「浜岡原発事故が起きるとすれば複合的なものになる」。中部電力浜岡原発(同県御前崎市)に隣接する山梨県の担当者は、こう前置きしたうえで「南海トラフ巨大地震などが発生すれば太平洋側の自治体のダメージは計り知れない。そうなると山梨県や長野県への避難者があふれるのではないか」と語る。
96万人。静岡県が公表している浜岡県発から31キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)にあたる11市町の人口だ。静岡県は昨年、原発事故を想定した広域避難計画のたたき台を作り、13年度中には計画を策定する予定だ。基本方針では、原発事故単独の場合は県内、原発事故と地震などが複合した場合は県外を避難先にするとしている。
計画では、原発事故による放射性物質の拡散を大きく3パターン想定。拡散する地域は風で一定方向に延びるか、無風ならば狭い範囲で同心円状に広がるとして、静岡県は実際の避難者数は「20万~30万人」(原子力安全対策課)と推測。ただ、どの方面に避難者を向かわせるかなどは具体的に定めておらず、同課担当者は「相当数が県外に行く可能性がある」と語る。
浜岡原発から隣県までの最短距離は、山梨県南部町が約70キロ。愛知県新城市は約55キロ、神奈川県箱根町付近で約100キロなどだ。福島第1原発事故から2年を控えた先月15日。同原発での重大事故を想定し、静岡県が主催し、山梨など隣接4県が参加した合同訓練を行った。対応拠点になるオフサイトセンターの設置訓練のほか、UPZ境界の静岡県藤枝、磐田両市では放射性物質の汚染状況を調べるスクリーニング訓練などを実施。山梨県職員は情報収集や両県間の連絡役を担った。
ただ、山梨を含めて隣県の担当者は避難者への具体的対応については「静岡県の広域避難計画が示されてから考えたい」と待ちの姿勢。連携は緒に就いたばかりだ。
県防災危機管理課は、県内では学校や公民館などで20万人以上の避難者受け入れが可能と説明する。しかし、これは施設面積などから積算した数字だ。今月公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では、県内の避難者も最大8万6000人に達するとされる。同課も「実際に20万人を受け入れることは難しいだろう」と認める。
東日本大震災後の昨年12月に改定された県地域防災計画。浜岡原発を念頭に原子力災害の項目があり、風水害や雪害などと並んで「一般災害編」に含められている。県外避難者については一般災害への対応を準用するとし「受け入れに努める」とするのみ。事故状況や放射性物質への対応などの情報を市民にいつ、どう伝えるかといった課題は現状では手つかずだ。県担当者は「重要なことは認識しているが、可能性の高さからすると、必ずしも原発事故の優先順位は東海地震や富士山噴火などに比べて高くない」と漏らす。
「想定外」の事態が起きることを示した福島第1原発事故。15万人が現在も避難を強いられている未曽有の事故をどう教訓とするか問われている。【水脇友輔】
2013年03月23日 毎日新聞
96万人。静岡県が公表している浜岡県発から31キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)にあたる11市町の人口だ。静岡県は昨年、原発事故を想定した広域避難計画のたたき台を作り、13年度中には計画を策定する予定だ。基本方針では、原発事故単独の場合は県内、原発事故と地震などが複合した場合は県外を避難先にするとしている。
計画では、原発事故による放射性物質の拡散を大きく3パターン想定。拡散する地域は風で一定方向に延びるか、無風ならば狭い範囲で同心円状に広がるとして、静岡県は実際の避難者数は「20万~30万人」(原子力安全対策課)と推測。ただ、どの方面に避難者を向かわせるかなどは具体的に定めておらず、同課担当者は「相当数が県外に行く可能性がある」と語る。
浜岡原発から隣県までの最短距離は、山梨県南部町が約70キロ。愛知県新城市は約55キロ、神奈川県箱根町付近で約100キロなどだ。福島第1原発事故から2年を控えた先月15日。同原発での重大事故を想定し、静岡県が主催し、山梨など隣接4県が参加した合同訓練を行った。対応拠点になるオフサイトセンターの設置訓練のほか、UPZ境界の静岡県藤枝、磐田両市では放射性物質の汚染状況を調べるスクリーニング訓練などを実施。山梨県職員は情報収集や両県間の連絡役を担った。
ただ、山梨を含めて隣県の担当者は避難者への具体的対応については「静岡県の広域避難計画が示されてから考えたい」と待ちの姿勢。連携は緒に就いたばかりだ。
県防災危機管理課は、県内では学校や公民館などで20万人以上の避難者受け入れが可能と説明する。しかし、これは施設面積などから積算した数字だ。今月公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では、県内の避難者も最大8万6000人に達するとされる。同課も「実際に20万人を受け入れることは難しいだろう」と認める。
東日本大震災後の昨年12月に改定された県地域防災計画。浜岡原発を念頭に原子力災害の項目があり、風水害や雪害などと並んで「一般災害編」に含められている。県外避難者については一般災害への対応を準用するとし「受け入れに努める」とするのみ。事故状況や放射性物質への対応などの情報を市民にいつ、どう伝えるかといった課題は現状では手つかずだ。県担当者は「重要なことは認識しているが、可能性の高さからすると、必ずしも原発事故の優先順位は東海地震や富士山噴火などに比べて高くない」と漏らす。
「想定外」の事態が起きることを示した福島第1原発事故。15万人が現在も避難を強いられている未曽有の事故をどう教訓とするか問われている。【水脇友輔】
2013年03月23日 毎日新聞