観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

竹やぶの階段物語

2013-04-23 23:44:29 | 13.4
3年 岩田 翠
 私が家から駅に向かう途中、必ず通る場所がある。我が家ではその場所を「竹やぶの階段」と呼ぶ。名前の通り竹やぶの中にある階段で、コンクリートなど一切ない地面がむき出しの階段である。最近は薄暗い竹やぶの階段にも春が訪れ、ナガミヒナゲシやホトケノザ、オオイヌノフグリが咲き始めた。タケノコもひょっこり顔を出しては、近所のおじいちゃん、おばあちゃんに収穫される。
 竹やぶの階段にはさまざまな生き物が顔を覗かせる。ヘビやトカゲにチョウやトンボ、タヌキやハクビシンも時々姿を現わす。日が昇るとハトやムクドリ、セキレイもどこからともなくやってくる。近所のネコたちは優雅に散歩を楽しんでいる。
 このように竹やぶの階段にはたくさんの生き物たちがそれぞれの時間を過ごしている。毎日のように生き物たちと顔を合わせる中で、竹やぶの階段で出会った生き物たちの物語をひとつ紹介したいと思う。
 ある日の夕方、いつも通り竹やぶの階段を通ると1匹のヘビと遭遇した。始めはあまりにも細く、木の色にそっくりだったため小枝かと思ったが、よく見ると少し動いている。さらによく見てみると顔があった。体長50㎝~60㎝ほどの小さなヘビである。私が驚いて「わっ」と声をあげるとヘビはこちらを見て動かなくなった。私はさらに驚き、そして見られたことにより恐怖を感じ固まってしまった。まさに「ヘビに睨まれたカエル」ならぬ「ヘビに睨まれたヒト」。小さいとはいえ相手はヘビだ。その時は本当に怖かったことを今でも覚えている。30秒ほど睨み合っていただろうか。私は「はっ」と我に返り、再び歩き始めた。ヘビの方はというとまだ固まっている。ヘビの方も驚いたらしい。ヘビとの不思議なひとときであった。

骨をとおして

2013-04-23 16:43:19 | 13.4
3年 加藤美穂

 それは、小汚く薄汚れてはいたものの、滑らかで複雑な形がまるで私に何か訴えかけるかのように私の心を鷲掴みにして放さなかった。
 私は三月の半ばから終わりにかけて、約一週間、金華山のシカの野外調査に参加した。
正直、初対面の人達との共同生活、調査等、初めてのことばかりでこの調査に参加することはすごく不安であった。しかし、研究テーマも決まらず、漠然としていた考えに何かしら得られることが出来るのかと思い、参加を決意した。実際、普段自然を感じることがない私にとって金華山での生活はいろいろなことが新鮮であった。
 野生のニホンジカの観察はもちろんのこと、野生のサルや見たことのない植物の観察、山の歩き方、地図の見方、センサス、死体探し、全てに興味をそそられた。特に心を奪われたのが、島に生息しているニホンジカの骨であった。一週間ほぼ毎日山の中を歩いたが、必ずと言っていいほど毎回骨を見つけることができた。骨を見たのは一年生の時に履修した解剖学の実習のスケッチ以来であったが、なぜだか綺麗に組み立てられた骨格標本よりも、土まみれとなり無造作に放置された骨にとても魅力を感じた。私は骨を見つけるたびに夢中になって散らばっていた骨を袋に詰めた。気が付けばLサイズの袋、3袋分もの量を拾い集めていた。そんな様子から、先生には「ボーンコレクター」とまで呼ばれるほどであった。腸骨・坐骨・恥骨のシンメトリーな形や、中足骨の機械的な形など、見ているだけで心をくすぐられる。こんなにも自分が骨に興味があることをその時初めて実感した。そして、これがきっかけとなり、卒研のテーマも決めることが出来た。
 こうして新たな経験が、新たな自分の発見となり、自分の道を拓くきっかけとなった。
だからこれからも、何事にも恐れずに積極的に挑戦していこうと思う。

どこかから見られている

2013-04-23 15:08:04 | 13.4

4年 朝倉源希

 先日、カモシカの調査で群馬県の嬬恋村に行ってきた。4月の後半で、もうすっかり現地も春だと思っていたのだが、一面雪景色だったので驚いた。気温も日中だというのに6℃しかなく、まだまだ冬が居座っているようであった
 今回の調査の目的は、調査地の下見と今後追うことになる発信機の付けられた二頭のカモシカを確認することである。発信器はカモシカの首に付いており、その発信器から出ている電波をアンテナと受信機を使って探し出す。これはラジオテレメトリー法と呼ばれる方法で、信号の強さと方向からカモシカとの距離と方向が分かる。発信器はそれぞれ違う周波の信号を出しており、信号の強さは最も弱いと「S0」、強いと「S9」と表され、最も強い場合は「S+」と表される。これが出たときはすぐ近くにカモシカがいることを示している。まずはあらかじめ行動圏がだいたいの分かっていた個体を探すことにした。
 現地に到着するとそこにはなだらかな平原が広がっていた。アンテナを振ってみると、受信した信号の強さは「S8」。それほど遠くはない。少し近くまで車で移動し、もう一度アンテナを振った。すると受信機は「S9」を示した。方向も掴めたので、信号が出ていると思われる森林に徒歩で近づくことにした。森林の入り口まで近づき周りを見渡すが、低木が茂っている林内にカモシカらしき姿は見られない。そこでアンテナを振ると受信機は「S+」を示していた。すぐ近くにカモシカがいる。アンテナが電波を受信した方向をよく見渡していると、木の陰からこちらを見ているカモシカがいることに気がついた。カモシカとの出会いはいつもこうで、こちらが気づいた時には既に相手はこちらを見ている。おそらく人に慣れているのか、警戒はしているがすぐに逃げるような個体ではないという印象を持った。
 次にまだ行動圏が分かっていない個体を確認するため、まずはその個体が捕獲された地点に向かった。早速アンテナを振ってみると初めから「S+」の表示が出た。しかし、今回は周りを斜面に囲まれた谷間であるため電波が反射して方向を特定することが難しかったが、なんとか方向を特定して近づくことにした。河原まで下って、アンテナを振り、方向を特定してまた近づく。すぐ近くに確かにいるはずなのだが、見渡しても姿が一向に見えない。こうして2時間ほど探索を続けたのだが、今回は「S+」の表示が出ていてもカモシカの姿を確認することが出来なかった。おそらくこちらが気づいていなくても、きっとあちらはどこかから私を見ていたのだろう。以前カモシカがいることに気付かずに林内を歩いていて、ふとした拍子にカモシカがこちらを見ていることに気づき、ドキッとすることがしばしばあった。
 大抵の動物はこちらに気づくや否や全速力で逃げていくのだが、カモシカはこちらをただじっと見ている場合が多いからである。もっとこれは私がこれまで見たカモシカに対する印象であり、人からすぐに逃げるカモシカもいれば、サルやシカでも逃げない個体もいるだろうが。ともかく、私の見たカモシカはどこか落ち着いていて、悠然とたたずんでこちらを見ている様は、逆にこちらが観察されているようにさえ感じさせる。
 この先も継続的に今回の2頭のカモシカを追うことになるが、もっと彼らを見つけ出す目を肥やしていきたいと思っている。