チンパンジー「レディ」の“社会復帰”は？

　先日のお昼のワイドショー番組で、札幌市の円山動物園の、転落事故で母親を失った赤ちゃんチンパンジー「レディ」の様子が放送されていた。
　レディは２６日に１歳の誕生日を迎えた。生後２カ月で事故死した母親代わりに、飼育員の祐川猛さんがわが子のように大切に育ててきたのである。生まれたのは昨年２月２６日、以来レディはいつも母エリサに抱きかかえられていた。しかし２カ月後、母エリサが約１５㍍の鉄塔から誤って転落、母親が背中から落ちたため、腕の中にいたレディは無事だったが、エリサは間もなく死亡した。
　母エリサが死んだその日から、祐川さんが母代わりになり、最初の１０日間は泊まり込みで１日６回ミルクを与え、添い寝したという。人肌よりも少し高めの温度で粉ミルクを溶かし、胸にレディを抱えて授乳する。そして、人間の赤ちゃんと同じように、飲み終わったら背中をさすってやって、ゲップが出るのを待ってやるという。祐川さんには８歳と５歳の子どもがいるそうだが、レディを抱くその表情は、まさにわが子を慈しむような父親の顔である。その後は他の職員も加わり、交代で２４時間見守る日々が約１カ月続いたという。
　順調に成長し、当初２キロほどだった体重は今では７キロになったが、人間でいうとまだ乳児で、甘えて離れないため、祐川さんは腕にぶら下げたまま昼食を取ったり、職員会議に出たりしている。テレビで見ると、レディの可愛らしさもさることながら、人間の親子のような微笑ましい姿に心が温まる思いがした。
　チンパンジーの親離れは３歳。そこから親ザルの行動を真似し始め、一人前のチンパンジーになっていくそうで、レディがあまり育ちすぎると、群れの方でも仲間と認識できなくなるので、少しずつ顔を見せて慣れさせ、２年後をめどに同居させようと、現在特訓中だという。この動物園には１０匹のチンパンジーがいる。その群れの中に“社会復帰”するための特訓の手始めとして、まず、ひとりで眠る部屋が作られた。初めてそこへ入れて鍵を掛けたとたんに、レディは泣き叫びながら格子の間から手を伸ばし、祐川さんを追い求める。それは、まるで人間の子どもが母親を追い求めて泣き叫ぶ姿そのもので、見ていても可哀そうであった。泣けど叫べと来てくれないことが分かったのか、やがてぬいぐるみに囲まれて眠れるようになったそうだ。
　動物園では、今後観客の前でチンパンジーたちにレディの「顔見せ」を披露する計画もあるとか。突然の事故で母を失った赤ちゃんチンパンジーが、群れに戻れるのか。レディの“社会復帰”が注目されているという。

　鳥でも動物でも、目が見え初めると、一番初めに見たものを親と思うそうである。犬が猫を、犬がサルを育てるというニュースをよく聞くが、自然界では珍しいことではないのかもしれない。母親を失った動物を、人間が手塩にかけて育て野生に戻すという話はよく聞く。チンパンジーは一番賢い動物だといわれるが、レディはきっと祐川さんから受けた愛情を覚えていて、母性豊かな母親になるだろうなあ。