食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

変貌する野菜流通

2007年06月01日 | 食と農
今日から6月,水無月ですね。この季節,湿度が高くて苦手ですが,農作物や生活に必要な雨水をもたらしてくれます。チョット我慢。

さて,昨日の創立記念日に苦労して書いた原稿を送りました。何の原稿かというと,JA全農ふくれんが出している「福岡の野菜」の夏季号の特集記事です。タイトルは「これからの野菜流通と産地の対応方向」としました。オリジナルな論点は少なく,野菜生産者や農協の役職員を対象とした総説のようなものです。

最近,地産地消のことばかり書いていたので,野菜流通に関する論文を集めることから始めました。すると,最近は加工・業務用需要に産地はどう対応するかという内容のものが多いことが分かりました。

外食産業総合研究センターの推計によれば,食の外部化率は,2002年には44%になっています。この変化は,食の簡便化志向の高まりや単身者世帯の増加など構造的なものと言えます。

当研究室出身のKさんは,主要野菜の品目別用途別需要量を粗食料ベースで推計しています。それによれば,加工原料用割合が高いのは,トマト(39%),はくさい(37%),にんじん(33%),だいこん(32%)です。これらは主として,ジュース,ケチャップ,漬け物用として利用されます。また,業務用割合が高いのは,さといも(38%),たまねぎ(33%),なす(32%),ほうれんそう(31%),レタス(30%)などです。これらは外食や中食用の調理素材として利用されます。

一方,加工・業務用需要は,定時・定量・定質でかつ低価格が求められます。そのため,周年取引が可能な輸入品の割合が高くなっています。Kさんは1990年度と2000年度の加工・業務用需要の輸入割合についても推計しています。それによれば,従来輸入割合が高かったトマト,たまねぎはさらに輸入割合を高め,これまで輸入がほとんどなかった品目においても全般的に高まっています。

野菜の自給率を見てみると,1975年頃まではほぼ100%でした。しかし。1985年のプラザ合意を契機として,輸入農産物が割安で入るようになり,関税も大幅に下がったことから輸入野菜が急増しました。2005年度の野菜の自給率は79%となったのです。

加工・業務用野菜の国産シェアを高めるためには,野菜産地は従来型の家計消費需要の延長ではなく,加工・業務用需要をはじめから意識した対応が必要だとKさんは指摘します。具体的には,実需者から固有の品種,規格,栽培方法が求められ,提示される販売価格水準と自らの生産費を勘案して,低コストで適質の商品を供給する産地態勢の構築が重要になるのです。

場合によっては,従来の品目別野菜部会とは異なった加工・業務用専門農家とその部会の育成も必要でしょう。昨年,博士課程に社会人入学したTさんの報告によれば,自助努力によって,加工・業務用野菜の産地化に成功した農協も少なからずあるようです。

残留農薬のポジティブリスト制度が導入されてから,加工・業務用野菜は国産に回帰しています。ただ残念ながら,農協はそれに十分対応できていないのが実情です。卸売市場流通では単なる委託取引で良かったですが,加工・業務用野菜の取引では,取引企業と規格や仕様とともに価格と数量など綿密な契約を行う必要があるからです。

つまり,農協の販売力と組織力が決め手となります。農協は事業体としてのリスクを負う覚悟がなければ,加工・業務用野菜の取引は出来ないでしょう。農協が農業生産者の信頼を勝ち取り,組合員にとってなくてはならない事業体に脱皮できるのか否かが課題です。また,実需者からも頼りになるビジネス・パートナーになれるのか,いま農協の真価が問われているのです。

わが家の春野菜も薹が立ちはじめました。そろそろ夏野菜にバトンタッチです。


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