少年の日々

はじめて考えるときのように

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マイ・ジェネレーション

2005年03月09日 | 小説

川越の旭屋書店がつぶれた。ブックファーストが出店してわずか一年、直撃ですね。老舗さんなのにね。悲しいね。


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CUE9

「大江戸夫婦茶碗4月20日~」
「出演―田中未来、歌沢宏…」
時代劇らしい演目の看板を眺めていたら、さらにその奥で自分の親くらいの年齢の人達が忙しそうに動き回っていた。背景になるベニヤ板にペンキで空を描いている人や、照明器具の手入れをしている人、入り口のカウンターを作っている人…
一通り見回して、何気なく中にいる人の数を数え出したとき「なにか用?」と、タオルを肩にかけたおばさんに声を掛けられた。
「あ、いや、演劇って、大人もやるんですか?」
「はぁ?」
ちょっと訝しそうな表情を浮かべた後、にかっと笑って「興味ある?」と言われたので「や、ないです、全然!」と断ってからまた走り出した。

次の日学校に行くと、半井が朝っぱらから僕のクラスの前で待っていた。
「よう!なに、英語の辞書でも忘れた?」
先に話し掛けられた半井は少し戸惑い気味に口を開いた。
「あのさ竹田。俺、昨日から演劇部のサロメ探してるんだけど…」
「おぉ、俺も。」
「お前のクラスに伊藤可奈って子いる?」
「伊藤?」
昨日保健室の隣ですれ違った伊藤さんという女の子を思い出したが、ステージ上のサロメとイメージが一致しない。
「いるけど、伊藤さんがサロメ?」
「ああ、うちのクラスの演劇部に聞いた。」
釈然としないまま、僕は自分の席に向かった。真後ろの席には確かに昨日すれ違った伊藤さんがいて、朝から本を読んでいる。整った顔立ちをしていて小柄なところは確かにサロメのような気はするが、それは僕が考えていたサロメ役の女の子とは似ても似つかない。鞄を机の上に置き、目線を合わせずに話し掛けた。
「伊藤…さん」
読んでいた本から目を上げ、きょとんとした顔で僕を見た。まだ頭が本の中の世界に取り残されたまま、うまく現実に馴染む事が出来ないような表情をしている。
「あの、半井ってやつが用があるみたいなんだけど、ちょっといいかな?」
何も言わずに僕の後についてくる彼女に「きのう、劇の途中で邪魔してごめん。」と謝ったら、伊藤さんは初めて口を開いて
「あぁ、ナカライ君て昨日の相方の?」
「そう、覚えていてくれた?あいつ。」
そう答えながらも僕の頭は伊藤さんの声とサロメの声を照合させようと目まぐるしく働いていたのだけれど、今でも頭に響いてくる「だれ?」という静かな、ココロに響いてくる声と合致しない。僕の記憶中枢は狂ってきたのかもしれない。
廊下では半井が妙に神妙な顔つきで待っていると思ったら、伊藤さんが目の前にくるなり
「伊藤さん、僕と付き合ってください!」
と言った。

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ふしぎな図書館

2005年03月06日 | 小説

僕は何故か学生時代法学部で政治を勉強していて、今思うと文学か哲学の勉強を専攻していればよかったなあ、何て思うけど、やっぱりそういうのは趣味で学んでいるから楽しいのかな。


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CUE5

「こんにちは、演劇部です。昨年秋の市大会で上演した演目『サロメ』より最後の一幕をご覧ください。」
司会の女子がそう告げると、舞台は暗転し張りぼての王座が浮かび上がり、その前でひざまづく彼女の姿がスポットに照らされた。もうそこは公立中学校の体育館ではなかった。

―(王)おお!サロメ王女の今宵美しく見える事はどうだ!
 どうしてもお前の舞が見てみたい。舞うてさえくれるなら何でも欲しい物をくれてやる。
 この国を半分でも。

ざわつく客席を気にすることなく、王の役をしている男子の台詞が語られた。
その言葉にサロメ役の彼女が答える。

―(サロメ)お誓いなさいますか?
―(王)おお、誓言をするぞよ。
 この命
 この冠
 神々にかけて。
―(舎人)ヘロデ王様!!
―(女王)あなたっ、サロメは王女でですよ!?
 それを遊び女のように踊れとは・・・

生まれて初めて舞台の袖からのぞく細長い舞台。この切れっ端みたいなのから僕は目が離せなくなっていた。

―(サロメ)では舞いまする!
 約束は私の望むままのご褒美!

サロメが舞い始めると、照明が赤に切り替わり、背景に描かれた月が不吉に彩られた。

―(サロメ舞ながら)
 みんなが私を見る。 
 血のつながらぬ義父ヘロデ王、
 守衛の大尉に舎人たち。
 皆が私を見つめすぎる。
 (サロメ、ヨハナアンの閉じ込められた井戸の鎖を引き上げながら)
 なのにお前だけは決して私を見ようとはしないね?
 涸井戸の底に閉じ込められた、憎い憎い愛しい預言者ヨハナアンよ。

―(SE)井戸が上がる音。
 同時に後方よりスポット。ヨハナアンのシルエットが映し出される。
 
―(サロメ)ヨハナアン、一度でいい私のことを見ておくれ。
 そなたの黒髪、紅い唇に触れさせておくれ。


 



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ROCK ME BABY

2005年03月06日 | 小説

忌野清志郎の唄を聴いて、そいうえば最近政治について唄う人は売れないなあ、何て思った。やっぱ若者は政治になんて興味ないしね。俺もあんまり政治に興味はないな、思想を持ったところで笑われる今日のニッポン、自分の夢や信念や恋の話の方が優遇される。


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CUE4

身体測定から数日後に開かれた新入生歓迎会の中に部活紹介のコーナーがあって、練習に顔を出しても出さなくても関係ない存在の僕は自らその役を買って出た。半井と一緒に体育館の入り口に通じる廊下に座っていたら、満開だった桜は既に八分咲きになっていた。身体測定の時より今のほうが時間は経過していて、僕の生活も変わらずに回っている。こうやって時間は過ぎ去っていって、気がついたら中学を卒業して、高校生になって、大学生になって、就職して結婚して、子供ができて、その子供たちに老後の面倒を看てもらって死ぬんだろう。そう考えると、なんで僕らはみんなこう、毎日笑ったり怒ったり喜んだりするんだろう。そんなことにいったい何の意味があるんだ。

「うちらの出番いつ?」
不意に半井に声を掛けられ、手に持ったまましわくちゃになっていたプログラムを開いた。
「えーと、サッカー部がさっきやったから、テニス部でしょ、音楽部、体操部、
演劇部、ハンドボール部…」
「げ、演劇部のあとかよ、だっりー」
「あぁ、時間喰いそうだなぁ」
「てか、うちの学校に演劇部なんかあったんだ」
「はは、誰がいるのかまったくわからん」
手に持ったハンドボールを人差し指の上で器用に回しながらナカライは体育館の方を向いた。
「新入生の時って、確か三年の先輩がすげぇ大人に見えたよな。」
「うん、確かに」
「なってみると案外、普通だね、うちら。竹田が大人には見えん。」
「いや、お前もね。」
半井と話しながら、こうやって新入生を基準にして時間の経過を感じのも面白いなぁなんて考えていると、
「それじゃ、ハンドボール部の人は舞台袖に移動してくださ~い。」
という係の人の声が聞こえたので慌てて立ち上がった。

ざわつく体育館に入ると、新入生が真新しい制服に身を包んでステージ上で部活の紹介をする先輩達の姿を観ていた。部活をもう既に決定している奴もいれば、ステージ上に自分の学校生活を費やす価値のある何かを発見するために熱い視線を送っている奴もいる。
並べてある椅子の横を通り、舞台袖のドアを開けるとすでに演劇部の連中が控えていた。それぞれが衣装に身を包み、緊張の顔で冷や汗を流している光景ははっきりいって異様に思えるが、その中に同じクラスの中山加奈子の姿を見つけた。
「お、中山~」
と、肩を叩こうとした瞬間、伸ばしかけた右腕を摑まれた。

「舞台袖では役者に話しかけないで。」

とても静かな声で話しかけられた。揃った前髪から覗かれる瞳がひどく冷たく見える。
「あの人はもう、中山さんじゃないよ。」
「あ、ご、ごめ・・・」
まるで異世界の住人のように、体育館の舞台袖とは異質の雰囲気を醸し出している彼女に気圧されたまま誤ろうとした時、
「おい、知ってる奴見かけたら声くらい掛けてもいいだろ?」
と半井が彼女の肩を摑んだ。
「何が役者だよ。ただの同じ中学の4組の女子じゃん。」
「触らないでよ!」
語気を荒げているのに相変わらず静かな声で彼女は言った。
「たったの数十分だけど、こっちは命掛けてんだよ!」
摑んだ肩から自然に半井の手が離れた。中山が中山でなくなるように、彼女も彼女ではないらしい。
「あ、あの女、誰だ?」
僕も半井も呆然としたまま、古代ギリシア人のような衣装を着た彼女がステージ上に歩いていく姿を見送った。
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ゴールド

2005年03月05日 | 小説

さて、今日は埼玉支店バンドの初練習、行ってきます。


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CUE3

ハンドボール部に仮入部という形で一週間ほど練習に参加していた中学一年の春、僕はどちらかというと真面目にメニューをこなしていく事に力を入れるタイプで、顧問の先生や先輩に言われたことを実行しない奴のことが理解できずにいた。基礎練習や筋トレがつまらないことはわかるんだけど、そういった下地があるからこそ自分の実力が向上すると信じきって疑わなかった。
そんな僕の考えとまったく反対の立場に半井はいて、気がつけば練習をサボってばかりいる半井に僕は最初反発して口も聞かなかったのだけれど、それでも試合に出ると活躍するこいつと何故か仲良くなった。

「はい、次の組!」
と笛の音とともに僕の名前と半井の名前が呼ばれ、垂直飛びの測定板の前に立った。僕は左手に、半井は右手にチョークの粉をつけ、腕を伸ばし板の高さを調節した。リズムを取るように軽快に足を踏み鳴らしている半井を背に、僕は深く腰を落とし、開始の笛を待っている。

ピィーという合図で、両手を後方に持っていき、振り子の要領で勢いをつけると同時に全身のバネを使う。筋肉が収縮し、反発力も持つ最高のタイミングで地面を蹴った。
身体が浮かび上がり、白いチョークが着いた左手の指先が深緑の板に付いた瞬間、僕の後方で飛んだ半井の指先が僕の記録を超えた。
「竹田51。半井57。」
両手をひざについて、前かがみになっている僕に
「利き手側なら、お前あと5センチ飛べたよ」
と半井に言われた。
「利き手側なら…」

僕は自分の右手をまじまじと眺めていた。そこには僕の中学校生活が凝縮されているように見えた。敵からゴールを守ってきたこの手が、今では守らなければならない存在になっている。まったく同様に、僕の身体は日々変化し続けていて、今日までは健康だったこの身体が明日どうなるとも分からない。でも不思議な事に、自分の身体がどうなるか分からないのと同じ感覚で、僕自身の時間というものは何事も無く当たり前のように過ぎていくようにも思える。僕の存在はハンドボール部から消えたけど、ハンドボール部は存続しているし、満開に見える桜の花はもうすぐ散って、また来年満開に咲くだろう。




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CUE2

2005年03月03日 | 小説
うーん、風邪がちょっとよくなってきた。

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体育館の扉をくぐり、岸田に「とっとと回って終わらせちゃおうぜー」と言われたとき、僕は頭の中で中学校生活自体がすでに終わってしまったと呟いた。ギプスの外れたこの右腕は今では何でも無い様に見えるのに、去年の11月に僕からハンドボールを奪った。
秋の公式戦、ゴール前でバランスを崩し覆いかぶさってきた敵の身体ごと、二人分の体重を右手一本で支えてしまった。
「ギプスは4ヶ月で取れるけど、激しい運動は最低1年は控えて下さい」
激痛とともに運ばれた医者からそう告げられた。僕の右腕を治すには時間を掛けるしか無いようで、残り半年間の部活生活に復活する事は出来ないようだ。

体育館の中では3組の連中が既に身体測定の課程を半分ほど回っているようで、暇を持て余した半井に上体反らしの真っ最中に「よ、竹田~」と声を掛けられた。オットセイのような姿勢で「こ、腰が…」と呻く僕の周りからは笑い声が起こった。
気を取り直して垂直飛びの列に並びながら、
「50メートル走!」
「6秒8。」
「勝った!6秒6.」
「血圧!」
「80.」
「えーと…」
と記録を比較している半井航(なからいわたる)は同じハンドボール部で、多分学校で最も気が合う仲間だ。3年間とうとう同じクラスにはなれなかったが、部活という時間を共有した経験は教室で並んで机に座って問題を解いている時間よりもかなり濃い。

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