GR DIGITAL III
ドラッカーのレポートその3
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すぐれた書は、それを読む時々によって表情を変える。
つまり、読者のニーズに対し、その変化を敏感に読み取り、
必要なものを投げかけてくれる。
本書の定義する企業家のどれが現在の私のニーズに応えてくれるかというと、
③の「変化」に対するフレーズである。
変化という言葉はまさに今の出版業界の様相を示しているのではないだろいうか?
戦後、現在の出版構造が作られた。
高度成長期に乗じ、その規模を拡大してきた出版業界であるが、
1970年代あたりから延々と構造的な不安は述べられてきた。
70年代の郊外型書店の出店とFC化によるチェーン展開は、
規模の経済をその命とする二大取次によって
市場在庫額以上の未請求額を抱えるという異様な様相を生み出した。
再販売価格維持制度と委託制度はその様に、
健全とは言い難い出版業界のビジネスモデルの維持を醸成した。
もちろん、経済面だけで出版物を語ることは出来ない。本は文化を創る。
しかし、本書でドラッカーが「出版業界のイノベーション」として挙げているように、
本を「文化物」として扱うのではなく、
顧客を拡げ、「消費財」と同様に扱うことによって
規模の拡大を実現した為に、現在出版されている本が本当に「文化物」と言えるのだろうか?
ここではニワトリが先か、卵が先かという議論になるため、本の文化性については深く追求しないが、
要は自由経済の原理が働かない出版業界に「変化」が訪れているということだ。
構造的な問題は指摘され続けてきたが、それでも業界の中は変わらない。
業界の中を変えるためには、外から変えるしかない。
2010年現在の出版業界に訪れたインパクトは「電子書籍」である。
そして印象的なことは、それは本書で言われるイノベーションの7つの機会のうち、
第七の「新しい知識の出現」に位置する。
つまり、ドラッカーがイノベーションの機会の内、もっとも信頼性と確実性が低いものが出版業界に訪れたのだ。
(過渡期の現状を考えると、訪れようとしている、と言った方がいいかもしれない。)
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