫期にだけやってくる。そして農場に住み、熱心で良い労働者とされている。
外国人労働者がここまで定着していると、ドイツ人で入れ替えるには大変な移転コストがかかる。今年発効した新労働改革の下で、仕事を選り好みしたりして「働く意欲の少ない労働者」へのペナルティが厳しくなったとしても、ドイツ人は時間賃率5ユーロの仕事にはつきたがらない。それでも、多くの農家がドイツ人労働者を雇おうと努力した。しかし、結果は無断で休んだり、頼りにならなかった。ドイツ人は、昔の勤勉なイメージを失ってしまったようだ。
ノウハウの大切さ
アスパラガスは新鮮さが命である。したがって収穫の時が大変重要である。白さを保つために日光の当たらない土の中で育てるため、いつ、どこから生えてくるのかわからない。そのため、「土の中の気まぐれなお姫様」ともいわれている。「お姫様」が現れるわずかな手がかりは、畑の土の表面に出来るひび割れである。一日に何度も畑を回り、見つけては一本一本丁寧に掘り起こす腰の痛くなる作業である。
ポーランド人ばかりでなく、ルーマニアとかウクライナからの労働者を雇ってはどうかとの提案もある。確かに、彼らを雇えば、労賃はさらに安く、社会給付の助成負担もない。しかし、残念なことに、ポーランド人の持っているノウハウがない。彼らの多くは何年にもわたって、季節労働者として、この仕事をしてきたので信頼できるのだ。
外国人労働者依存はさらに進む
農家にとっての慰めは、高級食材としてのアスパラガスへの需要が大変高くなっているので、価格が上昇し、キロ10ユーロに達するだろうとみられる。ポーランド人労働者を雇っても十分引き合う。しかし、胡瓜やイチゴなど普通の作物についてはそうはゆかない。値段もそこそこだろう。しかし、ドイツ人が働かないとなれば、これも、ポーランド人労働者に頼って今年の後半に収穫するこtになるだろう。農業、食肉加工、建設など、ドイツ人労働者が働きたくない分野で、外国人労働者による代替が確実に進んでいる。
日本でも、多くの人が気づかない間に、日本人が就労しなくなった分野が増えた。代わって、外国人労働者が働いている。若者を始めとして失業者が多い状況でも、外国人労働者への依存度は着実に高まっている(2005年5月21日記)。
Source: DER SPIEGEL, The Economist May 7th 2005などを参照。