少年の日々

はじめて考えるときのように

ROCK ME BABY

2005年03月06日 | 小説

忌野清志郎の唄を聴いて、そいうえば最近政治について唄う人は売れないなあ、何て思った。やっぱ若者は政治になんて興味ないしね。俺もあんまり政治に興味はないな、思想を持ったところで笑われる今日のニッポン、自分の夢や信念や恋の話の方が優遇される。


>>>
CUE4

身体測定から数日後に開かれた新入生歓迎会の中に部活紹介のコーナーがあって、練習に顔を出しても出さなくても関係ない存在の僕は自らその役を買って出た。半井と一緒に体育館の入り口に通じる廊下に座っていたら、満開だった桜は既に八分咲きになっていた。身体測定の時より今のほうが時間は経過していて、僕の生活も変わらずに回っている。こうやって時間は過ぎ去っていって、気がついたら中学を卒業して、高校生になって、大学生になって、就職して結婚して、子供ができて、その子供たちに老後の面倒を看てもらって死ぬんだろう。そう考えると、なんで僕らはみんなこう、毎日笑ったり怒ったり喜んだりするんだろう。そんなことにいったい何の意味があるんだ。

「うちらの出番いつ?」
不意に半井に声を掛けられ、手に持ったまましわくちゃになっていたプログラムを開いた。
「えーと、サッカー部がさっきやったから、テニス部でしょ、音楽部、体操部、
演劇部、ハンドボール部…」
「げ、演劇部のあとかよ、だっりー」
「あぁ、時間喰いそうだなぁ」
「てか、うちの学校に演劇部なんかあったんだ」
「はは、誰がいるのかまったくわからん」
手に持ったハンドボールを人差し指の上で器用に回しながらナカライは体育館の方を向いた。
「新入生の時って、確か三年の先輩がすげぇ大人に見えたよな。」
「うん、確かに」
「なってみると案外、普通だね、うちら。竹田が大人には見えん。」
「いや、お前もね。」
半井と話しながら、こうやって新入生を基準にして時間の経過を感じのも面白いなぁなんて考えていると、
「それじゃ、ハンドボール部の人は舞台袖に移動してくださ~い。」
という係の人の声が聞こえたので慌てて立ち上がった。

ざわつく体育館に入ると、新入生が真新しい制服に身を包んでステージ上で部活の紹介をする先輩達の姿を観ていた。部活をもう既に決定している奴もいれば、ステージ上に自分の学校生活を費やす価値のある何かを発見するために熱い視線を送っている奴もいる。
並べてある椅子の横を通り、舞台袖のドアを開けるとすでに演劇部の連中が控えていた。それぞれが衣装に身を包み、緊張の顔で冷や汗を流している光景ははっきりいって異様に思えるが、その中に同じクラスの中山加奈子の姿を見つけた。
「お、中山~」
と、肩を叩こうとした瞬間、伸ばしかけた右腕を摑まれた。

「舞台袖では役者に話しかけないで。」

とても静かな声で話しかけられた。揃った前髪から覗かれる瞳がひどく冷たく見える。
「あの人はもう、中山さんじゃないよ。」
「あ、ご、ごめ・・・」
まるで異世界の住人のように、体育館の舞台袖とは異質の雰囲気を醸し出している彼女に気圧されたまま誤ろうとした時、
「おい、知ってる奴見かけたら声くらい掛けてもいいだろ?」
と半井が彼女の肩を摑んだ。
「何が役者だよ。ただの同じ中学の4組の女子じゃん。」
「触らないでよ!」
語気を荒げているのに相変わらず静かな声で彼女は言った。
「たったの数十分だけど、こっちは命掛けてんだよ!」
摑んだ肩から自然に半井の手が離れた。中山が中山でなくなるように、彼女も彼女ではないらしい。
「あ、あの女、誰だ?」
僕も半井も呆然としたまま、古代ギリシア人のような衣装を着た彼女がステージ上に歩いていく姿を見送った。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿